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春のかたみ

 
広間に沈黙が戻ってくる。
それは先程までのような怒りや呆れからではない。皆、土方さんの出す答えを待っているようだった。

「……トシ。俺は彼女の言い分を聞いてやってもいいのでは、と思う。確かに信じ難い話ではあった。しかし真偽の程を確かめずに殺めれば、我等は罪も無い女性を己が保身のためだけに殺すことになる」

近藤さんは天井を仰いだ。どこかすっきりとした表情からは、 もう迷いは窺えない。

「彼女が嘘を吐いていたとしてもすぐに露見しよう。処分はそれからでも遅くはない」

土方さんは、近藤さんの言葉に暫くの間目を閉じて耳を傾けていた。やがて深い溜息とともにその瞳を開く。

「……解った。お前の言い分を聞いてやる」

どうやら、なんとか一次関門は突破出来たらしい。

私は全身の筋肉が脱力して弛緩しそうになるのを気力を振り絞って耐える。私は慎重に言葉を選び、紡いだ。

「文久三年十二月。皆さんは【探しモノ】の鍵足りえる人物を拾うことになるでしょう」

私の曖昧な言い回しにまた皆の表情が厳しくなる。山南さんの詰問は舌鋒鋭い布石となって私の退路を狭めていく。

「随分と曖昧な言い回しですね。私にはどうとでもでも取れる言い方で、生き延びる機会を狙っているようにしか聞こえないのですが」

疑問形ですらない断定。

私だって人間で。責められれば、辛い。

でもこれが彼なんだと思えば堪えられる。少なくとも今の彼は、新選組を護る為に危険性を回避しようとしているのだろう。

「鍵を拾えば皆さん納得すると思いますよ。まぁ鍵は地図ではないので、それだけで【探しモノ】を見つけることはできませんが。……猶予の間にそれと思える出来事が起こらなければ、私のことは山南さんのお好きな様に処分して頂いて結構です」

探し者とは雪村綱道の事を指し。
探し物とは薬が追い求める成果。

彼女は探し者の唯一の娘。
彼女は探し物の答【鬼】。

「……わかりました。ご自分で言ったその言葉、よく覚えておいてくださいね」

山南さんが引き下がる。今のやり取りに疑問を抱いたのか、平助君が質問を投げる。

「でもさ。もしあんたが未来を知ってんなら、ここでずばーっと言っちゃえばいいじゃん。何でわざわざそんな回りくどい言い方すんの?」

当然の疑問。
皆が心中でそう思っていたのか、視線が私に集まる。

自分の中にも確固たる理由がある訳ではない。上手くは言葉には出来ないのだけれど。

「……私の存在は、反則みたいなもの。先なんて本来生きている人間が知って良いモノじゃない。けど、私が【知っている】ことで誰かの手助けになれるならと。そう思っているだけです。……これで答えになりますか」

【先を知る】というのは、試験を受ける前に答案を盗み見るようなモノだ。
それならば、反則するのは、卑怯になるのは私だけでいい。ただ道を踏み外した償いとして、出来る事はしたい。

「あ、うん……」

少ない言葉でも一応平助君は納得してくれたらしい。

私はそのまま一度席を外すことになった。
連れて来られた時と同じく、斉藤さんに引っ張られて部屋へと戻った。

 


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あきゅろす。
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