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つまり予約──後
「ちょっと空気読みなさいよさっきから!!」
「いやだって好感度下げた方がそのドキドキボタン、押されなくて済むし?」
「女子さんたちに失礼すぎじゃないのさっきから〜!!」
「はっはっはっモテてもありがたくないんすよ、がんばってる司会者サン?」

そのにんまりしたり顔──。
──こ、こいつはぁああ〜!! 鈴花は心中大噴火だ。

そのボタン、ドキドキボタン──何番のあのコを目当てに押したなら──もしあのコも俺を押してくれたなら──
カップル誕生である、そんなイベント、もよおし、交歓会。
さきほど白州以外の男子陣はわりと死んだが、御幸は人一倍まったくやる気なさげのしかもニヤリ。
鈴花がわなわなしていた。

「女子の皆さんこの御幸一也、どうしちゃいますか!」

ドンビキしていた女子さんたちは顔を見合わせた。

「えーどうする〜?」
「やる気ないとかムカツクー」

はっはっはっよかったよかった。
こそりとそう呟いて笑っている御幸一也──鈴花はもはや飛び掛りたい。

「ッテメー! よかったって? なんだその言い草はァ〜!!」
「司会者、落ち着いてくれ。こいつはこういう男なんだ」
「うさんくさいやつけど、落ち着いて……」
白州、川上のフォローというかダメ出しというか。
「おまえら酷っ! で? 司会者サンはどーしてくれんの? 俺は強制退場でもいーけど?」
こんの御幸一也──。
「とか言って笑ってんじゃねー!」
もうマイクも要らないほど鈴花という司会者がぶち叫んでしまい、やる気のない御幸はからりと笑っている始末。──
鈴花がどうにか自分を落ち着けようと苦心した。

「はぁっ……はぁ……っ皆様、取り乱しましてもうしわけありません……! タイムアップです! 皆さんお一人お選びいただき、ナンバーボタンを押してください!」

12345とナンバーがふられたこのボタン。
1から御幸倉持渡辺川上白州と続く。
目の前の女子さんも同様、並び順に番号がふられている。

「コレ、やっぱ押さねーとダメなのかよ……」

御幸がぼやいた。
鈴花が金切り声をあげた。

「く……っそういうイベントなんだよ! 押せや!」

もはや最初の体裁など金繰り捨てている、させられている。──
しかし御幸はしれっと言う。

「おい、お前ら誰にすんの? 俺避けてやっから」
「聞くなああああわざと避けるなあああああ」
「さっきからうるせーなこの司会者」
「テテテンメー! ニヤついてんじゃねー!」 
「ハハハ、司会者の口調、素になっちゃってるしおもしれー」
「クォオオオァア」
「で? 押さねーと終んねーんだろ、じゃ押そうぜさっさと」
「シキってんじゃねー!」
「誰も俺を押しませんように……っと」
「コラァアアア女に失礼すぎんだろこのメガネがー!!」
「俺にドキドキボタン? されたらメンドクセーことになるしどーっすっかな」
「ァアアア!? この流れで誰がテメーに押すんだよ誰も押さねーから安心してさっさと押せや!!」
「じゃーもし誰かが押したら責任取ってくれんの?」
「何でだコラァ!」
「だって俺、誰とも付き合う気、ないし?」
「だーからんだっつーんだよ! 無理やり参加させられたってソコは空気呼んで楽しめや!」
「だーからさ、どっかの司会者サン、どーせどのジョシサンも俺に押さないっつったろ? じゃ、この賭けは百パーそっちの勝ちが見えてるワケだろ?」

──もし誰かが押したら責任取ってくれんの?

「乗れよ、だーれも俺に押さねーって言い張った司会者サン?」

ここまで御幸と鈴花、つまり司会者の忙しすぎるやりとりとなってしまって倉持でさえもぎょっとしたほどだ。
ナベもぎょっとした──鈴花の燃え盛る顔つきに。──

「クァアアア上等じゃねーか乗ったー!!」

司会者まさかの参戦というか──その勢いに会場はにわかに盛り上がった。
女子先輩たちも気合が入る。──だって自分がもし、御幸一也にドキドキボタンを押したならこの司会者女子は御幸メガネになんらかの責任をとらせられるらしい。
降谷はぽけっとそわっとしつつも御幸先輩さっさと離脱して捕けてくれたらとか思う。
ゾノは「いったれー!」と鈴花を応援してやっていた。
が、御幸以外の主役四人は司会者、船津鈴花ががもはや気の毒になってきた。
御幸がくくっとほくそ笑んでいたからだ。──
白州が手を上げた。

「ちょっと待て。何を賭けるんだ?」
御幸はしれっとどうでもよさげな笑顔だ。──
「そーだなー模擬店のジュースでもオゴってもらうか」
「はん! 上等だ!」
鈴花は高らかに宣言した。──
「ハァッ……じゃー皆さん! ドキドキボタンを押しちゃってくださいー!」

