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Blue lace flower
第11話


高槻の湿った舌が優斗の唇を割り、咥内へと侵入してくる。
苦いコーヒーの味と、微かな煙草の香りにまるで酒に酔った時のように頭が働かなくて、喰らいつくようなそれにただ翻弄された。
初めての口付けは、想像していたよりも嫌悪感など微塵も感じず優斗にただ心地よさだけを与える。
ひとつひとつの仕草が、肌を伝う指の動きも、唇を貪る舌の動きさえも、優斗に高槻の心を伝えた。
泣いているのではないかと思った。
目を閉じているから高槻の表情は見えないのに、なぜかそう思えて。
強く抱きしめてくる腕の中で身動きが取れなかった。
ほんの少しでも身じろいで、高槻が離れていくことがもったいなくて。
そう思うことはきっと間違っているのに。こんなことをする為に高槻を訪ねたわけではないのに。
初めて味わう高槻の味を、優斗自身が離したくなかった。
密着した体から伝わる熱を、離せなかった。
「は・・・・」
二人の唾液が混ざり合い、糸を引きながら唇がゆっくりと離れる。
薄っすらと目を開いた優斗は、目の前の男の眼差しに知らず喉を鳴らした。
必死に何かを訴えてくるような、強く熱い眼差しに、ぞくりと肌が粟立った。
こんな目をして見つめてくる人間にこれから先出会うことは二度とないだろう。
こんな風に、必死に全身で愛を伝えてくるような人間に、出会うことはない。
「高槻・・・」
名前を呟いた優斗に、高槻が応えるように口付けを再開した。
先ほどとは違い、喰らいつくような口付けではなく、宥めるように優しく落とされる口付けに息が漏れる。
別れを伝えに来たはずなのに、もう二度と現れるなと伝えて終わりにするつもりだったのに、また高槻を受け入れている自分に呆れながらも抗う術が見つからない。
見つけたいのかももう分からない。
どうしたいのか自分でも分からなかった。
本当に二度と会いたくないと思っているのか、本当に高槻のことを振り切れるのか優斗自身にも分からない。
大事にすべきなのは家族で、高槻ではないと思っているのに。
手放せない。
こんな男を、どうやって引き離せるのか。
どうやって、忘れられるのか。
分からなかった。
忘れたいと本当に思っているのかも、分からなかった。
自分自身の矛盾したいい加減な想いが高槻を振り回している。
そして振り回されてもがむしゃらにしがみついてくる男を見て、どこかで喜んでいる自分もいた。
愛されている実感に、満たされている。
「高槻、高槻・・・」
どこにも逃がさないようにきつく抱きしめる男の腕が、ひどく愛おしかった。
これは愛ではない、ただの依存や執着なのだろう。
高槻の為に全てを捨てる覚悟など出来ない、それ程の強い思いなど持ってはいない。
だけど手放したくない気持ちも確かにあって。
こうしていると考えることが億劫になってくる。
もういいじゃないかと思えて、どうにでもなれと思って、目を閉じた。
「っ・・・」
高槻の指先がシャツの裾をめくり、素肌に触れた。
ぞわぞわとした感触が背中を走り、震えた優斗の頬に高槻の熱く湿った息がかかる。
「優斗・・・・・」
高槻の唇が優斗の耳元に触れ、そしてそのまま首筋へと伝う。
首筋に熱い高槻の唇が触れたかと思うと、ちくりとした小さな痛みが走り、それに知らず溜め息が漏れた。
「お前を、もらう。どこにも・・・逃がさない」
優斗を押し倒しながら独り言のように呟いた高槻の言葉は、これまで何度も聞いたことのあるはずの言葉だったのに。
まるで初めて聞いた言葉のように、深く、強く優斗へと響いた。



