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恋狂い
8


寝室に連れてこられ、ベッドに放り出されて真澄は柊を睨みつけた。
だが柊の顔を見て真澄は恐怖に慄いた。
今までも恐ろしい顔は見てきたが、これ程に見る人を恐れさせる顔は見たことは無い。
般若のように顔を歪め、どす黒い影をその背に纏って柊は真澄に圧し掛かってくる。
「いや・・・・・、嫌だ・・・・・・。」
真澄はがくがくする足をなんとか動かし、ベッドの上で柊から遠ざかろうと身を翻した。
だがすぐに足を取られ、無様に引き摺られる。
「やっ・・・・・・!」
「うるせぇな・・・・・。」
タオルを口に銜えさせられ、手首を括られて動きを封じられた。
真澄の目が縋るように見つめてくるのに、柊は残酷な表情のまま真澄の服を引き裂いた。
「んっ・・・・・・!」
服を全て剥ぎ取られ、露わになった肌に柊が手を這わせる。
真澄の震えを感じ取って柊は顔を歪ませた。
「俺には見せたことねぇよなぁ・・・・。なのに大田には簡単にあんな顔をするのか。」
柊の呟きに真澄は眉を寄せる。
自分は笑うことさえこの男の許可がいるのか?
柊はそのまま真澄の身体を押し倒し、胸の小さな飾りに舌を這わせる。
「ふ・・・・、んんっ・・・・・。」
柊が歯を立ててチロチロと舌で擽ると真澄の腰が震えた。
感じたくなどない。
だが柊の的確な愛撫は簡単に真澄を快感へと導く。
そんな自分の身体と心を真澄は嫌悪した。
「お前の立場を思い出させてやる・・・・・・・。」
獰猛に歪む顔に、真澄は絶望の淵を見た気がした。




