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星海くんは欲しがり──3
練習試合、見に来てしまった。──
お誘い受けてからも星海くんとはちょこちょこ会話できてる。
光来って呼ばせてやってもいいって言ってもらえて嬉しかったなあ。
いつか光来くん! って呼べるくらい自信つけられるくらい、私も何かで凄くなりたい。──

「あっ……星海くん!」
「おう。来たな。見てろ」
「はっ……はい!」

やっぱり敬語になってしまうくらい尊敬、憧れ、期待感ビシバシ感じちゃう。
チームのみんなはこれからアップに入るみたいで、声掛け合ってる。
私は二階の窓際にスタンバイ──。
他にも応援に来てる子とか居るけど、お昼食べたばっかりっぽい他の部活の子も観に来てるみたい。

「星海だっけ? ちっさ」

誰かがそう言ってる。
む? そういえば、星海くんも「俺が小さいからか」って私にも訊いてた。
そういえば、周りの人の方が随分大きいっていうかデカいなあ。
前回は星海くんばっかり見ちゃってた。
今回もきっとそうなるのかな。
どうしても視線奪われちゃうかっこよさに。──



星海くんは”俺だけ見てろ”って言ってた。

「言われなくても見ちゃうよやっぱり……」

呟いた視線の先じゃ星海くんが大活躍してる。

「うわあああがんばれー!!」

応援旗とか欲しい〜!

「えっ……」

めちゃくちゃ張り切っちゃって、はっとしたら、隣に居たひとにちょっと引かれてて、ちょっと恥ずかし──くなんかない!

「一緒に応援しよう! 応援!」
「え!? あ!? うん!? 午後練まだだからちょっとこっち観に来ただけなんだけど……」
「バスケ部の人ですか? まだ時間あるんだよね! 星海くんもみんなも凄いね!」
「え!? あ!? うんそうだね!?」

きゃああああ応援だ〜!!

「はっ……ちょっと待っ……サーブの時は若干静かにした方がいいかな……」
「ナイッサーとか声かけてんじゃん」
「そ、そうだね、ないっさー!」

うわああ応援だ〜!!
次は星海くんのサーブだ……ナイッサ! うわああ〜!!

「はああ……っサービスエース……出たあ……」
「ちっさいのにパワーあんね〜」
「ね!? ね!? スゴイよね!?」
「ところであんた、星海のファン?」

隣のバスケ部の子にそう訊かれて頷いたけど──。

「ファンっていうか……憧れのひとかなあ。だってあんなにすごいんだよ!」
「え!? あ!? うん! すごいけど!?」

見蕩れてる私はファンっていうよりもう信者っぽい。

「つうかユースだっけ? 練習試合なのに記者とかも来てんじゃん、バレー部すげ」
「すごいよね!!」
「え!? あ!? うん! それは理解した!」

試合が終った後、バスケ部のその人はそろそろ行かなきゃって、今度コッチも応援きてなって言い残して手を振ってった。

「はああ……満足……」

でも、私も凄くなりたいっていうか、何かに夢中になりたいって改めて思えた。
今のとこ本が好きってことしかとりえがないなあ。
よし! 図書館に寄ってこうかな、学校の図書館はカードがあれば週末の午後も借りれるっちゃ借りれるけど。──

「あっ……星海くん! おめでとうー!」

目が合って、ぶんぶん手を振ってしまった。

「ん?」

周りの部員のひとたちが、汗拭いたりしながら私をちらっと見て、なんかニヤっとしたっぽい?

「う……も、もしかして……」

どうだ俺達の星海はよ? ってドヤなのかな?
うん、それもわかる──わかるよ! こんなに頼りになるんだもん! 星海くんは──!

「ん?」

なんか、にこやか〜に軽く小突かれて、星海くんが、応戦してるっぽい?

「うるせえ! そんなんじゃねえ!」

そう聞こえた。──
もしかして星海くん、謙遜を──!?
でででも、星海くんは”俺だけ見てろ”って言えるくらいのすごいひと。
どうしたんだろう?

「せっかく船津が来たんだからお前ら黙ってろ!」

な──なんてこと──!?
せっかく、だなんて、私は来たくて来たのに。──
星海くんはそう思ってくれたんだ……!
嬉しいな、すっごく。今なら宇宙に行けるかもしれないくらい、嬉しい。──

「星海くんすっごいかっこよかったよ! 今日も! 月曜日またね!」
「お、おう!」

この距離、十メートルくらい。──
でも、ばっちり声届いてよかった〜!
えっ、とか、あっ、とか、キョドんないで言えた……!

「はぁ……っカッコよかった……」

さあ、私は図書館に寄って、新作探して、勉強もして。
将来の夢を叶えるためにがんばろう……!
具体的には決まってないけど、星海くんみたいに自信もって立てるくらいになりたい、がんばろう。──

「……っおい!」
「えっ……あっ」

あっ! また言っちゃった、星海くんにも”おまえ、えっ、だの、あっ、だの、多いよな” って言われたのに。──
でも、それも今はふっとんじゃう、星海くんが追いかけて来てくれるなんて……!

「星海くん……っどうしたの!?」
「どうしたもこうしたもじゃねえ! おまえ……っ船津!」
「え!? は、はい!」

ど、どうしよう、星海くんまだ汗引いてないから、拭いてあげたい……なんて、そんなずうずうしいマネは〜!

