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みなぎりものめ──太刀川、迅、嵐山〜グリムパロ〜
「新開発のトリオン体なんですが……姿形はそのままに、ブーストをかけることができます」
「おお……! 一発勝負の増強か。俺には不要だな!」
研究員の鈴花に太刀川ははつらつとした笑顔でそう言った。
「この注射的な注入一魂でちからが何倍にもなるのですが……いかがか、太刀川」
「はっはっはっ」
太刀川が笑い飛ばしたのは決して鈴花の力を舐めているからではない、バカにしているからでもない。
ただ単なる純粋な自負である。
「お、京介みたいにできるのかな、鈴花さん」
迅はとりえず、尻を触った。
鈴花が動じないことを知っているからである。
「迅! 触りすぎだぞ!」
太刀川は注意する気などないのか、アホみたいに笑っている。
そう、注意しつつ現われたのは──
「どうした! 鈴花じゃないか! 研究室にこもりっきりで日光にもあたっていないと聞いたぞ! カルシウムを形成できないぞ!」
──嵐山だった。
「迅はなにをしてるんだ、鈴花が嫌がらないと言っても、これから俺と迅とでランク戦をやろう」
突っ込む者はいない。
「俺もやるぞ!」
太刀川が意気込んだくらいである。
その隙に鈴花は自分の尻をなでなでするクソセクハラ野郎の手の甲に素早く注射を打ち込んだ。
今、この場では、隊員同士にセクハラしようと、魔改造しようと、さあ、外で日光を浴びようと促そうと、自由なのである。
「うお……これは……」
迅が珍しくうめいた。
「どうした? 予知できなかったのか?」
「いや、もちろんしてはいたさ……」
迅はちょっとした汗をかいた。
けれど尻からケツを離さない。いや、ケツから手を離さない。
「男の鑑のようなやつだ」
風間がそう称えて、通り過ぎていった。
そして迅はうっと堪えていた。体中がむずむずとするのだ。
「これはやはり……さすが鈴花の注射……トリオンがみなぎってくるぞ……」
「迅! 破裂するなよ!」
嵐山は笑い飛ばしたが、太刀川は食いつく。
「よし、今からランク戦をするぞ……! 鈴花! 俺にも注射をしてくれ……! 迅と同じ土俵で同じ条」
件で──恐らく、戦うとか言いたかったのだろうか。
そんな太刀川の手の甲にも素早く注射がぶちこまれた。
鈴花による無言鉄拳のように。──
「うおお……! おお……! これは……!」
太刀川のトリオンも瞬時にみなぎりだした。
「鈴花! 俺にも頼む!」
鈴花は嵐山の眉間にぶちこんでやった、結果、彼がいちばんみなぎったのかもしれない。
「こ、これは……! この力は……! 強さこそパワー!!」
広報部がここにいなくてよかった。
「俺たちのパワー!!」
「圧倒的だな……! 太刀川さん……!」
鈴花は実験もなかなかうまくいったか、と、そろそろ撤収するところだ。
「うぉおおおおさすが鈴花のいけない薬……! 力がこんなにもみなぎるとは……!」
「やばいぞ太刀川さん。──俺はボーダー隊員としてみなぎってはいけないところまでみなぎってしまいそうだ……」
「はっはっはっ! このみなぎり者め!」
鈴花は成果を確認して、さっと白衣をひらめかして行くところだ。──
「待ってくれ鈴花……! 今日は俺にまで任務が回ってくるかどうか……! A級1位としてこのみなぎりをどうすれば……!」
鈴花はたたんと成果をメモするだけだ。──
「鈴花──抱いてくれ──!!」
太刀川のアゴに鎮静剤がぶちこまれた。
やつはその副作用で一週間ほど髭を失った。

「おい、あれには何が入っていたんだ」
後日風間に問われ、鈴花はしらっと答えた。
「ただのブドウ糖みたいなモンだよ。風間にも効くかな?」
風間は息をつき、ちょっとあきれ果てた。
いけない薬だと思い込まされた野郎どもめ、と。

いや、もしかしたら奴らはそれにかこつけたのかもしれない、と。

いけない薬──グリムパロ〜メルヘン王子グリムに感謝をこめて〜

「思い込んでくれるなんてロマンチックな男どもだねえ」

白衣のあなたが楽しんでいるやつらを目に笑っていた。

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あきゅろす。
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