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変わらない未来─後
──ちょっと、あのカワイイ子、牛乳一リットルは飲んだわね……これもカルアミルクのおかげだわ。
──もう、カルアミルクのばか……いい仕事するじゃない……今夜はいいものを見たわ……。
──はぁあ……いったい誰なのよカルアミルクを発明したやつ……私も飲みたい……。
そんな女性客らもふわふわと酔いどれて帰っていった暁。──
明るみ始めてる外、諏訪がふああとあくびをした。
風間がふと訊いた。
「ところで鈴花は何故、太刀川に担がれてるんだ?」
そう、肩に腹を乗せる状態で担がれているではないか。
太刀川の肩から垂れた手足をぶらつかせている鈴花は──
「よくわからんがこのまま送ってくれるらしい! タクシー代がういた!」
「そうか、気をつけて帰れ」
風間がたんたんと言った。
諏訪は、
「チッ! 俺は風間と大地と帰んのかよ!」
「ふまんか」
「ったく、今から呑み直すしかねー」
そうは言ってももうそろそろ空は明るい。
「おはようございます。記憶は全くありませんが、ものすごく心のつかえが取れた気がしますよ。いやあ爽やかな朝ですね!」
堤は完全復活を遂げていた。
鈴花はというと。
「おい太刀川! 腹がくるしくなってきたから下ろせ!」
「じゃあ姫抱きってやつにするか」
「ァアア!?」
すとんと──
この酔っ払いが帰りゆく町の通りで。
「どうだ? ものすごい”おひめさまだっこ”ってやつだな! ものすごい姫感だぞ鈴花! これが俺の姫だっこだ! どうだ!」
「くう……軽々と!」
「そうでもないぞ」
「それはそれでなんだと!」
「意外と緊張してるんだ、これでもな──コンビニ寄ってくか、いろいろ準備があるだろ?」
「何買うってんだ?」
「ん? つけなくていいのか?」
「おろせコラァー!!」
鈴花がじたばたとして、諏訪が「オイコラ」と太刀川を止めようとした。
──が、風間はすんなりと通りすがりのタクシーを捕まえた。
「四人まとめて乗るぞ」
諏訪が首を傾げた。
「……ってオイ、太刀川と鈴花も乗せるなら五人だろが。っつてもこのタクシー客四人しか乗せられねーけどよ」
「いや、鈴花は奴が連れ帰るだろう──」
諏訪が疑問を持ちながらばっと振り向くとそこには。
「おはよう皆さん、楽しそうでなにより──」
太刀川に担がれている鈴花がぴくりと反応した。
「……っその声は迅!」
だが太刀川の肩の上に腹から担がれているものだから、迅の顔は見えない。
「なんだ迅、迎えに来たのか?」
「今晩は何やら楽しい宴会だっていうから快く送り出させてもらったんだけどな──太刀川さんも来るって
聞いてたからね。油断はしないよ」
「もうちょっとで鈴花を持ち帰れるところだったんだがな」
諏訪が口をぱくぱくさせていた。
「オメーら朝っぱらから女取り合ってんじゃねー!!」
迅がにこりとした。
「いやいや、諏訪さんもじゅうぶん油断ならないよ」
「うっせー! 大人しくタクシーで帰るっつーんだよ!」
さて、風間はとうにタクシーに乗り込んでいて、鈴花はまだ担がれている。
「鈴花も楽しかったか? この実力派エリートに安心して送られるといいぞ」
「ケツに話しかけんじゃねー!!」
鈴花がじたばたとしていた──が、
「まあ、帰ってからじっくり」
迅がにこやかに太刀川から鈴花を回収した。
「迅おまえ、ちょっと過保護すぎないか?」
「いやいやそうでもないよ。どっちにしろ鈴花、おれのだし」
それをわかってるから、こうやってすんなり引き渡してくれるんだろ?
なんて──
言ってのける迅に太刀川がにこやかに手をかざした。
「じゃあな、あんまり妬くなよ?」
「いやあ、その必要もないかな」
──こいつ。
そんな含みを残してもすっきりとお帰りになった太刀川、風間、諏訪、堤。
「チッ……やっぱ付き合ってんのかよあいつら!」
「諏訪さん知らなかったんですか?」
「テメーは知ってて鈴花持ち帰ろーとしてやがったのかコラァ!」
「どうあれ迅が黙ってはいないと知っていて遊ぶな太刀川」
「いやあ、俺はけっこう本気でしたよ」
「いやあ爽やかな朝ですね!」
最後に堤がすっきりとした笑顔を見せた車中、タクシーは走ってゆく。──
迅と共に帰宅した鈴花だったが、
鈴花の部屋のベッドでは鈴花がくたりとして──は、いなかった。
「それでな! 堤がキレてよ! こうやってな! こうやってガッと抑えたわけだ!」
鈴花がベッドの上で縦横無尽に動いては跳ね、今晩の実況を迅に見せていた。
「でな! 店員さんが救急車呼ぼうとしたトコで風間のカッケエ攻撃よ! 店員さんじゃなくてキレた堤にだぞ!?
そこんトコヨロシクゥ!!」
「うんうん」
迅はにこやかに見守っている。
「でよ! 風間がよ! こうシュッ! てな! トン! てな! キメて堤を闇の中から救い出してやったワケよ!」
「おお、風間さんすごいな、さすが風間さんだ」
「だろ!? んで太刀川がマックスパワーになってよ! 諏訪が手をな! こうしてコァアアアアってなってよ!」
「うんうん」
この体を張った実況は三十分にも及んだ。
鈴花がくたばった頃、迅がそっと布団をかけてやり、自分もお隣に滑り込んだ。
今晩は太刀川らと宴会があるとかで、誘われたという鈴花に楽しんでくるといいと言って送り出した。
妬く必要はないと知っているし、事細かな実況によりそれもよくわかる。
されど、
「今度から行かせないって言ったら、どうする?」
自分だけの眠り姫にそう落として、優しく包んで目を瞑った。


「あ、迅くん……おはよ、私、昨夜は酔っちゃったなあ……確か、ものすごく強いお酒をみんなで呑んじゃって」
「うんうん」
「でも、迅くんが迎えにきてくれてよかったあ」
「うんうん、太刀川さんにはちょっと過保護って言われちゃったよ」
「……っ太刀川くん、そんなこと言ったんだ。でも、過保護とかちょっと嬉しいかも」
はにかんだ鈴花に迅が頷いた翌朝。
数時間前の鈴花の実況ぶりを思い返せば、そのギャップに微笑んで、頭を撫でた。
「どっちの鈴花もすきだよおれは」
「えっ……私、もしかしてまた、キャラ変わってた?」
「口調が変わってもいつもちゃんとおれについてきてくれるから大丈夫なんだな、これが」
「ありがとう……迅くんも二十歳になったら一緒に呑もうね」
「そうさせてもらおうかな」
その暁にはどうなることやら。
明け方には二人で眠りこける未来が見えて、迅がくすりと笑った。


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