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不可解な熱
10


『そろそろ返事を聞こうかと思ってね、答えは出たか?』
仕事が終わり、直帰した加賀谷に呼び出されて部屋に向かう途中に田村から携帯に電話があった。
立ち止まり、田村の声に耳を傾けながら諒は加賀谷のマンションを見上げた。
『悩む気持ちは分かる、まだ軌道に乗るかも分からない職場に来るのは不安もあるだろう。だが必ず軌道に乗せてみる。』
「係長・・・、あ・・・田村さん、どうして僕を誘ってくれるんですか?他にたくさん優秀な人はいます。」
そう言った諒の言葉に電話の向こうで田村が笑った気配がした。
『お前は優秀だよ、営業がほとんどの資料をお前にさせていたのは知っている。丁寧で正確で間違いのない書類をお前は短時間で仕上げる。俺が必要としている
のはそうゆう人間だ。』
事務員はあまり仕事で褒められることも、認められることも少ない。
ましてや男で冴えない諒を他の女子事務員と同じように褒めてくれる社員などいない。
初めて認めてくれた田村の言葉に諒は嬉しくて口を引き締めた。
「ありがとう・・・ございます。でも、もう少し・・・。もう少しだけ返事を待って下さい・・・。お願いします。」
見えないと分かっているのに頭を下げて諒は田村に伝えた。
また電話するという田村にまたお礼を言って、諒はマンションのエントランスへと足を踏み入れた。
さすがはエリートサラリーマンの加賀谷らしく、高そうなマンションに諒は何度来てもしり込みする。
エレベーターに乗り込み、加賀谷の住む4階を押して諒は壁に凭れて深く息を吐いた。
こうして抱かれる為に加賀谷の元へ通う自分はなんて滑稽なのだろう。
脅されて、なんてただの言い訳にしか過ぎない。
自分でも認めたくはないが、どんなに酷く扱われても諒が加賀谷に会いたいのだ。
そして少しでも加賀谷を慰めたいと傲慢な事を考える。
エレベーターを降り、諒は加賀谷の部屋のインターホンを押した。
「・・・・・あれ?」
いつもならすぐに応答があり、扉が開かれるのに今日はシーンと静まり返っていた。
携帯に電話があった時、確かに加賀谷は自宅から電話を掛けていた。
どうしようかと諒が逡巡していると、インターホンから加賀谷の声が聞こえた。
初めて来た時に渡された合鍵を使って入れと言われ、その言葉通りに諒は鞄から鍵を取り出した。
合鍵など要らないと言ったにも関わらず無理やり持たされた鍵。
何故か鍵穴に入れたとき、手が震えた。
「加賀谷さん・・・・?」
玄関に入り、声を掛けたが加賀谷は姿を現さず、諒は仕方なく靴を脱いで部屋に上がった。
リビングにも加賀谷はおらず、諒は溜息を吐いて寝室へと向かった。
「・・・!!」
寝室の扉を開け、中に入ろうかとした諒の目に加賀谷と知らない男が裸で抱き合っている姿が飛び込んできた。
男は加賀谷の猛ったものを一心にしゃぶり、扉が開いた事も気づいていないようだった。
だが加賀谷は立ち竦んだ諒に暗い視線を投げつけた。「お前も混ざりたいか?抱いて欲しいなら抱いてやる・・・・。」
ニヤリと哂った加賀谷に諒は寝室の扉を勢いよく閉め、部屋から飛び出していた。




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