今週末は練習試合みたい。
バレー部じゃなくって、バスケ部のだ。──
「そっか……あの彼、センターなんだね! 背、おっきいし!」
「全国クラスじゃもっとデカいしーつか船津さん、マスカラもしてなくない」
「あっ……うん、一度、あまりに濃すぎて何者だーって言われたことがあって……っ」
教室で話してる最中、目の前で笑ってる東さんはぱーふぇくと女子だ。
こう、おしゃれでキラッてる──! そんな同じクラスのいちごちゃん。
「ま、アタシが行くと他の面子も喜ぶからいんだけど。なのにアイツさー妬かないの。えらい上等じゃない?」
むむ? つまり──。
「東さんみたいなすっごい綺麗な人でもやっぱり好きな人には独占欲持って欲しいってことなのかな!?」
「そうだけど、声、でかあ!」
「ご、ごめん……っじゃあこっそり……っあの彼は信用してるんじゃ? だって東さんみたいな素敵な彼女だし! どのくら付き合ってるの?」
「まだ二ヶ月くらいだけど……つうか、そっちこそ星海とどうなってんのよ、さっさと付き合いなさいよ。言っとくけどアタシ微妙にまだ牽制中だからね、アタシの彼、アンタのことおもしれっつってたしさ」
「そ、そうなんだ面白枠……っ!?」
「ちょい、ちょお、船津さん?」
「だって……たとえ芸人さんのように楽しませられない……ただ単に笑われるだけだとしても……ううん、東さんのカレシは笑いものにするようなお人じゃないけれど……でも! おもしろいと、好意的な見解をしてくださったのは……星海くんを応援している私を見てのこと! つまり! そんなに応援させるパワー持ちの星うみく……んが、あっ、ええと……そう! 光来くんがすごい!」
言えた……!
まだまだ、光来呼び、慣れないなあ。
光来くん、で誠意一杯。
あ──っ! 教室に戻ってきた!
星海くんは私と東さんを見て、早速訊いた。
「おい、行くのかよ。185……じゃねえ、190センチ応援によ」
「……っうん! だって東さんとも仲良くなれたし! そのカレだし! 星……こうら、こうらいくんを、応援、してくれたしっ」
「そういう事ならいいけどよ──」
とか言いつつ、星海くんは口尖らせちゃってる?
「いくらいいヤツだとしても……ったく」
「ちょっと星海、アタシのカレシなんだからー。つうかあんたらも早く付き合えば?」
「っああ!?」
星海くんは巨大なリアクションで──わ、たしは──ドキドキしてきた、すごいしてる。
そうだ、光来くんって──呼びたいな、もっと自然と。
「私は……」
そう、宇宙クラスの好きな人を見つけてしまった。この広い銀河で。
「もし、付き合うとか、なくても……どんなポジションでも……」
ポケットの中には光来くんがくれたハンカチ充填中──ちから、ください。
「銀河でいちばん星海くんが……っ光来が大好き!! 凄いんだ! かっこいい!!」
教室中ぽかんとしてるっぽい、ことが、どっか、遠い。
けどいつの間にか、喧騒元通りっていうか──どっちにしろ、私には光来くんしか見えないけど。
「アンタらがつきあってるっぽいこと、みんな予想してたからリアクション、うっす」
とか言って、東さんはけらけら笑ってる。
けど、さらっと席を立って、じゃあねした。
「アタシの彼、応援よろー。日曜ね」
「うん……っ!」
「鈴花」
「は、はい……っ」
光来くんに目を合わせたら、ちょっと逸らされて、でも意を決したように見つめられた。
「そう呼ぶからな」
たったそれだけ、ふいっと目を逸らした、耳はまっかっか──。
私のほっぺも、あっつい。
「あのね……」
「んだよ」
「今は、何でだろ、大きい声で言えない……かも」
「何をだよ!」
「あ、あのね……」
耳元にこそっと、許して──。
「尊敬してるだけじゃなくって、大好きなんだよ」
瞬間、光来くんが私の手をばっと掴み取った。
「……っ悪い、痛かっ」
「っくないよ、あのね」
「んだよ」
「──大好きってもっと言いたい」
「言って……んだろが! どうなっても知らねえからな!」
「どうなっても……?」
光来くんは「バカ、わかれ」って顔に丸出しで、一瞬後には目を逸らした、また私を見つめた。──
睨むくらいの眼光なのに、ぜんぜん怖くない。──
それって、光来くんのこと、まっすぐで、どっか面倒見よくって、いい人でって、もう知ってるから?
