夢 ジャンプ仲間─6 全蔵 急に意識しだしたのは初々しい心。 ジャンプも読みふけた、感想も言い合った、団子はとうに裸串のまま。 「お団子ご馳走さまでした。おいしかったです。──あの、よかったらまた……ここでお話してください」 「随分遠慮がちなんだな、ダチなんかじゃねえみてえで気に食わねェ」 全蔵がにっと笑って、 「あ、の、そうですよね……友達だし」 鈴花は気づき始めた”何か”にそわそわとさせられながら、そう答えた。 足がすぐさま動かないこの感覚に惑えば、 「今度は俺の屋敷にレアモノグッズ見に来とけ、遠慮なんざ要らねェ」 全蔵の心意気に、 「……っん」 嬉しそうに頷いた。 さあ、二人は手を振り、それぞれ帰るところだ。── ──そういや、屋敷に誘うのは今日でもよかったか。どうせ夜まで仕事ねェし。 全蔵が自分に呆れた。 今日はつい、思うところがあって、それを僅かながらに吐露してしまう場面があって、 その対象である鈴花は自分にまた会えることを心待ちにしていると── うぬぼれじゃなくそう解るから全蔵は胸中が暖まる。 そういう心の流れに手一杯で、すぐ様に誘うこと出来なかったとは器用な自分ではない様で、全蔵はその辺りがくすぐったくも心地いい。 そして何より。── ──何者だ? あいつら──二人程居たか。 ちらりと振り返れば、その二名は全蔵の視線を掻い潜るようにして、人ごみに姿をくらました。 ──狙いは鈴花か。 そう、鈴花を遠くからこそりと見ていた何者かに、気付いていた。 そいつらのおかげで、せっかくの時間を、今から誘ってもいいのかと思う心を邪魔された。 「……然し、この分だと、鈴花と一緒に居た方がまだマシだったか」 むろん、すぐ傍で護れるからだ。 万が一、危険が迫っているとすれば── 然し疑問なのは、鈴花が何者かに付け狙われる様にはとても見えないからだ。 ──金はあるか? いやいや、鈴花の父上が天人に仕える役人だったとはいえ、先週邪魔した屋敷は全蔵のそれよりはずっと小さい。 鈴花本人とて、月曜休みの商店で働いていると言っていた、決して高給取りではない筈だ。 ──じゃあ、親の遺した土地か何か、もしくはレアモンのお宝でも屋敷に残っているのか。 さすれば浮かぶのはジャンプやレアグッズばかり。さほど値が張るものではない。 ──さすれば鈴花の父が生前、役人であった時に何か重大な機密でも知っていた? 全蔵は考え込み、忍者仲間に連絡を入れた。 ──全蔵、こちらは大丈夫よん、屋敷の周囲を徘徊してる賊の気配もないし、カメラや罠なんかの類も周囲には仕掛けられていないわよん。 ──悪りィな急に。 ──いいわよん、その代わり──花をプレゼントする時はよろしくねん。全蔵が花をプレゼントなんて想像できないけれど。 ──……っだーからそんなんじゃ……っいや、ガラじゃねェが…… 全蔵はふと想像した。 もしも花を贈ったら鈴花はどんな反応をするのだろうかと。 ──全蔵さん、嬉しいな。 そんな花の様な笑顔を見せてくれるのだろうか。 想像すれば心穏やかになる、ガラじゃないマネをしたくなる。 そんな自分は── ──ドライな全蔵が私に頼んでまで護ろうとしてる子じゃない? ふふっと笑う声に全蔵は頷いた。 そう、脇に頼んで鈴花の屋敷周辺を警護して貰っているのは、全蔵自身は連中を追っているからだ。 鈴花を見ていた奴らを──。 あの目、明らかに獲物を狙う目。 分かるから全蔵は脇に頼み、ただ今トランシーバーで会話をしていた。 ──アラ、ただいまお洗濯物を干しに庭に出てきたわよん。鈴花ちゃんていうのよねん、カワイイじゃないの。全蔵アナタブス専じゃなかったのかしらん。 ──ああ、好みじゃねェ筈だったんだがな。女は笑顔と愛嬌らしい。 ──ところでそっちはどうなのかしらん。 ──ああ、連中天人だ。──何やら怪しい施設だなこりゃ、ここに巣くってるらしい。 ──施設? ──キナ臭せェなんてモンじゃねェなこりゃ。一見個人医院に見えるが患者なんぞいねェ。俺ァ地下に潜入する。引き続き頼む。── ──了解よん。 そこで通信は途切れ、脇は鈴花の屋敷が見渡せる近隣の木々の枝の上にて首を傾げた。 「何かに巻き込まれるような子には見えないのにねん」 そう呟いた。 