「あいつらの前で、おまえ……っ」
「え!? あっ、の、星海、く、……あっ! やっぱりハンカチを……っあ、あの、まだ未使用のがあるので……っ」
「はぁあ!?」
「ごめんなさいー! 汗を……っ」
「んなモン今はい……っおい!」
「だだ、だって、お、おでこ、から目に入っちゃう……っ」
「だいじょぶだってんだ! でもサンキューな!」

やった……! 受け取ってくれた!

「ううん、くたびれるくらい使ってね!」

あれ……? 何か言い方間違えた……かな?

「戻ったらタオルもあるけどな!」
「そうだよね、ご、ごめん……っ」
「何謝ってんだ!」
「うわーごめんなさ……っじゃない! わ、私のハンカチは用が足りなかったのかと……っ」
「んなこと言ってねえだろありがとう!」

やった……!

「ううん、役に立てて喜んでるよハンカチさんも! あっ、ちゃんと洗ってあるので……っニュービーズで……!」
「そうか、今度買って返してやる」

星海くんは私のハンカチで汗を拭って、何故か、そっぽを向いた。──

「え? ニュービーズならまだ家にいっぱいあるから大丈夫だよ! おかあさんこの間ホムセンで大量に買ってきてたし」
「洗剤じゃねえハンカチをだよ!」
「ええー!? いらないよ!」

そんな、おそれおおい……!

「……っそうなのかよ!」
「だ、だって、申し訳ないよそんなの!」
「うるせえ俺がそうしたいんだよ大体おまえはさっきもよ……!」
「さっき……?」

星海くんはまた、そっぽを向いた。

「あんなデケー声で……あいつらの前で……カッケーだの何だの……」
「え? だってかっこいい! 今日もね! バスケ部の全然知らない人と一緒に応援しちゃったよ! 星海くんスゲーって! その人も! 私も!」

星海くんは一瞬フリーズ?

「あ、あの……私、星海くんのチームを応援してたけど、それはったりまえだけど……! でも、やっぱ星海くんばっか目で追っちゃったよ……! やっぱり凄い! かっこいい! って」

星海くんはやっぱりフリーズ……?
どうしたんだろう、珍しいな、星海くんが目を逸らしちゃうなんて。──

「光来くん、記者さんが取材って」

あっ、チームメイトの人だ!

「あ? 受けねえよ」
「でもホラ、この子と話してるとこっちに来ちゃうよ? この子まで巻き込まれたりして」
「わかったよ! 取材は受けねえけどな!」
「まあ、練習試合だし、ヒーローインタビューもないって」
「あるか!」

星海くんのチームメイトの彼は──そう、試合にも出てたひとは、私ににこやかにぺこっとしてくれた。

「お、おつかれさまですっ!」

私は思わず、がばっとおじぎしてしまった。
星海くんがちらっと振り返った。

「ありがとうな」

そう言って、ハンカチをひらっとした。
それってクールな仕草なのに、むしろ私を睨んでるくらいの眼光なのに、ちょっと口尖らせてるくらいなのに、言葉はあったかい。
ふいっと背中見せる直前の表情は見たことある、私に”照れんだよ”って言った時とおんなじ。──

「……うん」

笑顔で手を振って、図書館向かう足取りって軽い。
月曜日に教室で星海くんと会える──直前に、クラスの子に声を掛けられた。

「ちょい船津さん、さ、これ?」
「へ? どうし……SNS? え……私!?」

なな、いつの間に有名人に──!?
なんて勘違っちゃった月曜の朝の教室。
星海くんはいつも朝練が終ってからみたいで、そんな早くは教室に来ないし、今もまだ来てない。

「あ……これ、先週の練習試合の記事……? た、確かに記者さん来てたけど……!」

その記事には活躍するバレー部のみんなと、詳細解説と、それと観客。──
私も写っちゃってる。

「うわ……ていうか何でフューチャーされて!? 私ごときが!?」

そう、練習試合だからそんな応援なかったけど、その中でちょっとデカく映っちゃって……写されちゃってる!?

「いい顔してるからじゃん? 公式戦で勝ったみたいに喜んじゃってんし、船津さん」
「だだ、だって、凄い興奮しちゃって……!」

私、こんなに──ギャラリーの中で一番大はしゃぎっていうか。

「応援席も熱狂! とかアオリが……! うん、確かに熱狂っ……したよ。凄かったし……」
「おう」
「あっ……星海くん! おはよう!」

ぱっと顔向けたら隣の席にはやっぱり星海くん。──
星海くんは私に話しかけた子とか、一部のクラスメイトにSNSでちらっと見た──とか言われてる。
ふと気づいたら、私をじっと見てた。

「どうしたの?」
「どうしたじゃねえよ、SNSの記事におまえの顔上げられてんじゃねえか」
「あっ……うん、びっくりしちゃった……上げられたっていうか、紛れ込んでたみたいな感じで写っちゃってて」
「けっこうメインの観客張ってんだろが、この記事の画像じゃ」
「そう、かな……なんか、嬉しいけど……たまたまだよ」

星海くんがしんとした。

「星海くん……?」
「うるせえ」

なんで──。


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