夢 手加減なしで─ランバネイン R18 静かに本でも読もうか。 したらば、ばたばた駆けてくる足音が聞こえ、ハイレインは一先ず本を閉じた。 「鈴花か」 「おにいさん……っ! 聞いてください!」 「どうした、またうちの弟が──鈴花の伴侶がどうかしたのか」 まあたまにあることなので、兄貴も弟の嫁に対してやれやれと──。 話は聞く。 「ランバネインってば、今朝遠征から帰ってきたじゃないですか」 「ああ、戦果を挙げて帰還したと知っている。何よりだ」 「無事に帰って来てくれたのはいいんですけど……一週間もお留守にして、帰ってきて、会議出て、 ちょっとは休むのかと思ったら早速闘技場行っちゃったんですけど!」 「あいつも好きだな」 「そうなんですけど! 私に少しも構うことなく行っちゃったんですよ! ご飯だけばばっと食べて、 じゃあ行くか! とか言って。──行っちゃったんですけど! 一週間ぶりなのにあっさり! めちゃ くちゃ嬉しそうに!」 「闘技場には鍛錬というより楽しみに行っている節があるからな、あいつは」 「節どころかそれだらけですよおにいさん……っはああ……戦ってばっかいて全然かまってくれないし、あいつ」 ハイレインが見守るように口の端を上げた。 「それでも良くて伴侶になったんだろう。むしろそこを好いたんじゃないのか」 鈴花がちょっと息を詰めた。 「そうですけど……戦バカなのは好きだけど、あんまりかまってくれないのは……」 「兄に不満を漏らすなんていただけないな」 「なっ……あんたがあああ」 鈴花がばっと振り向いたならそこにはランバネイン、筋肉バトルバカ、自分の旦那様── ランバネインさま。 突然の登場に鈴花がびくりとした合間にランバネインは数歩近づいた。 「兄上、邪魔するぞ」 「ああ」 「鈴花も邪魔していたとは申し訳ないな」 ハイレインはちょっと笑いを堪えた。 口を尖らせる鈴花が、こうして家内扱いをされてちょっと嬉しそうに照れた様が垣間見えたからだ。 「いや、いい。俺にとって大切な妹だからな。闘技場はもういいのか」 「ああ! 今日はあまり猛者が集ってなかったからな。少し交えてきただけだ」 その少しがどれだけか知っている鈴花はちょっと溜め息をついたけれど。 「毎晩一緒に眠るだけじゃ足りないか?」 自分の旦那様に爽やかにそう問われて、どきりとした。 「……そりゃ、こっちに居る時は殆どそうしてくれてるけど……ランバはさ……」 「不満か?」 ──不満なわけない。好きなんだもの。 照れて視線を逸らせば、兄上様が優しく見守っているもので、鈴花もますます照れくさい。 「う……眠るだけ、だったら……不満、かもしれないけど……」 「だろうな。随分満足してもらえてるとは自負しているぞ」 「……っ」 鈴花はその随分な満足加減をいろいろと思い出してしまう。 温もりだけだなんて生易しいものじゃない。 体の隅々にまで沁みているそれらを。── 「そりゃそうかも、だけど……っ」 「違うのか?」 直球で訊かれてもじっとしてしまう。 そんなうちに体は浮遊した。 「……う、ぁああっ……!」 ひょいっと抱えられて、彼の肩の上に腹を乗せられてしまったのだ。 「……っも、山賊みたいに〜!」 「ははは賊とは酷いな!」 「だって〜!」 鈴花がじたばたする合間にランバネインは悠々とハイレイン兄貴に「それでは」と言っている。 「よし、今日はもう寝るぞ」 「えっ!? まだはやっ」 「寝たいんだ」 その声色に鈴花がどきりとしたけれど、大人しくなったのは一瞬だった。 「寝たいって……うそっ! おなかすいたら食べにいくくせにっ!」 「ああ、その時は一緒にな。──」 「う……っそうしたくっても、毎回無理だって知ってるくせに〜!」 軽快な笑い声がまた響いた。 「鈴花は毎回ぐったりして起きれないからな」 「もう〜! お兄さんの前で〜!」 「前でどころか愚痴をこぼした鈴花の方が酷いぞ」 「う……ごめん、ね……」 肩の上に担がれながらしゅんとしてしまっても、旦那様はすんなりと鈴花を運んでゆく。── やっと読書を再開しようというハイレインにやれやれと見送られながら。 「愛されてるってのはいいことだな」 ランバネインはそう言って、悠々と、二人の部屋へと。 「逆らえないし、もう──ばか」 つい言ってしまっても、可愛げのなさなどものともせずに包んでしまうのは快活な笑顔。 鈴花がきゅうっと抱きついたら、ベッドにすとんと──山賊みたいな運び方とやらをしても、 優しく下ろしてくれる。だから鈴花も逆らえない。 そこからはさんざん彼に好きにされて、それがいい。 もう── 服ははだけて、ベッドの上には絡みつく体と体と、鳴いては響く切なげな声だけ。 