俺はホークス速すぎる男。
事件も敵も素早く嗅ぎ付ける。速い。
朝から敵の目撃情報だなんて──
いや、暴れてる一市民かもしれないけど、ここに、この店に襲撃するらしいと情報を手に入れた。
それもこれも俺が速すぎるせいだ。
けれど周囲の一般の方々も中々に朝が速い。──年配の方々も多く、俺は治安維持に努める、これがヒーロー俺、速すぎる男、ホークス。
到着したならまだ店は開店してないらしい。
──が、そろそろか。お客も集まりだしてる。
この店舗ではなにやら入場する為に整理券を配るらしい。──
なるほど、一斉に押し入ったら、年配の方々なんかは急に走り出した若人に巻き込まれて転んでしまうかもしれない。
そこで整理券か。一人ずつ順番にゆっくり店に入れるらしい。
俺は周囲をさりげなくチェックする。
怪しい奴はいないか、挙動不審の奴は居ないか。
いざ、入場したなら、俺はさりげなく客のふりをして店内を物色する。
「へえ」
思わず感嘆の声をもらした。
休憩するゾーンがあるなんて──。
リクライニングチェアやはたまた何故か漫画本が並んでいたり、この時分、手指消毒剤なんかが置いてあるのは理解できるけど、ウェットティッシュなど完備だ。
タバコを吸うお客も多い中、空調もなかなか行き届いてる。
「これは?」
思わず声を漏らした。
説明があって、どうやらタバコなんかの臭いを除去してくれるマシーンらしい。
試しに入ってみようか、ここでの一件が片付いたら──なんてのんびりしてる暇はない。
怪しい奴を発見。動向を探る。
違う入場口から潜入してる相棒からも連絡が入った。──
「了解。一先ずは客を装う」
羽が──ざわつく、震える、悪意の狼煙を感じる。
「ここに千円、入れたらよかとね」
周囲の客の情勢はもう全て目に入れた、頭に入ってる。
何故なら俺はホークス速すぎる男。──
平静を装いながらも、二席隣のヤツが良からぬ動きをしそうなことなんか見なくても解る、羽根をこっそりひっつけた。──
しかし千円入れたのに、他の人のようにうまくいかない。
玉が全く出てこない。
おっと、カードを入れてる人を発見。この台はカードじゃなければいけないのか。それもおかしい。──
まさか、二つ隣の席のあの怪しい輩が妨害を?
んなアホな。
まだ奴は事を起こしたそぶりもない。──
俺はホークス速すぎる男。
コトが起これば瞬時に仕留める。──
一先ず一般人を装う為、あ、千円戻ってきた、カードかな、やっぱり。
いや、奴の──周囲の人々の財布がうっすら浮き上がる──
吸い込まれてく──
立ち上がった俺に異変が走った、羽が誰かにぶつかった。
「ちょ、ちょ、狭いシマん中で邪魔ァア! 羽広げんなや!」
「悪いね、それどころじゃ──」
俺はホークス、速すぎる男。
広げた羽と飛ばした羽根は不貞な輩を逸早く仕留めた。
「ぐ……っホークス……!!」
「いやー警察もお手上げっていうんで。なにそれワープ? じゃないね、そんなレア個性持ちがこんなセコいマネしない」
警察もスタンバってる、お縄だよ。
俺はホークス、速すぎる男、こんな事件、瞬時に解決。
ラップみたいになったかな。
「お」
さっき台に入れたけど戻ってきた俺の千円札──。
「こんな端金、要らんと?」
この数日で何十万ギッてるのかなこいつさんは。
「さあ、解決したし俺は一眠りでもしようかな。何せパチンコの開店て速い早い」
「ちょ……っだから羽いてえっつの! さっきから! 狭いシマの中でバッサバサ!」
「おお失礼、ええと……珈琲ガール? 俺はお客の体だったのに、さっきから凄い口ぶり。──けど許してもらえますかね? あいつ警察に引き渡すんで」
おっとしんとした。──
周囲、全部が。
俺の羽根にひっつかまってる敵すら。
「客の体……? 初心者丸出しでプリペイドカード入れるトコに千円入れようとしてた奴が……?」
あ、そういう。
「珈琲ガール、教えてくれてあんがとー」
手をひらり。
「羽バッサバサで思いっきり目立ってた奴がお客の体……?」
ドン引きされてるっぽい?
「いやいやたまにはパチンコくらい、ね」
俺だって人間で、たまには息抜きさせてもらって遊びにきたっていう体で、オネガイします。
「つうか……開店待ちで並んでた時から十分目だってんだよ! あの敵もよくホークス居んのに悪さしようとしたわ!」
俺ってヒーローはツライね〜有名とか。
「敵もバカだねー」
「だから……っ羽広げんなっつってんだろが!」
そう言って彼女は悪いやつをぐいっとまくった。
「警察に引き渡しとくからさっさといって」
「いやいや珈琲ガールに任せるわけには」
「つうかもう来たし」
「俺が呼んでたし」
「あっそ」
無事に解決、さあ次だ。
でも睡眠も取らないと効率が下がる。一時間の仮眠かなこれは。
「じゃ、珈琲ガール」
「年下のクソがキ」
そう言われてしまったね、これは失礼──しましたっと。
外じゃあ──。
「ホークスー!」
「朝からホークスー!」
「キャー!」
年下のコからおねえさんまで。
出勤途中か、登校途中か。
「そういや、おねえさん、か──」
ふとつぶやく。思いうかべた。
なんでだろうか、思い返すって言葉より、思い浮かべるって言葉のがしっくりきた。
「美人……あーなかとね」
呟けば笑ってしまうくらい、珈琲ガール風情の人は、顔がどうとかそういう括りじゃないような。
「ねー写真ー」
「はーい」
ファンサも素早く何のその、俺は速過ぎる男、ホークス。
「邪魔だっつってんだよォ散れ!! ガキども!」
なんつう怒鳴り声。
「あーさっきの珈琲ガール」
うーん、やっぱり年上っちゃ年上のナリかな。さっきの珈琲ガールおでまし。
警察に輩を引き渡してた腕っぷしの強い珈琲ガー……ええと、このパチンコ店のスタッフ。
「なにアレ……こわっ」
色紙とかスマホ持ってるファンの子が引いてる。
「パチンコ店じゃ朝一のお客に珈琲サービスあるとか知らなかったね〜」
「ホークス……?」
ん?
「珈琲ガールってのは、玉と運んでる珈琲交換でくれるサービスコンパニオンだよ……」
「あー」
若干ドン引きされてしまうのも速かった。俺は速過ぎる男、ホー……
「ディジーお疲れ」
「ホークスお手柄だし」
ん? はあ、一応褒めてくれるんだ。ディジーってヒーローネームかコードネームか。
彼女は警察官と何やら慣れたそぶりで話してた。
「コンパニオンじゃないみたいだね」
俺を取り囲む彼女達には聞こえないように呟いた。