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恋狂い
12





結局腕の傷は思っていたより深かったようで、柊はその夜高熱に魘された。

医師の処方した解熱剤で熱は下がったものの、夢に魘されているようだった。

真澄は寝室で一人、そんな柊を見詰めていた。

暗闇を照らす薄暗い光が柊の顔を映し出す。

適度に彫りの深い顔に通った鼻筋。

呼べばいくらでも女が群がりそうな容姿を持ちながら自分に執着する柊。

真澄の為に一人の女を陥れ、殺した。

そして真澄の為に身を挺して守った。

汗の滲んだ額に手をやると、まだ微熱があるようだ。

真澄は逡巡しながら額から溶けた氷嚢を取り上げた。

それを持ったまま踵を返すと後ろから柊の呻き声が聞こえた。

「・・・真澄・・・・。」

起きたのかと思いベッドに近づくとまだ夢の中を漂っているようだった。

自分の名を夢うつつに呟く男を真澄は目を潤ませて見詰めた。

「・・・真澄、真澄・・・・。」

柊の手がシーツの中で彷徨う。

そしてベッドに誰も居ないことに気づいて飛び起きた。

「はぁ・・・は・・・・、真澄・・・?」

まるで捨て犬のように縋った目で真澄の姿を探す。

そして傍に立つ真澄に気づき、安心した表情で笑う。

真澄の胸が酷く痛む。

何でも持っていて、そして誰もが恋い慕う男が見せる不安げな姿に堪らなくなる。

この男は佳代を殺したのだ・・・・。

辱められ、死に追いやられた唯一の恋人。

柊は残虐に冷酷に真澄の幸せを奪った。

だのに何故胸が痛む・・・・・・。

「氷・・・、入れ直してくる。」

柊から目を逸らし、ドアへと向かおうとする真澄を柊が引き止めた。

柊を見ると、辛そうに顔を顰めている。

「傷が痛むのか・・・・?誰か人を呼ぶから・・・・。」

柊の顔を見ていられなくて真澄は掴まれた腕を放そうとした。

だが柊は一層強く腕を引き寄せ、真澄の体を掻き抱いた。

熱で柊の体はいつもより体温が高く、胸の鼓動は激しく音を立てている。

「離せ・・・・、僕に触るな・・・・。」

感情を消した顔で呟く真澄に柊は酷く疲れた顔をする。

そのまま自分の体の下に抱き入れ、抗う真澄の口を塞いだ。

激しく求める柊の熱に真澄は自分を持っていかれそうな恐怖を感じた。

「いや・・・・、嫌だ・・・・。あんたに抱かれるのはもう嫌だ・・・。」

涙を浮かべて拒否する真澄の服を剥ぎ取り、柊は舌を這わせていく。

柊の舌が、指が熱い。

「傷が・・・、開いてしまう。」

柊の傷ついた腕を触り、真澄は柊を見上げた。

熱い吐息が真澄の頬を打つ。

「お前を抱きたい・・・、お前が好きだ。お前を愛しているんだ・・・。何よりも、誰よりもお前が愛しい・・・。奪われたくないんだ・・・。お前が消えてしまいそうで恐ろしい。こうして触れていても、次の瞬間には夢だったんじゃないかと思う時がある。・・・嫌なんだ、お前をもっと俺に実感させてくれ・・・。」

熱で朦朧としているのか柊は酷く饒舌に語った。



愛している・・・・・・と。



真澄の目から涙が溢れて零れ落ちた。

どうして・・・・・。

「愛してるなんて・・・、言わないでくれ・・・。僕はあんたなんか大嫌いだ・・・ あんたが憎くて堪らない・・・・。佳代を殺したあんたを、俺は憎んでいるんだ!」

柊の胸を押しやり、腕の拘束から逃れようと身を捩るが強く抱き締められ動けない。

柊の体が燃えるように熱い。

お前が好きだと何度も熱に浮かされて呟きながら柊は真澄の体を弄る。

首筋から胸元にかけていくつもの印を残し、真澄を追い詰めて行く。

「う・・・あ・・・、嫌だ・・・。嫌なんだ・・・。触るな・・・。」

柊の舌が真澄の蕾を押し開くように入り込み、ぞわぞわとした感覚が背筋を伝う。

唾液で濡らした蕾に硬く反り立った己を宛がい、そのまま突き刺した。

「あああっ・・・、ひぁっ・・・。」

真澄の両腕を片手で押さえつけ、柊は夢中で真澄を貪った。

顔や体中に唇を落とし、まるでそれで愛を伝えようとするかのように。

「真澄・・・、真澄・・・。お前を俺にくれ・・・。お前の心を俺にも・・・。」

揺さぶられ、突き上げられて真澄は快感に流されそうになる自分を叱咤した。

気を抜けば全てを持っていかれる。

何一つ残らず食い尽くされる。

「嫌・・・・、あんたになんか・・・、何一つ・・・。嫌だ・・・。」

ぼやけた視線の先に柊の痛みに耐えるような顔が見える。

切なげな目に真澄は堪らなくなる。

「あっ・・・、んぁ・・・。」

「真澄・・・、俺はもう、お前が居なければ・・・。」

真澄の最奥に劣情を吐き出して柊は果てた。

柊の呟きに真澄は目を瞠った。




佳代・・・・。僕は、最高の復讐を思いついたよ・・・・・。






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あきゅろす。
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