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もっと呼んで──松川 上の続き 28
「あとちょっと、二人で見て歩く?」
「ん」
松川くんに頷いて歩き出したら、このお祭りの中でほんと、デートみたいで嬉しい。──

「お、小説家フェだって」
「へえ……文芸部か……松川くん、小説読むって言ってたよね」
「ほんーとちょっとだけなー。ゲームとかしてる方が多いし──っつっても、休み時間にアプリ弄るくらいで」
「私はゲームはあんまやんないかな……おすすめとかある?」
「つっても最近殆ど弄ってないんだよな。休み時間くらい鈴花と話したいんで」
「……っ」
その笑顔に弱い、そんな卑怯なくらいの視線と言葉にマジで弱い。──
はあ……っどれだけ好きになんだろ、怖いくらい。──

小説家フェを覗いてみたら、和風喫茶っぽくて、落ち着く。
割とみんな、静かに本読んだり、話したり、みたらし食べたり。──

「おっ、緑茶だ〜」
「三色団子って実は食うの初めてかもしんない」
「そっか……っどら焼きとか、たまに作るよ」
「マジで、食いたい。あ、花巻にはナイショな、あいつ狙うから」
「花巻君、甘いモン好きみてーだしな!」
笑いあいながらゆっくり過ごせて嬉しい、マジで──。
「何か読む? 一緒に」
「どーっすっか……あっ、これって……?」
テーブルにはノートとペンがあって、パラッたら、中身は手書きの小説?
「文化祭記念のリレー小説なんですよ。よかったら一行だけでもどうぞ」
書生サン? スタイルな文芸部の男子が笑顔でそうオススメしてくれた。
「うわ……っ私、書いたことねえし……っ」
「俺も。作文みてーになりそーだけどいいの」
「いいんですいいんですお祭りだしね。それに普段小説書いてない人の方が予期せぬこと書いたりするし」
なるほど。──
「へえ……ちょこちょこ書かれてってるね……」
松川くんと読み込んでしまったその内容。
はっと気づいたら、二人でひとつのノート読んでる状況……近い〜!!
「けっこうおもしれーかも? 学園モノっぽい?」
ドキドキしながら読み進めてったら、松川くんの言う通り、なかなかおもしれーかも……! 
「あはは、なんでいきなりここで魔王出てくんだろ」
「じゃ、続き」
松川くんがペンを持った……!
何書くんだろ、わくわくしちゃう……!
はぁ……っ松川くんの字が見れるだけで嬉しいいい!!

──暴れる魔王。

松川くん、魔王の暴れっぷりを書くのか……っえ!?

──そこに生活指導番長が現れた。

「うわああもう!」 
「いや、バカにしてるとかじゃなくて、インパクトあるかと思って」
松川くん楽しそうだし〜!
「鈴花伝説聞けて嬉しかったしな」
「伝説て!」
「いろいろ知りたいし──もっと」
──私のこと。
いくらでも知って欲しい。こんなに好きなんだよって──まだまだ伝えたりない。
「鈴花がどんな字書くのかは知ってっけど、文章書いてんの見るのは初だなー」
「そ、そうだな……っ」
松川くんはのんびりしたカンジでもう一行だけ書いた。

──授業をさぼって世界征服しようとしていた魔王は学校に連れ戻された。

「魔王学生!?」
「続き、鈴花」
「えええ!?」

うわ〜何て書いたら!?

「ええと……」

──夏休みに入り、魔王は世界征服のため、再び遠征に乗り出しました。

「こ、こんなんどうかな!?」
「お、いいね、早速続きいい? もうちょっと書く?」
「松川くんのが読みたい……!」
「了解、じゃ続きな」

──ですが、生活指導番長が許しません。
──魔王は泣く泣く夏休みの宿題を先に片付けることになったのでした。

「そこォ!? 魔王宿題するの!? な、なんて学園……っ」
「生活指導番長によっぽどシメられたんだろーな」
「う……! 松川くん、ちょっと笑ってんし〜!!」
「仲良いですねーお茶おかわりどうぞー」
「あっ……ありがとう!」

文芸部の子にそう言われてしまった〜! 

「嬉しいよなー」
「うん……っ」

さあ、続きも書かないと……!