白州は誰を指名したのだろうか──ノリもちょっとそわっとしてるっぽい。

「……は?」

鈴花は白目をむきそうになった。

「な……女子さん全員、御幸くんをー!?」
「げ、マジかよ」

御幸が失礼なぼやきをかましても鈴花はつっこむ余裕もないほどあんぐり。

「み、皆さんこんな男のどこが〜! い、いえいえ失礼いたしました……! 御幸くんは三番の女子さんと両思いに〜! おめでとうございますー!!」

白州と川上とナベが残念、と目を見合わせていた。
倉持は御幸コノヤローと言いたげだ。
御幸は頬をかく。──

「あーボタン見ないで適当に押したっつーのに……」

こんのメガネ──そんな言い草を……!
三番女子さんはピキリと凍りついた。

「あ、じゃあ、やっぱいいわ……」

「うああああ5秒でフられたー!! 御幸一也ー!」

鈴花はもはや嬉しそうである。

「ざまあねえ! ヒャハハ!」
倉持爆笑。
鈴花もだ。──
「キャハハざまああ! メガネざまあああ! 女子のみなさまよかったですね! イケメンなだけではダメなんです! 最後の最後に適当なボタン押しするようなヤロウだったんです!」

女子先輩達はやってらんねーと席を立った。

「つまんなーい次々ー次の男子あててもいいっしょ?」
「はい! 今度こそわたくしめが盛り上げま……ああ!?」

鈴花が御幸にマイクをすいっと奪われた。

「じゃ、責任取ってもらうってことでヨロシク」
「あっ!? えっ!? んなっ!? いきなり!?」
「いやいや、司会者ってボタンあったら押したけどな〜」
「はああ〜?」
「はっはっはっマジでキモがられてじゃん俺」
「何がおかしーんだよこのメガネ! キモいまで言ってないわ! ジュースおごればいいんでしょーがあああ!!」
「ラッキー司会者ゲット」
「はぁあ!?」

鈴花のマイクは他のクラスメイトに託され、御幸に連れ出された──誰かの驚く顔や笑顔が視界を流れて、あっというまに。

「ちょ……御幸くん!」
「ジュースなジュース。 はい、罰ゲ〜ム。模擬店までゆーっくり歩くか? デートみたいでいいだろ?」
「はぁあああ〜!?」

もう、どうしたら──後戻りできないほど、あっと言うまに連れ出されて、賭けには負けていて。

「カズヤクンダイスキって言えたら解放してやるよ」
「なっ……御幸テンメー! 私をオモチャにする気か〜!!」
「あーおもしれーおもしろかった。どんどん司会者キャラ崩壊してくし。俺のせいで?」
「くっ……」
「コッチが素だろ?」
「……っオメー限定でこっちが素だわ!」
「いやいや、俺は性格悪いけどソッチはけっこー口悪いし、オサトが知れるってやつ?」
「性格悪いテメーもだろーがぁあああ!!」
「そ、そ、俺達けっこー気があったりしてな」
「あいまふぇん!! 噛んだ!」
「うわー出たーあざといやつ」
「ちげーわボケメガネ〜! さっきから唇ギリギリしすぎて血でも出てしまいそーなのこっちは!」
「で? ジュースオゴってくれる元司会者サンの名前なんだっけ?」
「それはとっくに知ってる顔だろが! 自己紹介しただろが! 同じクラスだろが!」
「あーそういや船津鈴花って言ってたな」
「こんの……」
わざとらしい、テメーこそあざといわよ──。
鈴花はギリギリしつつももう、ペースに巻き込まれてしまっている。
簡単にいともすんなり連れ出されてしまって、隣でぎゃあぎゃあオサトとやらを曝け出さされる始末。
けれど、賭けには負けたのだ。──
まさか全員結局メガネを押すなんて、イケメンは正義なのか? と思いつつ。

「鈴花って彼氏いんの? いねえよな?」

ふいに──。

「あ、あなんでしっ……」
「はいビンゴ」
「笑ってんじゃなーい!!」

すれ違うのは仮装した生徒、フランクフルトとか持って挨拶くれてった東条、部費を稼ぐ為に頑張るどこかの同好会の面々など──お祭りだ。
悪くもなかったか、とちょっとだけ思えただけでも収穫か、なんて言えばジュース一本は確かにちょっとした収穫だろ、と怒鳴られたりして?
なんて思って、御幸は隣のやっきとしてつっかかる笑顔にくくっと笑う。

「俺のことけっこー好きになっちゃっただろ?」
「なってなーい!!
「はっはっは可愛くね〜」
「悪かったなー! 笑ってんじゃ……っ」
「ホラ喉掠れてんだろ、司会お疲れさま」
差し出されたのは御幸がすんなり買ったジュース──一本。
「あ……は? 私のおごりだったのに……?」
「あーそれ次回。つまり予約。彼氏つくんなよ?」 
「何言っ……」
「司会者ボタンあったら押したっつったろ?」

──いやいや、司会者ってボタンあったら押したけどな〜。

なんてからかいじゃなかったのかこのメガネ──。
鈴花が不意打ちにどきり。

「お、今ちょいかわいい」
「なっ……」
「彼氏できたら俺泣いちゃうかも」
「はぁっ!? 女なんかいらないみたいな感じだったクセに!?」
「おもしれーことは減らしたくねーんだわ、俺」

あんまり小気味よい笑顔で鈴花はどうしたらいいやら、とにかく素にはとうになっている。

「誰がおもしろキャラだー!! 絶対彼氏つくってやる!」
「付き合うか──俺忙しいしあんま付き合えねーんだよ悪りぃな?」
「御幸一也と付き合うわけないでしょうがああ!」
「はっはっは、嫌われスタートのが燃えるかもな〜」

とりあえずオゴりは次回予約ってことで──。

つまりまたこんな絡みがあるということ。
すんなり予約されてしまった鈴花が思わず御幸を小突こうとしたならすんなり腕をとられた。


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