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阿伏兎とハロウィン─R18
 ひと仕事終えて宿場に戻れば鈴花がこそっと顔を出した。
「阿伏兎、血、流してきた?」
「ああ、どうした」
 開けた戸からひょっこりと顔だけ見せていた鈴花だったけれど、
「見て見て、買っておいたの!」
 ばっと全身をさらしたその格好に阿伏兎は首を傾げた。
「……なんだそのトンガリ帽子は。新しい衣装か」
 鈴花が得意げにふんぞり返った。
「今日の為に買っておいたの! 今日は三十一日でしょ、時差はあるかもだけど、地球ではハロウィンでしょ!」
 一瞬しんとした。
 阿伏兎には全くわからん単語であったのだ。
「はろうぃん……? 地球じゃ何があるってんだ」
「だからー! おばけの格好でお菓子くれなきゃ悪戯すっぞ−! って言って、お菓子を次々と強奪できる
イベントだってば!」
「よくわからんがそれがオバケの格好だってのか。確かにいつもよりゃ包帯巻いてやがるが……」
 鈴花は阿伏兎の前でぐるぐる回る、マントの裾をひけらかす。ポーズを決める。──
「もう! ミイラ女が魔女のコスプレしてるっていう設定なんだってば!」
「なるほどなるほど。だが包帯なんぞ俺たちゃ日除けで巻いてる奴も多いし黒い外套も珍しくねェ。
一風変わってんのは傘差せんのか? ってなその異様に長げェトンガリ帽子くれえか」
 淡々とした言葉に鈴花がむうっと口を尖らせた。
「じゃあ吸血鬼とかがよかったのっ!? あっちはあっちでやっぱり黒いマントだし〜!」
「よく分かんねェが、俺達の存在そのものが化けモンみてェなもんだろうよ」
「うっ! 確かに……で、でも、でもぉお〜」
 今度は鈴花がもじもじし始めたので阿伏兎は首を傾げるばかり。
「お菓子……」
「ん?」
「だから……お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうので、お菓子……ください……」
「やっぱ恥ずかしいのかお前さん。大体、菓子くれだのってこたァ、そいつはガキのイベントなんじゃないのかね」
「ちっ! ちがっ……! 大人だってせくすぃ〜な衣装とかで参戦するし! 地球じゃ確かそうだしィイイ!!」
 顔が真っ赤というやつである。
 その腕を阿伏兎がさらった。引き寄せた。
「うあ……っ! あぶっ、うわっ、びっく……あっ! 帽子!」
 ぽろっと落ちて転げても、身体はすんなり腕に包められてしまって鈴花がちょっとあたふた。
「おお、お菓子、は……?」
「ここは地球でもねェし地球人でもねェし、こちとらの流儀で参戦させてくれよ、ハロウィンとやらに」
「おお、お菓子ないと悪戯され……っええと私がオバケで阿伏兎がお菓子ないと悪戯される筈なのにィイイ!!」
「じゃあ俺がバケモンになってやっから悪戯させとけ、それとも鈴花お前、菓子持ってんのかい」
 鈴花がはたとして──きょろっとしても、何も持参もしていない。
 本日のこのイベントにて──カンペキに自分が菓子を強奪してやる、しめしめ! と、包帯を巻いて
トンガリ帽をかぶったのだ。
 さあ、そんな鈴花にバチとやらはあたるのだろうか。
「どど、どーし……っお菓子ないィイイイ!!」
 マントは剥ぎ取られて、慌てる合間にもっともっと引き寄せられて──
「……っこれが流儀ってやつ、なの……?」
 こそっと見つめれば、阿伏兎はちょっとにたり。
「さあな、ところでミイラ女さんよ、いいのかね、包帯取っちまっても」
「……っそれは……」
 無骨な手の筈なのに、取り去る指は器用で、鈴花はなされるがまま。
 悪戯どころか本気で丸裸にされたならお菓子があっても食えないほどに疲弊させられて、
「あ……っ」
 濡れて包帯の上を這いずり回って、また捕らえられる。
「やれやれ、菓子だったか? まだ食いたいかい」
「あ……こっちの、がい、い……」
 阿伏兎の指を噛んだなら、彼はくっと笑った。
 お菓子はもらえずとも、食らいたかった唇は濡れて、舌は無尽に舐めて、彼を飲み込めば腹は満たされて
表面は白く染まって、もっと欲しがる。
 どうやらバチはあたらなかったらしい。
──この歳でいたずらされるたァありがたいねェって言う暇もなかったんだが。
 とかなんとか、阿伏兎がほけっと言っていたのは明け方だった。


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