「やっ・・・・・あ」
逃げるつもりなどなかったのに、高槻は優斗の服を全て剥ぎ取ると両手を頭上で縛り上げた。
うまく身動きが取れない中、高槻の与える強い刺激にもう口から漏れる言葉は意味を成さなかった。
高槻の舌が全身を這う。
もう体中で高槻が知らない部分はないだろう。
触れられなかったこの数年間を満たすかのように、時間をかけて行われる唇での愛撫に、優斗はただ喘いだ。
「っ・・・・・」
足のつま先に高槻の濡れた舌を感じて息を呑む。
親指を口にふくみ、まるでアイスキャンディを舐めるように唾液とともにしゃぶられた。
「や・・・あっ」
親指を口から外すと今度はそのまま足の甲に唇の感触を感じた。
足の甲を食べるように甘く噛まれる。
ゆっくりと舌が、薄い肌を舐めあげた。
「はっ・・・」
浅い息を繰り返しながら優斗は腰を揺らしてしまう。
全身を指で、舌で愛撫するのに、高槻はそこには触れてはくれなかった。
触れられるのを待って、主張するそれは鈴口からとろとろと蜜を流した。
「も・・・触っ・・・て」
拷問にも似た長時間の愛撫に堪らず涙が眦なら零れ落ちた。
「高槻っ・・・・触って」
懇願する優斗に足元に伏していた高槻が身を起こし、投げ出している足をゆっくりと指先で撫でた。
「っ・・・・」
膝下を撫でる指先が、太ももを伝い、足の付け根にたどり着く。
陽に焼けていない白く敏感なそこに高槻が身を屈め、唇を落とした。
「優斗・・・」
「やっ・・・・ああっ」
高槻の大きな手が、優斗の張り詰めたペニスを包んだ。
ゆるゆると上下に動かしながら、もう片方の手で色づいた胸を弄る。
強すぎる刺激に堪らず息を詰めると、さらにきつく扱かれた。
「も・・・いく。高槻っ・・・は・・・ああ!」
限界まで待たされたそれは、あっけなく絶頂を向かえ白濁とした精が優斗の腹を汚した。
荒い息を吐く優斗の腹に飛び散っているそれを指先で掻き集め、高槻は優斗の両足を割り誰も触れたことがない固く閉ざされた蕾に塗りつけた。
「は・・・んっ・・・あ!」
濡れた指が、奥へと入ってゆく。
痛みはほとんど感じなかった。
だが酷い違和感と、気持ちの悪さにいやいやと頭を振ると。
弛緩したペニスに生暖かい感触が走った。
「あっ・・・や」
高槻の口に咥えられていると思うと、堪らなくて知らず腰が揺れた。
鈴口に残っている残滓を全て吸い上げるようにきつく吸われて、硬さを取り戻していくそれに痺れたような快感を感じた。
「高槻っ・・・・」
ペニスに与えられる刺激と、増えていく後ろの指にもう何も考えられなかった。
こんな風に誰かと触れ合うこと自体、久しぶりすぎて。
頭が沸騰しそうだった。
「優斗・・・優・・・」
体を起こした高槻が高ぶった自身を優斗の後ろへと押し当てる。
熱いそれに、体が震えた。
「俺の、ものだ・・・・・・・」
ぐっと、開かれる感覚がしたかと思うと、鋭い痛みが体に走った。
「あ!やっ・・・」
「俺のものだ・・・、優斗」
高槻が身を進めるごとに体が裂かれるような気がした。
痛くて、苦しくて目の前の男に縋りつきたかった。
「いっ・・・、あ・・・うで、外して」
泣きながら言う優斗に、荒い息を吐き出しながら高槻が目を細める。
そして手を伸ばすと、優斗の拘束を解いた。
「は・・・・・」
自由になった両手は痺れていて、うまく動かせなかった。
その両手を伸ばし、優斗は高槻の首に縋りついた。
「優・・・優斗っ」
「ああっ・・・・」
ぐっと高槻が腰を押し付けると、最奥を突かれる鈍い痛みに優斗は体を仰け反らせる。
その優斗の体を抱きしめ、高槻は深い息を吐き出した。
「優斗・・・俺のものだ。逃げるなら・・・殺してやる」
優斗の髪を掴み、燃え滾る双眸で見据える高槻に知らず静かな笑みを漏らしていた。
どうしたって、この男は優斗から離れない。
そして優斗も、今はまだこの男を、手放せない。
「じゃあ・・・殺せよ。はっ・・・ぁ、俺を殺して、生きていけるなら・・・殺せ」
高槻の耳に口を寄せ、そう囁いた。
その言葉に高槻がくっと渇いた笑いを漏らし、優斗の体をベットに押し付けると腰を引き、そして強く叩き付けた。
「ああっ・・・・いっ」
ぶつかり合う肌の濡れた音が室内に響き渡る。
脳天まで貫くようなその強さに、痺れたような快感が伴って優斗を翻弄した。
「あ・・・あっ・・・や!」
上から見下ろす高槻のどこか焦れたような眼差しが、苦しいほどに思いつめたその眼差しが。
ぞくぞくとした快感を優斗に与える。
この男が惚れているのは他でもない自分自身なのだと思うと、堪らなかった。
誰よりも強く、誰よりも深く愛されている。
誰よりも必要とされている。
そんな男を、どうやって手放せる。
どうやったら、離れられるというのか。
愛しいと思う気持ちと、どこか苦々しく思っている気持ちと、諦めの気持ちが混ざり合う。
好きだとか、そんな甘い気持ちは微塵もない。
ただ、愛おしかった。
思いつめてどこか狂気を宿した男が、愛おしくて切なくて、胸が痛い。
高槻を、慰めてやりたかった。
自分だけを求め続ける一途で馬鹿なこの男を、捨てられなかった。
捨てたくなかった。
「誰にも・・・渡さない。俺のだ・・・」
ああ、俺も、お前を誰にも、やりたくない。




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