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恋狂い
10

佳代の目がさ迷いながらこちらへと視線を流す。

真澄はその様子を呆然と見ていた。

押さえつけられ、柊の笑みに体が凍り付いてしまっていた。

助けたいのに動けない自分がもどかしい。

「佳代・・・・、佳代・・・・。助けてくれ・・・・、佳代を助けて・・・・・。」

真澄の顔が歪み、とめどなく涙が流れ落ちる。

それを見てまた柊の顔に苦味が走った。

「お前の心を奪うものは、全て消させてもらう。」

立ち上がり、ステージへと目を向けて柊は哂う。

悠然と立つ男にはまるで後ろめたさなど微塵も窺えない。

後悔する事も、もしかしたら泣く事など無いのかもしれない。

真澄は自分がどれほど残酷な男に捕まっているかを知った。

「柊さん・・・・、お願い。佳代を助けてくれ・・・・。お願いだ・・・・・。」

柊の足元に縋りつき、懇願を繰り返す真澄に柊の冷たい微笑が落ちる。

何故佳代までもがこんな目に合うというのだ。

彼女が一体何をした!?

いいようの無い怒りと、堪らない悲しみが心の中で渦まく。



殺してやりたい・・・・・・・・・・・。




柊の顔を見上げて泣く真澄を抱き上げ、柊はその場を立ち去ろうとした。

「待って!佳代を・・・!そこから降ろせっ・・・・。」

肩に担がれて、真澄はまた暴れだした。

柊が舌打ちして黒服に合図する。

ステージの上で磔にされていた佳代が下に降ろされた。

だが、次の瞬間。

「やめろおおおおおおっ!!触るなっ・・・・!佳代に触るなぁっ・・・・!」

数人の男が彼女の体に襲いかかり、猛々しいものを容赦なく挿入していく。

喘ぎ、身悶える佳代が艶かしく体を反らす。

正気を失った顔で、佳代の目が真澄の目を捉えた。

「いやあああああっ・・・・・!見ないでっ、私を見ないで・・・・!」

突然佳代の目に光が宿ったかと思うと、狂ったように叫び出した。

髪を振り回し、暴れだした佳代を男達が押さえつける。

「まだ正気が残っていたのか・・・・。」

「やめさせろっ!すぐに止めてくれっ!」

柊の肩に担がれながらステージに手を伸ばした。

「・・・・・!!」

急に動かなくなった佳代に真澄は青褪める。

口から血が流れ落ち、白い肌を伝う。

「あ・・・・、か・・・佳代・・・・。」

ぐったりと動かなくなり、佳代は目を閉じた。

周りが慌しくなり、佳代の様子を窺う。

「自殺したのか。」

何事もなかったように柊はステージから目を離し、歩き出した。

「佳代・・・・?佳代・・・・・。」

黒服が佳代の体に白いシーツを被せ、運びそうとしている。

騒然とした店内を払拭するように新たに数人の女と男の絡み合いがステージ前で

始まり、佳代の姿をかき消した。

狂っている・・・・・。

何もかもが・・・・、狂ってる・・・・。





初めて出会ったとき、佳代の優しい空気にすぐに惹かれた。

一緒に居れば居るほど愛しさが増し、一生を共にするのはこの人だと確信した。

彼女の為なら何でも出来た。

もうすぐプロポーズをするつもりだったんだ。

指輪を渡して、彼女が驚く顔が早く見たかった。

きっと泣いて、そして喜んでくれる筈だった。

二人で互いの両親に会いに行き、結婚の日取りを決める。

結婚したらきっと暖かい家庭が築けた。

子供が出来たら、どんなにいい母親になっただろうか・・・・。

未来はすでに無い。

二度とあの笑顔を見ることは無い。

優しく包み込んでくれる彼女はもう居ない。

全ては、あの男が引き起こした事・・・・・・。






車に押し込められ、すぐに柊によって薬を嗅がされ真澄は意識を失った。

ぐったりと寄りかかる真澄の体を抱き、柊は溜息を吐く。

「真澄・・・・、お前が可愛い・・・・。お前が愛しいんだ・・・・・。」

真澄の汗の滲んだ額を拭きながら、柊は先程見た光景を思い出す。

真澄の存在に気づいて正気を取り戻した女。

そしてその姿を見られたくないが為に舌を噛み切って死んだ女。

狂ったように女の名を呼ぶ真澄。

柊は二人の深い絆を無意識に感じ取っていた。

それが堪らなく柊に重く圧し掛かる。

「お前を誰にも渡したくない・・・・、その為なら、俺はいくらでも鬼になれる・・・・・・。」

真澄の体を強く抱き締め、柊は固く目を瞑った。

助手席に座る座間は、そんな柊の姿を痛ましげにバックミラーで見つめていた。







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あきゅろす。
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