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春のかたみ

 
山崎君もそのことに気付いているのだろう。私に場の主導権を握られていること、そして隠密であるはずの監察方の自分が情報を与えてしまったことに対し、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

「行き詰まっているんじゃないのかな?私を使えば今までとは違った手を打てる。新たな情報を引き出せるかもしれないよ」

「しかし、危険すぎる!」

「『しかし』……ね。それは『危険じゃなければ私が有用かもしれない』、ってことだよね」

私が続けた言葉に山崎君は沈黙した。

このやり取り自体にも意味はある。この程度の交渉・心理戦も出来ないようでは『自分を監察方に』なんて到底言えない。

山崎君もわかっているだろう。

私が監察方で使えるかどうか。この取引自体が既にもうそれを見極めるための交渉だった。

「これは俺の一存で決められることじゃない。確かに君の存在は監察方にとって魅力的だ。しかし実際に一人で敵地に飛び込み、生還できるだけの強さがなければ監察方は勤まらない」

「じゃあ試してみればいいんじゃない?」

軽薄とすらいえる程に軽い声音。これでも以前より気配に対して敏感になった私ですら、声を聞くまで存在に気付くことが出来なかった。
この人はこうやって人を驚かせるか、聞き耳を立てるために常に気配を消して行動しているんじゃないかと思う。

「沖田さん……」

突如障子を開けて現れた総司君に、山崎君が溜息交じりに肩を落とした。

あぁー、性格合わなそうだもんなぁ、この二人。総司君かなりの自由人だし。山崎君生真面目だし。

「なんだか面白そうな話してたから聞かせてもらったよ。名ちゃんの強さを測りたいなら僕が相手をしてあげるけど?……もちろん真剣で、ね」

にやりと笑って総司君が私を見下ろした。

「沖田さん!!」

山崎君が反発する。沖田さんはその表情から笑みを消すと、冷めた視線を山崎君へ送る。

「何、山崎君。君だって名ちゃんを使いたいと思ったんでしょ。僕は手伝ってあげるって言ってるんだからさ、お礼を言われることはあっても、そんな風に怒られる覚えはないなぁ」

山崎君の表情が歪む。しかし生真面目な彼のこと。組長である総司君に対してそれ以上反発することは自分自身が許さないようだ。彼は反論を封じられて口を噤んだ。

私としてもネックになっていたことだったから、総司君の申し出はむしろありがたいと思う。
ただし彼のことだ。私の実力があまりにも不甲斐無ければ、事故に見せかけて首を落とされかねない。

こうして私は一週間後、実力を測るために総司君と真剣勝負を行うことになったのだった。

 


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