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恋狂い
9


あれから柊の束縛は激しさを増した。
監視役の男に話しかけただけで激昂し、真澄が庭を眺めているだけでも憤怒の表情を見せる。
雁字搦めに縛り付けられ、真澄は気が狂いそうになる。
いっそ何も分からないほどに狂ってしまえれば・・・・。
そう思うほどに柊は真澄を拘束していた。
だが今日の柊は何故か機嫌が良かった。
楽しそうに笑いながら真澄を膝に抱き上げる。
そして真澄の耳に口付けを落としながら囁いた。
「いい所へ連れて行ってやろう。久しぶりの外出だ、嬉しいか?」
柊の言葉に真澄は瞠目する。
この家から真澄が出る事を禁じていたのはこの柊本人だ。
なのに今日は一体どうしたのだろう。
訝しがっている真澄を余所に、柊は真澄を急きたてて立ち上がる。
「面白いショーがある、お前にも見せてやろう。」
笑う柊の顔に残酷さが一瞬過ぎる。
じっと柊を見詰めていると、柊は笑って真澄の腕を取り歩き出す。
外に出ると光が眩しくて真澄は目を細めた。
久しぶりの外の空気。
最近では庭に出る事さえ許されなかったせいで、真澄は開放感さえ感じていた。
日の光が心地良い。
目を閉じて光を顔に受ける。
こちらを見詰める視線を感じて柊を見ると、何故か目を反らされた。
そして止めてあった車へと乗せられた。
「何処へ・・・・・?」
少しの不安を感じて柊を窺うと頭を抱えられその胸に寄せられた。
「楽しいところさ・・・・、お前の為に用意させた最高の催しだ・・・・。」
柊の声が深く真澄の心へと滲みこむ。
そして車は柊がいう最高のショーへと真澄を導いていく。



連れてこられた先は煌びやかなネオンが光る大きな建物だった。
風俗関係の店がテナントとして入っている建物の地下に柊は真澄をいざなう。
地下の通路は不気味な雰囲気を醸し出しており、真澄は眉を顰めた。
通路の端に大きな扉が現れた。
その扉に手を掛けて、柊は真澄を振り返る。
「さぁ、お前の為だけに用意させた。存分に楽しめ・・・・・・。」
腕を引かれ、室内に入ると薄暗さに真澄は怯えた。
異様な雰囲気が室内を包み込み、そして熱気が充満していた。
「何・・・・?」
今まで踏み入れたことのない場所に、真澄は思わず柊の腕を掴んだ。
その手を嬉しそうに見て柊は真澄の肩を抱く。
広々とした室内はよく見ると豪奢に飾られ、いくつものテーブルがあった。
そのテーブルを隠すように背の高いソファが周りを囲み、座ってしまえば周りからは見えないようになっているらしかった。
そして置くにはステージのような物があり、まだ暗幕で覆われていた。
柊にテーブルまで連れて行かれ、ソファに座らされるとすぐに唇を塞がれた。
「んっ・・・・・・。」
下唇を舐められ、真澄は羞恥に顔を赤くした。
そんな真澄を見詰め、柊は暗い笑みを漏らす。
「ショーの始まりだ・・・・・。」
突然ステージに光が当てられ、暗幕がゆっくりと上げられる。
そこに現れたのは十字架に縛り付けられ、目隠しをされた裸の女。
「・・・・・っ!」
想像もしていなかったものに真澄は目を反らした。
だが柊に顎を掴まれ、顔をステージへと向けられた。
「よく見ろ・・・・。お前の為のショーだ・・・・・。」
目を硬く閉じる真澄に柊は命令する。
うっすらと目を開けると縛り付けられた女の身体に数人の男が群がっている。
そして目隠しを取られた女の顔を見た時、真澄はそれを信じられない思いで見詰めた。
心臓が止まる。
周りの音が全て消えうせたような気がする。
衝撃に耐えられず、真澄は叫び出した。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!佳代っ・・・・・!佳代おおおおおおおっ!!」
磔にされ、男達に蹂躙されていく恋人の姿に真澄は走り出した。
だがすぐに黒服の男達に捕えられ、行く手を阻まれて真澄は暴れた。
目の前では焦点の合わない目を彷徨わせて男達の指に喘ぐ恋人。
「佳代っ!何故こんな・・・・・・っ!」
床に押し付けられながら真澄は叫んだ。
綺麗だった髪は短く散切りにされ、正気を失った佳代の姿に真澄は気が狂いそうなほどに堪らなかった。
手を伸ばせば届くところに居るのに、助け出すことさえ出来ない己が酷く惨めだった。
「お前の可愛い女はもう居ない・・・・、居るのは狂気に身を落とした女だ。もう正気に戻る事はないだろう・・・・。」
黒服を退け、柊は真澄の前にしゃがみ込む。
真澄の絶望に染まった目を覗き込み、自嘲気味に笑う。
「これで分かったか?お前が誰かを想う度に、俺はこんな事を繰り返すだろう。お前が俺を拒否すればするほど、誰かがお前のせいで不幸になる。この女みたいにな・・・・・。」
そう言う柊の目にこそ、狂気の色が見え隠れするのに真澄は愕然とした。

本当に狂っているのは・・・・・、誰・・・・・?



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