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春のかたみ

 

「……姓君。君は新撰組に入るつもりはないか?」

「「「近藤さん!?」」」

脈絡の無い突然の申し出で、驚きのあまり言葉の出ない私の変わりに、今まで黙って成り行きを見守っていた新八さん・左之助さん・平助君の三人組が揃えて声を上げた。その三人を片手を上げて制し、近藤さんは続ける。

「以前君が先に起こる事についてあまり口外したくないと言っていたことはもちろん覚えている。しかし、姓君が我々の内情をあまりに深くを知り過ぎているのも事実だ」

いつもおおらかな表情をしている近藤さんが今だけは違った。
私は黙って彼の言葉の続きを待つ。

「このまま君を解放することは出来ん。そこでだ。君に出来る範囲内で我々に力を貸してくれるのならば、俺は姓君を新選組に歓迎したいと思う」

「……私は、刀の握り方も知らないような、ただの女ですよ?」

今までずっと我慢してきたにも拘らず、今更になって声が震えそうだった。

「それに、皆さんに先々のことを明確にお伝えするつもりはない、とも言いました」

「姓君がそれを望むのならば、我々は君に無理強いはしないと約束しよう」

近藤さんはそう言って笑った。彼は表裏のない人だ。
この人は人を騙し、陥れるような事はしない。

私は決心した。

「私に出来ることは多くはありません。しかしそれでも構わぬと言ってくださるのなら、新選組に力添えさせて頂きたく思います」

両手を付き、私は深々と頭を下げた。

■ ■ ■

「まぁ、二人も女の子を迎えるとなりゃぁ、手厚く持て成さなきゃいかんよな!」

「新八っつぁん女の子に弱いもんなぁ。でも、手の平返すの早すぎ」

「いいじゃねぇか。これでも屯所が華やかになると思えば、新八に限らずはしゃぎたくなるだろ」

場の重たい空気を和ませるのは自分達の役目だとでも言うように、軽口の応酬が始まる。
この三人の掛け合いには私も思わず笑ってしまった。

刀も使えず、その上私は女だということもあり、表立って隊士として振る舞うことは出来ない。それは隊士ではない千鶴ちゃんも同様だった。

しかし女の姿のまま屯所に置くわけにはいかないはず。恐らくは二人ともこのまま男の姿のままで生活することになるはずだ。

今後の処遇については誰かの小姓に付くという案も出たが、これは明らかに皆が土方さんをからかっているだけのようなので、多分却下されるだろう。

話し合いが続く合間も千鶴ちゃんの表情は曇ったままだった。どうやら今後についてまだ不安を拭い切れていないようだ。

「大丈夫だよ」

「え?」

唐突に掛けられた声に千鶴ちゃんが私の方を見た。

「どう言い訳しようと、私が千鶴ちゃんの存在を自分が生きるために利用したことは変わらない。だから、私に出来ることがあれば何だってするよ。そりゃ、私には武術心得なんてないから心許ないだろうけどね。でもいざっていう時は……私が君の盾なる」

言葉を重ねることで少しでも彼女の不安が拭えるなら。
しかしそれと同時に、この言葉を決して嘘にはしない、と内心で私は自分自身に誓う。

私はもう一度微笑んだ。

「だから、大丈夫だよ。千鶴ちゃん」

「……っ、ありがとう、ございます」

千鶴ちゃんが返してくれた感謝の言葉は、どこか少し泣きそうな声だった。

そうしてこの日、私は新撰組の一員となったのだった。


 

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