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恋狂い
3


ひんやりとした物が額に触れる。
気持ちがいい・・・・・・。
目を閉じたまま真澄はうっとりとその感触を楽しんだ。
だが何か柔らかいものが唇に触れた時、真澄は驚いて目を見開いた。
「何だ、起きたのか。」
低い声が頭上から聞こえた。
「もう少し眠っていてくれたら、楽しめたんだがな。」
低く笑う声に真澄は身体を強張らせる。
此処はどこだ・・・・・。
どうして僕はこの男と一緒に居るんだ?
辺りを見回すと何処かの事務所のように雑然とした室内。
その中で真澄はソファに寝かされていた。
「此処は・・・・・。・・・・・・・貴方は・・・・。」
頭が重たくて気持ちが悪い。
吐き気を抑えながら真澄は男を窺った。
「此処は店の事務所だ、お前が倒れたからそのまま連れてきた。この俺がお前を看ててやったんだぞ。」
タバコを口に銜えたまま、男は端にある椅子に腰を掛ける。
年は30代前半だろうか。
どっしりとした重圧感が男を包んでいる。
顔は笑っているが、危険な匂いのする男。
真澄は身体を起こし、男に向かって頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けしました、これからすぐフロアに戻ります。」
真澄がそのまま立ち去ろうとした時、男もまた立ち上がり真澄の前に立ち塞がった。
目の前に立つとその威圧感に真澄は尻込みする。
175cmはある真澄よりも頭が一つ分高い。
顔を上げないと見えない男の顔を見詰めて、真澄は唾を飲み込んだ。
「そう怖がるな、あのしつこい客から助けてやったのは俺だぞ。・・・・・まぁいい、今日はもう帰れ。」
男は見詰める真澄の目に照れたように視線を外し、手で退室を促した。
「有難うございました・・・・・。失礼します。」
目礼して男の横をすり抜けると腕を掴まれ、男が取り出した紙を渡された。
見るとそれは名刺で、男の名前が載っていた。
『柊 真人』
何故こんなものを渡すのか分からなくて顔を顰めると上から苦笑が聞こえた。
「何かあったら俺に頼るといい、お前は助けてやる。」
男の顔が獰猛に歪むのを真澄は見た。
ゾッとして掴まれていた腕を振り払う。
真澄と柊の間にぴりぴりとした緊張感が漂った。
それを打ち破ったのは突然ドアを開けて入ってきたクラブの店長だった。
店長は真澄の青褪めた顔を見てすぐに帰宅を許可してくれた。
店長に背中を押されながら事務所を出て行くと後ろから柊の声が追いかけてきた。
「いいか、何かあったら必ず俺を頼れ。・・・・・・いいな、真澄。」
マネージャーにでも聞いたのか柊は真澄の名を呼ぶ。
その声音に奇妙な色が含まれているのに真澄は身体を震わせる。
平凡に生きている僕に一体ヤクザを頼らなければならない何があるというのだ。
柊の言葉に振り返ることなく真澄は事務所を後にした。
不気味な何かがその身に纏わりついているような気がして、真澄は足を早めた。





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あきゅろす。
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