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恋狂い
1
※このお話には残酷なシーンがあります。後味も悪いと思います。苦手な方はご注意下さい。







愛している。
愛して、いるんだ。
だからお前が欲しかった。
手の届かない花だとしても、どうしてもこの手にしたかった。
それがお前を、追い詰めた・・・・。




恋 狂 い 1




静寂に包まれる店内に女性の華やかな声が行き来する。
高級クラブは本日も艶やかな姿を誇っていた。
このクラブでボーイとしてアルバイトを始めてやっとひと月。
早瀬真澄は厨房の裏でこっそりと息を吐いた。
本職を別とし、この週に2日のこのアルバイトを始めたのは恋人のためであった。
真澄と恋人の佳世は付き合い始めてすでに3年、同い年の二人はもう27歳になる。
そろそろ結婚の申し込みをするにはいい時期だと真澄は考えていた。
一生に一度の事だと高価な指輪をプレゼントする為にバイトを始めてみたはいいものの、煌びやかな女性の間を歩き回り、時には客に誘われて席に着かされることもある。
真澄は基本的に酒は飲めない。
飲むとすぐに酔いが回り、立っていられなくなるのだ。
仕事という緊張感の中で飲む分、そうすぐには倒れる事はないが、はっきり言ってかなり辛い。
今日も先程常連の男性に捕まって酌をさせられた。
綺麗なホステスが囲む中で男は真澄ばかりを構った。
真澄は特に綺麗な顔をしているわけではない。
女性的なか弱さがあるわけでもない。
だが男は真澄を離そうとはしなかった。
ホステスの采配でやっと席を離れる事ができ、厨房の裏で隠れるように息を吐いてやっとほっとした。
「今日はヤバイかも・・・・・・。」
どんどん注がれるウイスキーの味がまだ舌にこびり付いて取れない。
真澄はグラスに水を注ぎ込み、それを一気に煽った。
「はぁ・・・・・。」
流し台に凭れて茶色に透ける髪をかき上げる。
母親から譲り受けた色素の薄い髪色に茶色の瞳。
黒髪に随分憧れた。
だからというわけではないが、佳世は艶やかな黒髪をしていた。
佳代の姿を思い出して真澄は苦笑する。
可愛くて優しい最愛の恋人。
彼女を喜ばせる為なら、これからも自分は何でもするだろう。
我侭ひとつ言わない彼女の指に一生外す事のない指輪を贈ろう。
そんな事を考えているとホールからマネージャーが真澄を探してやってきた。
「早瀬君、大丈夫かい?すまないね、君はただのボーイなのに、お酌の相手までさせちゃって・・・・。申し訳ないけどさっきのお客様が君をご指名なんだよ。お帰りになられたら君も上がってくれていいから、席に行ってくれないか?」
酒で目元を赤くした真澄を見て、気の毒そうに肩に手を置き、顔を顰める。
ホステスがいるのだから、ボーイに何の用があると言うんだ。
真澄もマネージャーも、常連の男を訝しがった。
だが何といってもお得意様である男には逆らえない。
マネージャーに急かされて、真澄は重い足取りでホールへと向かった。




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