[携帯モード] [URL送信]


なんでこんなに──倉持 上の続き 3
「倉持く……っ待っ」

 倉持くんが振り返った。
 なんでそんな目で見るの──ううん、そんな目をさせてしまった。
 さっきみたいなやるせない顔をさせてしまったことも、どこか悔しくて──昨日の練習試合だって、あんなにかっこよかったのに。

「あ……友達に誘われたのはほんとで……倉持くんの隣の席の……」
「あーいつもつるんでる女子な。──で?」

 言葉はそんななのに、やるせないかんじなんて──。
 あ、そういえば舌打ちしてた時も、ちょっとこんな顔してた、かも──。

「だから……倉持くんを見に行ったわけでなくて……ただ、さっき、御幸君にからかわれるみたいに言われたから、リアクション大きくなっちゃって……別にオメーなんか見たくもねえよとか、そういうんじゃないから……!」

 なんで必死になってんだろう、私。──

「なんか、言い訳ウザイよね、ごめん……」

 なんで必死に──。

「いつもよ」
「えっ」
「言いてーことあんなら言えよ」

 あんな苦手だったのに、怖かったのに、避けてたのに。

「って、言いてーけどツラに出ててまるわかりだしよ──嫌われてんのくれーわかんだよ」

 なんで胸が痛むの──。

「だ、って……怖くて、怖がらなきゃいけないことがうっとーしくて……」

 なんで泣きそうになってんの。
 今、気持ちを言葉にしたら、自分のイヤなとこが浮き彫りになっちゃう──。
 そうか、そういう態度だったんだ、倉持くんを傷つけてたかもしれないんだ。何もされてなかったのに。──

「ご、ごめ……ん……でも……っ」
「おまえなに女子を泣かせとるんや!!」
「げっゾノ!」

 な、なにこの関西男子は──!?
 あっ、確か、昨日の練習試合にも出てた彼──。

「どうしたの?」
「うおっナベちゃん!」

 うわああもう一人現れた──!

「何しとるんや! ただでさえ目つきも口も悪いんやさかい、やさしゅうしたらんかい!!」

 えっ……野球部の仲間同士でもそういう認識……?
 でも、昨日の試合見てたら、仲間同士での信頼関係はあるってわかる──だからこそ、こうしてずけずけ言えるのかな。

「うっせー! 何もしてねえよ!!」
「どうしたの?」

 ナベちゃんって彼にそう訊かれた。

「あ……私が悪かっ……ごめん……っ」
「謝んな、わかったからよ」

 ぶっきらぼうに見えて、優しさがあるんだ。──知らなかった。
 でも、今のまんまじゃ倉持くんのこと、嫌ってるって思われてるまんま。──

 すげ、あんなファインプレーできるんだ。って思った。
 真剣なんだな、輩とか思って申し訳なかったな、かっこよかったな──。

 って、思ったのに。──

「あ、あの、実際観に行って……見て、みて、あの、さ、結局倉持くんばっか見てたよ……私は……っ
怖がってたの、バカらしいなって……真剣なんだなって……かっこいいって……お、思った……っ」
「そういうことなんかい!」
「あ、の……っ」
「あー結局授業始まんだろ、戻んぞ」
「う、ん……っ」

──後で詳しゅう教えろや!
──詳しくね。
──ナベちゃんまでなに言ってやがる!

 そんなやり取りの後、倉持くんは私を引き連れるみたいに、一歩前を歩んでく。──
 ちらっと振り返った。

「倉持くん……?」
「嫌われてるとしか思えなかったからよ」

 それだけ言って、また歩み始めた。
 私はなんでだろ、言い訳したいだけ? まだ教室に戻りたくない。

「あの、苦手、だったんだ……見た目とか口調とかで……今は、もう大丈夫かな……ちょっとだけ」
「おう」

 たったそれだけ──。
 けど、倉持くんがもう、さっきみたいなやるせない顔してなくって、少しだけ安心してしまった。──




 教室に行く途中、朝八時半の廊下だった。
 あっ……御幸君と倉持くんが前の方歩いてる。
 あれ、ゾノ君だっけ? も居る──ナベっちゃんて呼ばれてた彼も。
 朝練終わってきたのかな?

「あの女子、好きなんか?」
「ちげー!」
「おまえのことばっかり見てた言うてたやろがあの女子!」
「うん、言ってたね」
「ナベちゃんコラァ! 昨夜ちらっとした話まだ引っ張ってんのか!」
「今日かてこれからクラスで顔合わせるやろが!」 
「だーから何もねえよ!」
「純さんにとっちめられとったやないかい!」
「おまえが言うからだろが!」

 この廊下で、もうすぐ教室で。
 すぐ目の前でそんな会話が繰り広げられちゃってる。
 もしかして──まさか、わ、たしのこと……?

──あ、あの、実際観に行って……見て、みて、あの、さ、結局倉持くんばっか見てたよ……私は……っ!
──怖がってたの、バカらしいなって……真剣なんだなって……かっこいいって……お、思った……っ。

 昨日、確かにそう言ったのは私で、ゾノ君とナベ君て二人もその場に居て。──
 も、もしかして話題にされちゃってた!?
 私のこと、で、いいのかな……それとも他の子?

「あ……っ」

 倉持くんがふとこっちに気づいたのは、クラスの違うナベ君て彼に「じゃあ」って言って視線の向きを変えたからで──。
 私に気づいた瞬間、「げ」って顔をしたような!?

「あ……っおはよう」
「……っはよ」

 あ、挨拶には返してくれた……!

「噂しよったらきおったでこのタイミング……!」
「ゾノうるせえよ!」
「もう泣かしたらあかんで!」
「するか!」

 やっぱり私のことだったんだ──。
 ゾノ君て彼も、「じゃあの」って、教室入ってく。──
 御幸君はなんか、笑ってるような。──
 どうしよう、この空気──。

「あの、さ……何もないよって援護射撃したほうがいいかなって思ったのに、タイミングが……」
「気にすんな。ちっ……あいつがうるせーから……」

 倉持くんは嫌そう。
 誤解されんの嫌だよね、当然だよね──私の今までの態度だったら。

「あの、倉持く……」
「なんだよ」

 びくっとしてしまった。

「え、だから……なんか、誤解されてるっぽい、よね……」
「気にすんな、実際何もねーんだからよ」

 昨日、かっこよかったよって言った後、少しだけ温度がやわらかくなった気がした。
 けど、また元通りっていうか、ぶっきらぼうな口調が冷えてる気がして。

「やっぱ嫌だよね、誤解されたら……」
「嫌なのはそっちだろ」
「え……?」

 もう教室についちゃうなんて。──
 倉持くんは自分の席にずかずか歩んで行っちゃう。

「……っはあ……」

 少しは怖くないって思えたけど、誤解されるまでいくとやっぱり倉持くんも迷惑だよね、不機嫌だったし。
 でも、嫌なのはそっちだろってどういう意味? そのまんま?
 私の今までの態度だったら、きっと。──

 なんでこんなに気が重いんだろ。


前へ次へ
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!