春のかたみ
六
それから何とも面倒臭そうに(人の説明をするのに失礼だと思う)話し始めた。
「……去年の十一月、五条大橋で浪人二人と仲間の死体の処理をさせただろう。その時こいつを保護した。話を聞いてみりゃぁ幕府の密命どころか俺達の知らない情報まで知っていやがった。間者か何かかと、殺しちまおうと思ったんだだがな……」
そこで一度言葉を切った土方さんは言いにくそうに顔をしかめた。
その後正直に告げられた私の入隊理由について、信じられないと息巻いた山崎君を納得させるのにたっぷり四半刻も掛かってしまった。
「言い方を変えれば、千鶴なんかよりもこいつの方が色んな意味で危ねえんだ。今は斎藤と平助で護身術程度は身につけさせてるが、お前等もこいつには気を配ってやってくれ」
「……わかりました」
土方さんの言葉に迷わず頷いた島田さんとは対照的に、山崎君の返事が返って来るまでに数瞬の間があった。
そんな不貞腐れているかのようにも見える彼の様子に私は苦笑を漏らす。
私は床に三つ指を着いて頭を下げた。
「山崎さん、島田さん。不束者とは思いますけど、どうかよろしくお願いしますね」
「「…………」」
にっこりと笑って言ったつもりだったのに、何故か返事は返ってこなかった。
ちょっと悲しかったので私の脳内で、二人とも照れているんだろう、ということにしておいた。無理やり。
こうして私と監察方の二人との初接見は無事完遂されたわけである。
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