違う、そんな触りじゃない。今、何かが通い合うみたいにどきどきするから。──
いつの間にか、とっくにそうなったから。
「鈴花って呼ぶっつったろ」
「うん」
「……っそういう事なんだよ! わかったか」
泣きたいくらい優しい気持ちになれるから。
「そういう事って、どういう事……なのか、とか、いっぱい、言って欲しいけど……でも、」
「わかれっつってんだろ! だから、俺は……っ」
「どうなってもだいじょうぶ。大好きなんだよ」
星海くんの──光来くんの前でこんなにゆっくり言えたのは初めてかな。
「お互い様だっつってんだ」
気恥ずかしそうな光来くんが恋しい、好き。
「……っこっち来い、ちゃんと言ってやる」
「あっ……」
手を引かれて浚われるみたいに。教室から出ようとしたところで光来くんがぱっと私に振り返った。
「俺の彼女だろが、ついてこい」
私は頷くしかない。──
「ちゃんと……好きってヤツで……わかってんのか!? 俺が……っお前のこと、ちゃんと……」
途端に照れまくって、それが悔しそうで、でもまっすぐに私を見てくれる。
「……っきだって、わかってんのか……鈴花」
照れくさそうに名前で呼んでくれる。
こっち来いって、教室から出ようとしたのに、出口でもう、言ってしまった、言ってくれた私の大好きなひとが、どうにもならなそうに見つめ返してくれて、
「好きです。俺と付き合ってください」
まっすぐそう言ってくれた。
その純粋さがまた好きになる。
「ありがとう、大好き、ついてく、大好き」
光来くんが私の手をぎゅっとして、引いた。
「あれ? 彼女に会いにきたら、星海が船津さん泣かせてんの」
突然の出会い頭に二人してぱっと見上げたらそこには。
「あああこのタッパ190野郎! 今度鈴花を応援いかせてやっからな!」
「え!? あ!? うん!? 鈴花をイかせてやるとかすごいね〜」
「はあああああ〜!? 応 援 だ っつってんだろが〜!?」
おおっとバスケ部の彼登場で、教室の外まで東さんが駆け寄ってきた……!
急に引き戻されたみたいに私も光来くんもびっくり。
でもこれからもある日常になるのかな。
「東さんとバスケ部の彼……腕組んじゃうなんて、なんて仲が良いんだろう……まぶしい!」
「あんた達だって仲良く手、繋いでどっか行くとこだったじゃない」
東さんはそう言ってくれたけど、光来くんは思いっきり顎上げてバスケ部の彼を睨んじゃってるし〜!
「つうか泣かせてねえよ! 纏まっただけだっつうんだよ!」
「おめー。つうか星海も応援来てよ。ダンク見せてあげる」
「はああああ〜!? 俺がバスケやってたら俺だってできんだよ!」
「うん! 光来くんはすごいもん!」
「だろうが!」
「はい!」
あっという間にこんな忙しくって、充実して、なんかおかしくって、でも嬉しい時間──。
私って光来くん凄い! ってこれ一本でここまで来れた。──
それって、やっぱり、
「光来くんは凄いよ! 宇宙一なんだ!」
銀河数億光年先まで突き進めちゃうよ、気持ちが。──
「もっと言え!」
「大好きです──!!」
光来くんが欲しがる以上に大好きしちゃうよ。
「どんだけだよ!」
「だって……銀河一大好きです!!」
「もっと言え!」
そう、誰より私を欲しがりな星海光来くんを。
星海くんは欲しがり──終