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不可解な熱
3


「これ、伝票切っておいて。頼んだよ。」
突然横から聞こえた加賀谷の声に諒はハッと顔を上げた。
先月の出張の経費の精算なのだろう、数枚のレシートと領収書を手に加賀谷が立っていた。
顔を赤らめた諒を怪訝そうに見て、加賀谷はレシートを諒の机に置いた。
「わ・・・・、分かりました。」
すぐに俯き、何とかそれだけ言うと諒は手に滲んだ汗で両手を擦り合わせた。
「高田っていつも下向いてるよな、もっと顔上げろよ。そんなんじゃ人生つまんないだろ。」
諒の肩をポンと叩き、加賀谷は笑いながら自分の席に戻って行った。
営業成績も群を抜く加賀谷は毎日忙しくしている。
だがその華やかな私生活もまた会社の女性達の噂の的だった。
どこそこの課の女性と付き合っているだとか、不倫をしているとか。
ほとんどがつまみ食いらしかったが、それでも女性達は恋人の座を求めて彼に縋りつくらしい。
あの時見た美人秘書とは今も付き合っているのだろうか。
あれ以来彼女との噂を耳にすることもなく、諒は燻った心を持て余していた。
もちろん自分が加賀谷の隣に並べるなどという大それたことは考えていない。
ただ見詰めていられればそれでいいと思う。
加賀谷が自分のような冴えない、しかも男に興味を持つなど有り得ない。
だからこの恋は報われることなく消えていくのだ。
それでもいい。
同じフロアで仕事ができ、その姿を時折垣間見れるだけで諒は満足だった。




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あきゅろす。
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