一体何時間こうしているのだろう。
飽く事無く求める柊の欲望は止まる事を知らない。
体中を弄られ、手や唇で何度も絶頂まで追い上げられた。
朦朧とする意識の中で、真澄はひたすらに恋人を想った。
「こっちを見るんだ!もうこの身体も心も全てお前の自由になるものは一つも無いっ。」
真澄の頬を打ちつけながら柊が怒鳴る。
「俺の物だ・・・・・・、お前を自由になどさせない・・・・。いいか、絶対に俺の手の内からは逃れられないんだ!」
柊の恫喝が真澄の脳裏に響く。
反射的に顔を振り、柊の言葉を否定した。
「・・・・・・!!」
胡乱な目で柊を見詰めると、言葉を詰まらせ、恐ろしく凶暴な顔を引き攣らせていた。
殺意を感じさせるほどの眼差しに、真澄はそれでもいいと思った。
このままこの男の籠の中で生きているのか分からない生活を強いられ、会いたい人にも会えないのなら、殺してくれた方がましだと・・・・。
「そんなに俺が嫌いか・・・・・・?くっくっく・・・・・、真澄。お前をどうしてやろう・・・・。」
狂気じみた哂いを漏らしながら柊は真澄を見据えた。
真澄は何故これほどの男が自分に執着し、所有欲を露わにするのかが分からない。
きっと望めば誰もがこの男の籠の中に自ら囲われたいと思うだろう。
「お前を殺してしまえば・・・・・、永遠に俺のものか・・・・・・。」
柊は真澄から身体を離した。
ずるりと這いでていく柊の熱棒に真澄は呻いた。
真澄の蕾は熱を持ち、精液と共に血が混じって溢れ出ていく。
その感触に真澄は背筋を震わせた。
ジャケットから何かを取り出し、柊は真澄の元に戻ってきた。
その手に握られている物を見た時、真澄は目を瞠った。
黒く光る物体を手に、柊は真澄の上に圧し掛かる。
「んんっ・・・・。」
真澄のこめかみに拳銃が押し当てられる。
涙で濡れた目で柊を見上げると歯を食いしばっている顔があった。
何かに耐えるように歪む顔に、真澄は小さな胸の痛みを感じて、そしてそんな自分に驚いた。
押し付けられた銃口が微かに震えている。
「くそっ・・・・・!!」
柊が真澄の顔ぎりぎりに拳をぶつけ、銃を壁に投げつけた。
重たい音を立てて銃が床に転がる。
身を竦ませる真澄を掻き抱いて、柊は獣のように唸った。
「殺せるわけがねぇ・・・・、殺せないんだ・・・・。くそっ・・・・!」
真澄の口を塞いでいたタオルを剥ぎ取り、その唇を激しく求める。
息も出来ないほどの柊の激情に、真澄にはもう抵抗する気力は残されていない。
食いしばって出来た口端の傷を柊が舐め取る。
また身体を弄る柊の手に真澄は身を捩った。
「も・・・・、いや・・・・だ・・・。」
真澄の抵抗を簡単に封じ込め、柊は体中に舌を這わせる。
時折小さな痛みが真澄に柊の印を刻まれているのを知らせた。
「いや・・・・、いやだ・・・・。もう・・・いやなんだ・・・・・。」
真澄の言葉に柊はまた顔を引き攣らせる。
酷く焦っているような柊の顔。
そして獰猛に獲物を狙うかのように真澄の喉元に食らいつく。
「んっ・・・・。」
自分の残した跡に柊は嬲るように舌で擽る。
そして真澄の縮こまったペニスに手を伸ばし、緩やかに扱き出す。
もう痛みしか感じない愛撫に真澄は泣きじゃくる。
「もう・・・・、やめて・・・・・・。」
柊は頭を下げて真澄自身を口に含む。
「・・・・あっ!」
柊の舌が尖端をつつき、そのまま強く吸い上げる。
恋人にもさせた事の無い行為に、真澄は快感を感じてしまう。
男とは何故こんなにも浅ましい存在なのか。
下半身を愛撫されると反応してしまう己に真澄は吐き気さえ感じる。
「他の事は全て忘れろ。お前が考えるのは俺の事だけでいい・・・・。」
柊が真澄の足を掲げて後ろを穿った。
痛みにも似た何かが真澄を襲う。
律動を繰り返す柊に翻弄され、真澄はただ喘ぐしかない。
そして柊がある一点を突いた時、真澄の身体が大きく跳ねた。
「ああああっ・・・・!やぁっ・・・・。」
真澄の反応に柊はニヤリと笑う。
的確に突いてくる柊の熱棒に真澄は言いようの無い快感をその身に感じた。
抉られ、突き上げられ柊の熱が真澄を激流へと連れ去る。
最奥を突かれた時、真澄は身体を反らして全ての精を吐き出した。
「あああああああああっ・・・!か・・・・佳代っ・・・・!」
思わず真澄は恋人の名を叫ぶ。
ハッとしたように柊が身体を止めた。
呆然と真澄を見詰める柊の目が突き刺さる。
「・・・女か・・・・。」
低く押し殺した声が地を這う。
その声音に真澄は手足の先まで冷えていく。
柊の顔から表情が消え、その冷たい光を湛えた眼差しに先程までの情欲も熱も感じ取れない。
真澄の顎を掴み、柊は暗く哂う。
その笑みに真澄はぞっとした。
「俺に抱かれて女の名を呼んだのか・・・・?お前を今も捉えているのは女なのか・・・・。」
感情の読み取れない柊の顔が歪んでいく。
恐ろしいまでの冷酷な笑みを浮かべ、柊は真澄の頬を舐める。
真澄は身体を震わせてその唇を受けた。
「女か・・・・・、俺の邪魔をしているのは・・・・。」
その呟きに真澄は愕然とした。
思わず柊の腕を掴み、揺さ振る。
「ひ・・・柊さん・・・。やめて・・・、佳代には何もしないでくれっ!お願いだ・・・!彼女には!」
佳代のために縋りつく真澄を振り払い、その頬を平手で打ちつける。
「女の名前を連発するんじゃねぇっ!お前が呼ぶのはこの俺の名だけでいい・・・・!」
柊は真澄の身体を強く抱きしめ、息が出来ないくらいに締め付けた。
真澄は佳代へ柊が何かするのではないかと怯えた。
何故か真澄への執着を露わにするこの男が、このまま見過ごす筈も無い。
「柊さん・・・、お願い・・・。何もしないで・・・。僕は逃げないから・・・。逃げない・・・。」
真澄の震えた声に柊の身体が強張る。
歯軋りが真澄の耳に響いた。
「そんなに大事か・・・。そんなに・・・。」
低く唸るような声が柊の怒りを表していた。
真澄にはどうしていいか分からない。
どうすればこの男の怒りを静める事ができるのか。
このままでは佳代に危害を加えるのかもしれない。
ただ真澄が名を呼んだだけで・・・・。
柊に抱きしめられながら真澄は心臓が凍っていくような錯覚がしていた。



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