遠目でも解る、危うげな雰囲気ではとてもない、日々を恙無く過ごしていそうな鈴花の雰囲気に。 「悪りィな、ここからは俺に任せてくれ、後で礼をする」 夕方、現れた全蔵に脇が頷いたが。 「その個人医院とやら──どうだったのん?」 全蔵の纏う空気がひりついたことに脇は気付き、固唾を呑んだ。 「怪しいどころじゃねェ、ありゃ実験施設だな」 「なっ……天人なのよねん、連中。まさかお偉い方と繋がってるんじゃないのん」 「そいつはねェな、それにしちゃショボい規模だ。手下も含めて百は数えねェ」 「何してるっていうのかしらん」 「奴ら浮浪者なんかの遺体を集めたり、地球人をさらってるらしい」 脇がくっと眉を寄せた。 「非道ね──まさか──」 「そのまさかだ。そいつら下衆は天人の小悪党かと思ったが、調べてみりゃあ地球に天人がやってきた当初から悪さしてるらしい。あの頃は戦争で亡骸なんぞ容易く手に入っただろう。奴ら、地球人の身体を使って実験してやがるのさ」 「もうそこまで調べ上げたなんてさすがねん。けれど、そこまで聞いてしまったら私も引き続き手を貸すわよん。そこまで腸の腐った連中を野放しにしておくのは危険よん」 「ありがてェが、連中を潰す事自体は俺一人でもイケる。鈴花の屋敷の周囲にも罠を仕掛けておく。抜かりなくな」 脇がふうっと息をついた。── 「あの鈴花ちゃんもどうしてそんな連中に付け狙われてるのかしらん」 「ああ、全くだ──平穏な暮らしに両親まで──これ以上、何を奪おうってんだ」 全蔵は狙われているその”理由”に勘付いているのだろうと脇もわかった。 全蔵があの鈴花という女の為に動いていることもよくよくだ。 全蔵が鈴花を訪ねたのは、脇が帰ってから十数分後だ。 鈴花の住処周辺に万が一の為、侵入者を捕える罠を仕掛け、そしてそ知らぬふりで。── 「あ……っ全蔵さん!?」 今朝会ったばかりの全蔵の訪問に鈴花がぱっと嬉しそうにした。 「どうしたんですか? もしかしてまた歴代のジャンプを読みたくなったとか……っ」 全くもって歓迎してくれて、嬉しそうで── そんな鈴花に全蔵は「まァ、そんなトコだ」と頷いた。 「どうぞ! さっき夕飯食べちゃったんですけど、全蔵さんまだだったら何か出しますよ……っ」 「おっ……ありがてェが、実はもう少ししたらバイトでな。それまで時間があったモンだからつい寄らせてもらったってワケだ。この間途中までしか読めなかった奴の続きが気になってな」 気になると言ってもジャンプならずっと読んできている。 だが、何年も前に連載していた漫画が懐かしく、内容も忘れている部分もあると。 「どうぞどうぞ! 今、お茶を淹れますね〜あっ、好きに読んでてください!」 「ああ、それと迷惑ついでに厠貸りていいか」 「もちろんですよーっていうか、迷惑なんかじゃありません!」 ──全蔵さん、来週まで会えないかなって思ってたから、嬉しいです。 だなんて、爛漫に言われてしまえば全蔵は思う、鈴花はいい奴だと、ダチだと。 けれど── 好みじゃねェ筈だったんだがな。女は笑顔と愛嬌らしい。 そう脇に言ったことを思い返せば、その笑顔を護りたいと思う。 ──やっぱりガラじゃねェ。 そう思うのに、表情は穏やかなまま、厠へ行くふりをして屋敷内をさっと散策すれば、視線はくまなく動く。 ──特に変わったところもねェな──何か仕掛けられた痕跡もやはりない。 そう、鈴花が狙われているというなら、住処に何か仕掛けられてはいまいか。 それを危惧して訪問したのだった。 だが、その危惧は無用だった様で、全蔵は考え込む。 ──そこまではしねェのか、それとも、たまたま鈴花に目をつけてから日が浅いのか。 どちらにしろ警戒は怠れない。 全蔵の予想では、恐らく連中、とある筋から殲滅されるのではと踏んでいた。 つまり放っておいてもいいのに、鈴花を護りたい。 決して人好しではない自分が動く理由だ──。 「お茶をどうぞ……っ」 「悪りィな」 「ぜんぜんです……っ」 いつの間にと思うほど、熱のある情が湧いたことを全蔵は己で不思議なほど喜ばしく思う。 ──やはりガラじゃない筈だったのに、と。 認めた心、護りたい女、その笑顔。 来週も気兼ねなく、楽しくジャンプを呼んでくれと願うから。 ──あの団子屋で、屋敷で、自分の隣で。 前へ次へ [戻る] |