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不可解な熱
2



「何を、怒っているんですか?」

情事の後、動けない諒を抱き上げて身体を洗ってくれながらも、憮然としたままの加賀谷に諒は恐々訊ねた。

肌に触れる手は優しいのに、どこか不機嫌な加賀谷に諒は不安を感じる。

「なんでもねぇよ・・・、ほら髪流すから下向け。」

低い声でそう言われ、諒は言われたままに俯いた。

熱いお湯をゆっくりと流しながら泡のついた髪を加賀谷が流してくれる。

その手つきは泣きたくなるほど優しい。

泡を落としきると次は加賀谷が愛用している高価なトリートメントをされ、それが終わると今度はスポンジで身体を洗われる。

毎日のこととはいえ、やはり慣れない諒は顔を赤くして目を固く閉じた。

「今日ミーティング室に二人で篭って何を話していたんだ・・・。聞けば俺がいなかった2時間ずっと二人きりだったらしいじゃないか・・・。」

感情を抑えるように低く呟く声に目を見開くと、こちらを睨み付ける視線とぶつかった。

「何って・・・、明日の新しい契約の書類を纏めたり、派遣社員の研修の事とか、相談してて。」

「それに2時間も掛かるのか?だいたいそんなことわざわざ個室に篭る必要もないだろう。」

「今日はみんなバタバタしてたから・・・、静かに話せるのあそこしか。」

加賀谷が営業で出ている間に田村と二人きりになったことを怒っているのだと気づき、諒は溜息混じりに説明した。

だが納得できないのか顔を顰めたまま加賀谷は諒の身体をスポンジで擦る。

「あいつと二人きりになどなるなと俺は言った筈だ、しかも俺の居ない時にこそこそしやがって・・・。」

ギリギリと歯軋りしながら唸る加賀谷に諒は黙って俯いた。

こそこそなんてしていないし、田村とは仕事の話しかしていない。

何も心配するようなことはないのに・・・。

「田村さんは、僕に仕事を教えてくれているだけです・・・。疚しいことなんて何も・・・。」

「そんな事はどうでもいい!お前が他の男と二人きりに個室に居る事自体が俺は気に食わないんだ!」

浴室に響く声で怒鳴られ、思わず身を竦めた諒に舌打ちして加賀谷は泡のついた手で諒の髪を掴んだ。

「お前はだいたい隙があり過ぎるんだ・・・・。いいか?あの男はお前を抱きたいと思ってる。俺から奪いたいと狙っているんだ。そんな男と二人きりになどなるな。」

真正面から真剣な眼差しで見据えられ、諒は驚いて瞬きした。

田村から確かに好きだと言われたことはある。

だがあれ以来そんな素振りを田村が見せることはない。

「加賀谷さんの考えすぎです・・・、田村さんは僕のことそんな風には。」

「見てないって?どこまで鈍感なんだよお前は。」

ハーと深く息を吐き、加賀谷は気を取り直したように諒の身体をシャワーで流し始めた。

「とにかく、他の男に隙を見せるな。他の男の前で笑うな、それから弱気な顔も絶対見せるな。それから・・・。」

「加賀谷さん・・・。」

呆れて胡乱な目をする諒に加賀谷は苦虫を噛み潰したような顔になる。

加賀谷の目はどうなっているのだろうかと諒は首を傾げたくなることが多々ある。

顔も十人並みでどこを見たってそこらへんにいる普通の男でしかない自分にそうそう誘惑などあるわけもない。

「心配なんだよ・・・、時々堪らねえ。お前がこうして俺と居てくれるのは本当は同情なんじゃないかとか・・・、本当は田村のところに行きてぇんじゃねえかとか・・・。考え出すと止まらない。」

明るい浴室の中で暗く影を落とした加賀谷に諒は胸を突かれた。

何度も好きだと愛していると心を伝えても、加賀谷の過去が諒を心底信じることを未だに怖がっているのだろう。

無条件に信じていた母親に捨てられた子供、そして再婚の為に捨てられた。

「僕は加賀谷さんが・・・本当に好き・・・。誰より好き。絶対に離れないから、僕を信じて。」

そっと俯いた加賀谷の頭を抱き寄せ、ぎゅっと腕に力を込めた。

すぐに背中に加賀谷の腕が回される。

そのまま二人ともしばらく動かなかった。





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あきゅろす。
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