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嬉しいくらい怖くない──倉持 上の続き 4
休み時間、倉持くんは御幸くんとこにこない。ちょっと声を掛ける程度だ。
──嫌なのはそっちだろ。
それが気にかかる。
話しかけたらウザがられるかな。──

「おーい鈴花ぼーっとしてる!」
「あ……うん……」
昼休みになってお弁当食べてたけど、残さず食べないと。
味気ない。──

「あ、御幸君ごめん、席借りてたー」
御幸君が食堂から戻ってきて、友達がぱっと立ち上がった。
「あーいいよ、居ない時は適当に座ってても」
御幸君はぱっと座って、倉持くんは……こっちには来ない。
いつもなら御幸君と何か喋ってたりするのに。
目で追っちゃう。──早く、食べないと。
味がしない。
「はあ……っ食べた、ごちそうさまでした」
「つか鈴花、デザートのプリン手つけてないし」
「食べる?」
「あたしさっき食べたし太るつーの!」
友達は私の机の横に立ちながら、お弁当包み直してる。
御幸くんはいつも通り、私の後ろの席に居る。
「どうしよ……あっ、御幸君食べる?」
「悪り、めちゃくちゃ腹いっぱい」
「そっか……どうしよ持って帰るしか……」
「船津さんさ、それ、あいつにやれば」
「えっ……」
御幸君は、自分の席で黙って座ってる倉持くんを指した。──
「ホラ、最近仲良いんじゃねってウワサだし?」
「えっ……それって、野球部の人にたまたま話してんの見られただけで……それに、全然そんなことない……」

怖くないって思った。かっこいいって思えた。
男らしいところがあることも知ってきた。
なのに、嫌なのはそっちだろって言われてしまった。──
誤解、解きたい。

──嫌なのはそっちだろ。

口調の温度は冷えても、倉持くんのが傷ついたような、顔した気がして。──

「行ってくる」

なんか、ザッとか効果音が鳴りそうなくらいの気合いで踏み出してしまった。
私が近づいたら、倉持くんがちょっとぎょっとしたのは、私の意を決したみたいな顔に驚いたからなのかな──。

「あ、のさ、これ、食べない?」
「……は?」

うわあ撃沈──!?
ハァ? んな甘めーモン食うかよとか言われたりして?

「あ、あの、食欲ないっていうか、プリンまで手が回らなくって……」
「つうか何で俺にだよ」

そうだよね、そう思うよね。──

「あ……あの……今、までのお詫びと……あと、あの、単純に話したいって思った、から……そのきっかけになればって……」

倉持くんはビックリしてる? そんな顔だ。──

「倉持くん、今朝、嫌なのはそっちだろって、言ったでしょ……? わかんなくて……私、今じゃそんな、嫌とか、ないし……誰にどう推測されても……どうせ誤解だし、そんな嫌とかじゃないのに……」
「は、あ……? じゃー俺が一方的に決め付けたって事かよ?」
「あっ……でも、私の今までの態度だったら、そう思われても仕方ないかもしれないけど……っでも、言ったじゃん……苦手だったけど、今はもう割りと大丈夫って……」
「そうだけどよ……他のヤツに誤解されんのはまた話別だろが。ゾノとかに突っ込まれた後、明らかに暗いツラしてたしよ……」
「そ、それは……っ倉持くんが嫌がってるんじゃないかと……私とのこと、何もないのに誤解されたら……」
倉持くんが目を丸くして、私をじっと見てる。──
一秒が長く感じる。

「んな事考えてやがったのかよ……何もねえっつうのに」
「そ、りゃそうだけど……っせめて、そんな嫌じゃないよってくらいは言いたくて……っ。ただ、倉持くんの事が気になって……最近、少しづつ、怖くないとか、思い始めてたりしたから……かっこいいなって思ったのも本当だし……」
「あーつうかこっち来てくんね」
「えっ……」

倉持くんはプリン片手に立ち上がって、歩いてっちゃう。──
私が慌てて背中に追いついたの確認したら、廊下を進んでく。

「倉持くん……っあのっどこ行っ……」
「あーこの辺でいいか? これ、もらうぜ」
「あっ、どぞ……っ」

倉持くんはぺりっと蓋を開けて、プラスプーンで早速口に運んだ。
ここは廊下の隅っこで、この角曲がったら特別棟行きだから、あんまり生徒が通らない。

「お、ウメーじゃん、久々に食ったかもしんねー。部屋の先輩はしょっちゅう食ってっけど」
「あ、寮……?」
「おー」

とにかく食べてもらえてよかった。──
話もできてるし。


「同室の後輩まで寮の部屋でツッコんできやがってよ。まさか彼女がだの、女子を泣かせてはいけませんだの……それもこれもゾノの奴が騒いだからだけどよ」
「か、彼女て……っそんな……あ! 私がちょっと泣き入ったのは自分のせいだから平気だからもう……っ」
「ごっそさん、うまかったよ」
「あっ……よかった!」