──宿題をどうにか終えた魔王は晴れて世界征服に乗り出しました。そして見事に世界征服しました。

「こんなカンジでどうかな? うーん文才が……」
「だいじょぶだいじょぶ、んじゃ俺続きな」

──けれど人々は絶望しませんでした。

「え!? な、なんでだ!?」

松川くんはすらすらっと書き進めてく。──

──数々の指導を受け続けた魔王は努力することの大切さを知り、きれいな魔王になっていたのです。

「な、なるほど……!」

──魔王は番長にプロポーズしました。

「な……! マジでか!」
「続き、鈴花」
「うわ……っやっぱ。努力を認めて、ハピエンだよね……」

──番長はプロポーズを受け入れ、二人は結婚しました。

「俺がラスト一行つけたし」

──魔王は指輪の変わりに、自分専用の弁当箱を受け取ってくれと言いました。

はっとして松川くん見つめてしまった。
私も持ってる、松川くん専用弁当箱。松川くんが買ってくれた大事なもの。

「あの……終わっちゃいました? もしかして……リレー小説なんですが……」
「あ」

二人して顔を見合わせて、文芸部の人には申し訳ないのに、やっちまったなーって顔して。

「あーええと、じゃあ次回から魔王と番長の子供が再び悪に立ち向かうというかんじで……」
「正義の魔王なんですね」

文芸部の人にそう言われてしまって、思わず松川くんと笑いあった。



最終日の後夜祭じゃ及川君が目立ってたり、そこそこで打ち上げの打ち合わせしてたり。
「俺が行かないからって鈴花、ムリせんで」
「してないよ! 一緒に居たいし」
友達はクラスのみんなとカラオケ行くみたいだ。──
運動部の皆は朝練に備えて参加しない生徒が多いみたいで──もう夕方だから、後少し松川くんと一緒に居れる。
のんびり、話しながら──。
「さっきのリレー小説、後から冊子になりますよー」
「おっ……文芸部の!」
「無料配布。あの後どうなったのかお楽しみです」
「ウオオ魔王のその後が明らかになんのか!」
「それじゃあまた」
もう帰るトコなのかな? 通りかかった文芸部の子に挨拶されて、手を振った。
「なんか小説の内容思い出したら鈴花のメシ食いたくなりました」
振った手を落ち着けたら、松川くんにきゅって握られた。──
「番長に弁当箱、プレゼントしたんだもんな……魔王」
「俺は魔王っつーか総長? カフェで着た特攻服のせいでそう呼ばれて参ったマジで」
「そうそう松川くん似合ってたもんな〜! 迫力ありすぎて貫禄だったしマジで!」
「俺、青城の制服似合わねー言われる事あったし、ヤンキーコスとかなら短ラン着てみたかったけど却下されたし」
「やっぱ特攻服のがいいよ! でも一番似合うのユニ姿な!」
これ、絶対。──
「あっ……そうだ! 松川くん私のゴハン食いたいって今も言ってくれたし、今日これから私の家来るとか……っ作るよ何か! 親も歓迎するだろーし! それとも明日のお弁当作ってくる!?」
「その前にこっち」
「……っ」
後夜祭のざわめきの中でふいにキスされた。──
「……っ不意打ち……」
「誰か見てたりしてな」
「えっ……」
慌ててきょろきょろしたら、すんなり手を引かれた。
「メシもいいけど二人きりになれるとこ行きたくなったとか贅沢すぎな、俺」
「……っ贅沢なんかじゃ……」
ついていきたい、お願い全部叶えたい。
当たり前すぎて、大きな手をきゅっと握り返した。

「鈴花ん家に邪魔する時間もなくなるし、鈴花明日弁当作る体の余裕なくなるかもな」
「そ、そんなに……なっちゃうまで……?」
「そうそう、そんなにさせるくらい可愛いんで、俺の鈴花は」
絶対顔赤い──夕日のせいにできない。
松川くんは絶対にわかってる。
どんなに余裕なくしたって、松川くんのお願いになら私が必死に応えること、わかってる。
そのまんますぎて、自然と言えた。
「そう言ってくれる一静が大好き」
笑顔で言えたらやっぱりちょっと照れる。
「俺のキスより不意打ち」
「そうかな」
「もっと呼んでもらうし」
笑顔で応えた後は二人きり。──


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