「あ、ぁ……っも、は、ぁあっだ、め、あ、ぁああ……っ!」 悶えて、狂ったようにのたうって、痛いほどの甘味にとても抗えない。 潤む瞳に、愛しい笑みが映った。 「まだ触りだぞ。今日は手加減しないつもりなのに大丈夫か?」 「あ……、あ、い、いつも、しな、いじゃない……っ」 「あれで割りとしてるんだ、これが──」 「ひぁ、あ、うそ……」 腿の裏からきゅっと掴まれた鈴花がひくひくとしながら唇を動かすと。 「全部出し切る前に鈴花がぐったりしてしまうからなあ」 ──うそ、あれで、いつものあれで、全部出し切ってないなんて、だって、あんなに── 行為は重ね尽くしてると鈴花は思っていたのに。 「この辺りで味わってみるか? 手加減なしで──」 「……どうなっちゃうの……?」 「そうだな、俺も食事に行けなくなるな」 冗談めいた言葉は本気なのだと鈴花が思い知ったその日。 「も、ゆる……っひぁ、あっ、は、ぁあっ、あっ! あ、ぁああっ! ぁ、あ……っ」 「かわいいな、まだまだだぞ」 彼の思うままに抱かれて、舌を仕舞えない鈴花が幾度肌を痙攣させても、終わらない。 髪を振り乱して喘ぐ、喘ぎ続けてどこぞの果てまで。 その髪が敷布に広がって、また振り乱す。そうさせられる。── 「愚痴も零せないくらい教えてやろう」 思い知らされるだなんて生易しいものじゃなかった。 飛び出た舌は敷布をつつ、となぞって、腰が揺らされて、甘い悲鳴はやまない。 股座から繋がる原始的な行為が延々と繰り返されて、しがみつく。 その手が宙を彷徨えば掴み取られる。 乳首も柔肌も首筋も何もかも、きつく吸われて、時に舌でなぞられて、憎いほどに。 「は、ぁあっ、ひ、あ、あ……っだめ、ま、た、」 「我慢しなくていいぞ」 「ぁあああ……っ! い、ちゃ、あ、いっ、あ、はぁああああ……っんあっ、ひ、ぁあ、あ、」 何度めだろう、肌を波打たせて、締め付けて、また煽る。 「もう限界か?」 「ひ、ぁあ……あっ、い、から……っ」 もう許してと懇願する筈の手は、彼にしがみついた。 こんな自分でももらってくれた。 愛してくれる大好きな人。 なら、彼の思う通りに吐き出して欲しい、応えたい。 鈴花はひたすらにそうしたいだけ。 「ん、う、あ……っはぁっ」 背を起こされて、繋がったまま抱き締められればその首に腕を回して離したくない。 自分の腰を必死に上下させて、かくりと首が倒れそうになれば、キスに引き戻されて、夢中で貪るだけ。 「あ……も、と、」 愛しくて、安心できて、切ないほど繋がっていたい。 今はただ。── 「あ……は、あ……も、だめ、こんどこそ……」 底なしの体力に付き合わされて、ぐったり。──へたり。 「は、あ、も……」 何回したのかはわからない。 何百回キスしたのかはわからない。 ただ溶けそうになって、何もかも拭う力もなく、くたりとした鈴花の裸体が横たわり、ランバネインが どっさりと隣に背をつけた。 「俺も全部出し切った──眠るとしようか」 未だに肌がひくつく鈴花を後ろから抱き締めたなら、鈴花がどうにか、息を切らしながらも体勢を変えた。 キスをしたい。 私も抱きつきたい。 そう思うままに。 「ん? まだ元気なのか?」 鈴花がちらりと微笑んだ。 「もう、ぐったり……だよ、ちょっと、キスとかしたいだけ」 「嬉しいものだな。鈴花の方からそう言うこともなかなかない気がするぞ」 いつも意地を張る鈴花が今はくすりとして、その瞳が言っている。 ──だって好きなんだもの。 そう告げて、唇を重ねた。 あ、ランバの息も上がってる。── そう解れば、彼はやっぱり余裕がなくなるほど吐き出してくれたのだと解って、鈴花は嬉しいだけ。 「ランバがね……あんまりするから、意地とか引っぺがされちゃったんだよ、きっと……」 「ちょっと意地っぱりなところも可愛いぞ。それにいつでも懸命で惹かれる」 角の曲線がこつんとおでこにあたって、頬はその大きな手で包まれる。 鈴花があまりの愛おしさにきゅうっと目を瞑った。 「今さっきも懸命に応えてくれて喜んでるぞ、俺は」 「……っもう、そういうことをさらっと……その通りだけど……」 意地など引っぺがされた鈴花は今ばかりはふふっと笑って、彼の胸板にぺたんと頬をつけた。 心臓の動く音が心地よくて、その音は少し速くて、彼も懸命に抱いてくれたのだと思えば擦りつけた。 ──どくんどくん、とくんとくん、ランバネインっていう、私のだんなさまの音。 そう感じながら。 「角、痛い?」 「刺さったら痛いな」 「じゃあ引っ掻く程度にしておく」 鈴花のだんなさまは笑った。 前へ次へ [戻る] |