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Blue lace flower
第7話



耳元で囁かれた声に心臓が掴まれたような気がした。
やめろ、帰れと言いたいのに、言葉が出ない。
覆いかぶさったまま高槻が優斗の首筋に唇を落とす。
それに思わず体が震えて、優斗はぎゅっと目を閉じた。
「優、好きなんだ・・・」
苦しげに吐き出された声に、だが優斗は何も言えなかった。
何を言えばいいか分からない。
何を言えば、男が納得するのか分からない。
どうすれば、終えられるのだろう。
「頼むから、もうやめてくれ・・・。俺は、あんたに何もやれないんだ。分かってるんだろ、俺とあんたは、どうにもならない・・・」
これまで何度も告げた言葉を繰り返しても、高槻を遠ざけることは出来ない。
絞りだした優斗の声に高槻が顔を上げ、そして自嘲気味な笑みを漏らした。
「それでも他の奴にだけは、渡さない」
この数年間何度も何度も繰り返したそれに、優斗はたまらない気持ちになる。
胸を掻き毟りたくなる、なにもかもを壊してしまいたい衝動に駆られる。
上から見下ろす高槻の顔が見れなくて、優斗は目を閉じたまま唇を噛み締めた。
「お前が家族だと言うなら、あの男には何もしない。だけどな、優斗」
不意に声の口調を変えて穏やかに高槻が口を開いた。
その言葉に目を開けると、今にも泣きそうに歪んだ男の顔が目の前にあった。
「っ・・・」
「あの男を使って、俺を遠ざけようとしても無駄だ。お前にどう思われようと、俺はお前から離れない」
ギュッと力を込めてシーツを握った優斗の手に、高槻の手が触れる。
指が白くなるほど握り締めたそれに高槻が目を細めた。
「どこかに閉じ込めてしまえたら、楽なんだがな・・・」
いっそそうしてくれと、口に出そうになるのをぐっと堪えた。
何もかもが理不尽で、矛盾している。
「起こして、悪かった」
ため息を漏らしながら高槻は体を起こし、立ち上がると寝転んだまま呆けたように目を瞠る優斗に笑みを見せた。
そしてすっと身を屈めると、優斗の髪をかき上げ額に口付けを落とした。
「帰れ・・・」
額を擦りながら身を起こし苦い顔つきで言う優斗の頭を撫で、高槻はベットから離れ背中を向けた。
それを目で追いながら、何か声をかけようかと思った。
だけど結局何も言えず、その後姿から目を逸らし優斗は唇を噛み締めた。
ただ優斗に会いに、そして釘を刺すためだけに来た男に何が言えるだろう。
かける言葉などなにもない。
静かに部屋から出て行く男の残した言葉と、男の匂いだけが優斗の体に染み込んでいた。
シンと静まり返った室内が、やけに広く感じる。
息苦しさを感じるような圧迫感は既にない。
優斗は深いため息を漏らし、髪をかき上げながら立ち上がり台所へと向かい、冷蔵庫から冷えた水を取り出し一気に半分ほどを飲み込んだ。
「はぁ・・・」
矛盾していると思う、あの男も、そして自分自身も。
何かがおかしくて、ずれていて、だがどうすればいいのか全く分からなかった。
どこから修正すべきなのか、もう分からなかった。
高槻は優斗が好きだと言う。
そして誰も傍に置かないのなら、我慢できるのだと。
だがいつまでもこのままで居られるはずがないのだ。
いつまでも高槻の言葉通りに、一人で居られるはずがない。
そこまで自分が強くないことも知っている、高槻が諦めるまで待つことなど、いつまでも出来る筈がなかった。
不意に、先ほど見た高槻の顔が思い出された。
泣くのを堪えるような、歪んだ顔。
強い男のはずなのに、高槻は時々そうした表情を見せた。
こちらの胸まで締め付けるようなその顔を見ると、たまらなくなる。
手を伸ばしてしまいそうになる。
手を伸ばしたところでどうにもならないのに、何も出来ないのに、好きだと言葉を返すことなど決して出来やしないのに。
「くそっ・・・」
抱きしめて慰めてやりたくなる。
自分の気持ちこそが矛盾ばかりで、イライラする。
忘れて欲しいと思う、離れて欲しいと思う。
もういい加減にしてくれと何度怒鳴りつけたか分からない。
だけどそれと同時に、どこかで高槻を許している自分もいた。
拒否しきれていない自分がいた。
それに気づきながら、知らない振りばかりしている。
目を閉じて耳を塞いで、そうして逃げているのは優斗自身なのだ。
どう転ぶにしても、もういい加減決着をつけるべきかもしれない。
いつまでもこうしては、いられないのだから。





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