[携帯モード] [URL送信]

恋狂い
11




佳代の遺体は実家に渡される事無く、無縁仏として郊外の寺に納められた。

それを知らされたとき、真澄は病院のベッドにいた。

食事が取れなくなり、栄養失調に陥った真澄に医師は点滴を施した。

このまま死にたいと思うのに、死ぬ事さえ出来ない。

刃物は全て真澄の周りから取り払われ、監視の目は以前より厳しくなっていた。

「お墓・・・・、行きたい・・・・。」

真澄の呟きに柊が鋭い視線を向ける。

個室のベッドに横たわった真澄は酷く儚く、このまま露のように消えてしまいそうだった。

手に入れたと思ったのは、何だったのか。

柊は真澄の横に立ち、じっと顔を見詰めた。

「食事を取れ、そしたら連れて行ってやる。」

傲慢に言い放つ柊に真澄は笑い出す。

「あなたに連れて行って欲しくない・・・・・、佳代を殺したのはあんただ・・・・。」

その言葉に柊の顔に一瞬影が走る。

辛そうに顔を顰める柊に真澄は冷たい目を向けた。

「僕は佳代を愛している・・・・・・、彼女が居なくなった今でも、僕は彼女を想っている・・・・・。」

柊の顔を睨みつけながら真澄はなおも言い募った。

「僕はあんたを絶対に許さない・・・・・、あんたなんか・・・・地獄に落ちればいい。」

柊は真澄の言葉に傷ついたような顔をして目を背ける。

そんな柊の姿が真澄を苛々させた。

柊を憎いと思う。

出来ればすぐにでも逃げ出して佳代の元へ逝きたい。

必ず復讐してやる・・・・・。

愛しいものを奪われた真澄にとって、柊は憎悪の対象でしかない。

なのにこの男は真澄の言葉一つで一喜一憂し、真澄の行動全てに心を向ける。

監禁しながらも、真澄が過ごしやすいようにと配慮する男。

嫌いだと、憎いと言えば悲しい目をする男。

柊は自分を一体どうしたいのか・・・・。

何故これほどに執着し、全てを欲しがるのか。

真澄には分からないことが多すぎた。

ただ時折見せる柊の痛みに耐えるかのような顔に、真澄は微かな胸の痛みを感じていた。






点滴を受ける為に通院する真澄に柊は必ず付き添った。

この日も柊に伴われ、真澄は外出していた。

外はどんよりと曇り、今にも雨が降りそうな天気だった。

柊は真澄の細い体を支えながら病院の外へと歩く。

すぐに車が正面玄関へと横付けされ、乗り込もうとしたその瞬間怒声が辺りに響いた。

奇声を発しながら一人の男がこちらへと走ってくる。

「社長・・・・・・!危ないっ・・・・・。」

助手席から大田が慌てて出てきた。

「・・・・・!!!」

男が銃を取り出し発砲した時、真澄は柊の腕の中に抱きこまれていた。

柊の大きな体が強張り、呻いた。

「社長・・・・・・!!」

男は警備員にすぐに取り押さえられた。

だが真澄はそちらを見る余裕は無かった。

柊が腕を押さえ、顔を顰めている。

腕からは血が滴り落ち、柊が撃たれたことを示していた。

真澄は呆然とそれを見詰めた。

周りでは騒ぎを聞きつけた野次馬で溢れだした。

「真澄・・・・、お前は無事か?」

青褪めた真澄を抱きかかえて柊は呟く。

真澄の顔色を見てすぐに抱き上げ、車へと乗せた。

「震えている・・・・。大丈夫だ、真澄。何も怖くない、安心しろ。」

真澄の頭を抱き寄せ、柊が背中を擦ってくれた。

腕から流れる己の血に構う事なく、真澄を宥める。

「どうして・・・・、何故なんだ・・・・・。」

優しくなんてするな。

物みたいに扱えばいい・・・・。

僕を何故、守ったりするんだ・・・・。

「先程の男は逮捕されたようです、座間さんが対応しています。」

大田が運転席に座り、携帯電話を閉じて後ろへと声を掛けてきた。

小さくそれに答えて柊はまた真澄を強く抱き締めた。

その腕が微かに震えているのに真澄は気づいた。

「・・・・お前に怪我が無くて良かった。」

安堵の溜息を吐く柊に真澄は愕然とする。

全てを奪うくせに、全てから守るとでも言うのか・・・・・。

「社長、すぐに自宅に医師を呼びます。」

大田の言葉に柊は首を緩く振った。

かすり傷だとでも言うように腕をハンカチで包み、真澄に向かって笑顔を見せる。

「これくらいは何とも無い、お前は何も心配しなくていい・・・・。」

そんな笑顔に真澄の顔は強張りを増していく。

撃たれた瞬間、庇われた事実が真澄に圧し掛かる。

佳代を殺した憎むべき男に体を張って守られた。

気遣う柊に真澄の苛立ちは募っていった。








[*前へ][次へ#]

11/16ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!