不可解な熱
1
(加賀谷視点です)
冴えない奴だと思った。
誰かに声を掛けられてもいつも俯いていて、はっきりと返事さえ出来ない。
うじうじしていて根暗。
会社と家との往復の毎日をただ淡々と過ごすようなつまらない男。
だが仕事だけはしっかりしていて、何かを頼んだら必ずこちらの要望以上の仕事をする。
加賀谷にとって高田諒という男はそんな印象でしかなかった。
そんな暗くてつまらないだけの男の印象が変わったのは何時ごろだろう。
ああ、そうだ。
田村係長と笑いながら談笑する高田の姿を見たときからだ。
笑顔など見たこともない。
いつも俯いているからまともに顔も見てなかった。
それが、田村の前では花が綻ぶような笑顔を見せている。
胸がむかむかした。
どす黒い染みが胸の中に広がるような不快感。
それと同時に笑った高田の顔が想像以上に柔らかくて可愛く見えて驚かされた。
だけどそれだけだった。
笑いもしない、誰かと冗談を言い合う余裕さえない人間だと思っていた高田が田村の前では笑顔を見せ、頼り切った顔が出来るのだとただ確認しただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
だがだんだんと高田に対する印象は変わっていった。
いつしか高田を目で追うようになっていった。
いつも静かに控え、自己主張もしないくせに何故か自分の視界に入る高田に苛ついた。
なのに視界から消えると焦燥感を感じる。
意味不明な胸のざわつきに加賀谷は戸惑いを感じていた。
何かあると自分には決して頼りもしないのに、田村には助けを求める高田にむかつき、それに答える田村に苛々した。
それでも高田が加賀谷に憧憬の目を向ける時、言いようのない高揚感を感じる。
こいつは俺に好意を持っている。
憧れの先輩だと思われていることに心が沸き立ち、高田に愛しささえ感じた。
加賀谷に何かを求めるでもない、ただその存在に焦がれていると目で表す高田に他の人間にはない何かを感じた。
そして、戯れに夜の会社で秘書室の女を抱いた時、どうしてかは知らないが会社に戻ってきた高田が自分たちの情事を目撃して逃げたのに気が付いた。
今まで抱いていた女への興味も、いきり立っていた自身も一瞬に萎えた。
こんな場面を見られるなんて、真面目で潔癖そうなあいつにはショックだっただろう。
そして何より、憧れを抱いていた加賀谷への思いも消え去ったかもしれない。
そう思った瞬間、腹の底がカッと熱くなった。
ぐつぐつと煮えたぎるような熱さに固さを取り戻したペニスで女の奥を抉り、責め立てる。
快感に蕩けそうな頭に浮かぶのは高田の顔。
そして見たこともないあいつの裸体。
抱いたらどうなるだろう。
泣くのは間違いないだろう、だが優しくしてやれば俺に縋りつくんじゃないか・・・・。
あいつの中はきっときつい、それを解してとろとろに溶かして・・・・・。
女を抱きながら頭ではあいつを犯した。
触れている肌があいつのものだと思い込むと堪らずに頭が沸騰する。
触った事はないが間近で見るとあいつの肌は女顔負けにきめ細かくて柔らかそうだった。
白くて染み一つないすべすべのあの肌に俺の証を残したい。
頭の中の高田を思うがままに蹂躙しながら果てた時、加賀谷は自分の浅ましさにぞっとした。
あいつは違う。
こんな風に汚していい人間じゃない。
何故か、そう思った。
俺のような穢れた男があいつに触れたら、あいつまで穢れてしまう。
純粋で多分女も知らないようなあの男は、俺を純粋に先輩として、思ってくれているんだ。
その俺があいつを穢してどうする。
そう思えば思うほど頭の中にはあの冴えない男が居座り、それに苛々する。
人の顔もまともに見れず、地味な男に自分が振り回されているようで、それを認めるのも嫌だった。
だからこのままでいい。
ただの会社の同僚として、いい先輩と可愛い後輩でいい。
それ以上は望まない。
そう思っていた。
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