倉持くんはささっと食べ終わってしまった。

「授業まであとちっとあるな──。ギリギリまで話せっか?」
「うん……っ」
「今すぐ教室戻ったら御幸がニヤけてそーで嫌だしよ」
「そ、そうなのかな……このプリンも御幸くんに最初言われて……倉持くんに渡せば? って……最近仲良いってウワサだしとか……あっ、否定はしたけど……ただ、そうだ、これをきっかけに話しかけようって思って……」
「ったく、さっきもおもしろそーに見やがったぜきっと。船津……さんが俺にかっこいいだのそういう事言ったからよ。照れくせーだろが」
「あ……そういえば、けっこうそれなりの声で喋っちゃったかも……ご、ごめん、必死で……っあっ、それと船津でいいし!」
「おう」

倉持くんはさっと目を逸らした。
けど、すぐにじっと見た。──私を。

「悪かったな、”嫌なのはそっちだろ”とか、決めつけてよ」

その言い方、なんか男らしくていいなって、また思った。──

「ううん……ただ、周りにどう誤解されても、倉持くんには誤解されたくなかったんだ……。倉持くんのこと、最近気になってるからかな、きっと……」
「船津さんよー」
「えっ……」
「船津でいいんだよな」
「うん……っ」
「今、思わずおまえって言いそうになったじゃねえか」
「えっ……それでも別に……」

あれだけ苦手だったのに。──
”おまえ”って呼ばれるの想像したら、なんでだろ、嫌でもなんでもない。
なんかむしろ倉持くんっぽいなあって思っちゃったらやっぱ失礼かな。──

「女子にいきなりそうは言わねーけどよ」
「そうなんだ……別にいいのに」
「……すっかり笑顔じゃね、マジでもう苦手じゃねえんだな」
「そだね……うん、言葉はたまに乱暴でも、なんていうか……男らしい優しさ? みたいな……ちょっとぶっきらぼうだけど……って、ごめん……。でも、正直、そう思えてきてるんだ」

そう、笑顔になれる。
話せてよかった。──

「つうかさっきの続きだけどよ──気になってるだの、かっけーだの、あんま言われるとなんつうか……」
「うわあー! 嫌なら嫌って言って……っ」
「んな嫌な奴からプリンもらって食うワケねーだろ」

また少しぶっきらぼう。
でも、思いやり? 気遣い? あるっていうか。──

「けっこう気にしねーで言うよな、照れさせるようなことつうか」
「えっ……そんな照れたり……」
「すんだろ! 教室戻っぞ、そろそろだろ」
「あっ……だね……っ」

倉持くんは廊下にあったくずかごにプリンの空をひょいって入れて、私と一緒に歩いてく。──
けっこう照れたりするんだな、そうなんだな。──また新発見。

「あんまりかっけーだの何だの言ってよ。マジで誤解されても知んねーぞ」
「倉持くんとの仲を……?」
「俺に気があるって思われたって知らねーぞ」

倉持くんはふいっと前を向いて行っちゃう。
私は慌てて追いついて、一緒に教室入るけど──。

「なんでだろ……そう思われてもなんか、嫌じゃないかな」
「な……っおまえ……いや、悪い」
「おまえでもいいし、なんか倉持くんらしいよ。そういうとこ、嫌じゃないなあって思ってるから……」

意地悪されたことなんかないし、そういえば。──

「私がいちいちビクついてたから、かな……たまに舌打ち、あれ、怖くて」
「……っ悪い、してたか? まあ、思ったけどよ。コイツ俺が嫌いなんだろーってよ」

今はもう、ゆっくり「ごめんね」って言える。
倉持くんが、「女子まで怖がらせる気とかなかったんだけどよ……」ってぼそっと呟いてて、その逸らした横顔、なんかかわいいなんて──
そう思えるとか、凄い変化。

「もう、怖がらずに話せそうだよ」
「おう」

ふふ、やっぱ輩っぽい。
ポケットに手、つっこんじゃってるし、やっぱマユゲあんまないし。

「プリンゴチな」

教室入る前、さりげなく言っちゃうとか。

「ん」

やっぱりもう、怖くない──それが何か、嬉しいって思えた。


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