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恋の星──8
家の前まで送ってくれた英太くんとは次にいつ会えるんだろう。
でも、走ってるところはまた見れる。

「今日、こうして送ってくれて……話せてすっごい嬉しかった。──いつもバイトばっかであんま、友達とも遊び行ってなくて、こういう……
とにかく、英太くんと話せて、嬉しかったよ」
「……っそんなにかよ」
「うん、こんなに」

ありがとう、それじゃあって言って、後は英太くんを見送るだけ。
けど、英太くんは動かない。

「どうしたの……?」
「あのよ、頑張れよ! 修行とか大変そーだけど……っつうか、あー俺は! 俺も嬉しいって思ってんだよ!
お前と会えて……っ鈴花と……知り合えて」

少女マンガのエフェクト、きらきらした恋の星。
今の私が描かれてたら絶対降ってる。
英太くんはまだモトカノのこと好きなのに、私はきっと、友達くらいのポジションなのに、止められない。

「今日はね……送ってもらっただけだけど、私にとってはデートできたくらい嬉しい」

留められなくて言ってしまった。
英太くんは驚いてる? ただ私を見つめてた。

「俺は……」
「英太くんはそんなつもりじゃないこと、ちゃんとわかってるから……っだから」

あれ? 私なんで笑顔なのに泣きそうになってるんだろう。
笑顔で、”英太くん、私をいい奴だって言ってくれたし、デート気分とかも楽しいかな!” とか、”バイトばっかでデートとかしたことなかったからさ”──とか、気軽に言いたかったのに、重くならないように、気遣わせないように。

「……っ俺は、鈴花のことは……」
「ごめん、気遣わせちゃって──」

あーあバカだな、ほんとに。
ついあふれ出しちゃって、自分で言っといて、気にしないでみたいなハンパ。
留められなくて本音こぼしといて、気軽に言いたかったのに、とか思うなんて、ほんと馬鹿。──
本音だから、本気で恋しちゃってるから、泣きそうになってるんだって、沁みた。──

「気なんか遣ってねーよ! 悪い気なんかしてねーよむしろ嬉しいだろが!」
「えっ……?」

瞬間、ぽろっとこぼれた。うそみたいに。

「泣……っ泣い、鈴花おいっ! 大丈夫か! おい、ちょ、待っ……あータオルしかねえ! 今、取り出してやっから……っつうか、鈴花、泣くほど俺の言い方強かったかっ!? 怒鳴ったつもりねえんだけど……っあった! よしこれで拭け……っおら!」

やべえ俺が使ったやつだった! って言って、確か洗ったのもあるからって、慌てて交換しながら、忙しい英太くんが目の前に居て、なんかもう。──

「……っもう、ますます、涙が……出ちゃうよ、英太くん優しく、て……っ」
不器用なくらい、あったかくて。
「なっ……優しくしたらダメなのかよ!? 鈴花にキツくするとか、んなことできるワケねーだろ! 今まで鈴花にどれだけ助けられてんだ俺は!」
「そんなに……っ助け、てないよ……」
「うるせー励まされたんだよ俺は! フラれた後も、部活で走ってる時もよ……!」

こんな一生懸命涙拭こうとしてくれて、
ますます、止まらない。──

「英太くん、タオル、にメイクついちゃうから……」
「んなモンどーでもいいだろ、バカか!」
「……っでも、こすったら、顔、ますますぐしゃぐしゃになるから、恥ずか……」
「んなモン俺が気にすっと思ってんのか!? あのダセー服でイケメンパンダ呼ばれた俺が!」

涙がぽろっと──英太くんの指先に辿り着いた。
触れられて、また気持ちが出ちゃいそう。
でも、思わず笑顔になった。

「……っもう、ヤマダさんてうちの常連のお客さんが言ってたやつ……思い出しちゃったじゃん」
「よし! 笑ったな鈴花コラァもっと笑っとけ!」
「うわああほんとにぐりぐりしないで〜顔が……っ」
「んな濃い化粧してねーだろ」
「ふあ……目がしゅぱしゅぱする……」

英太くんはちょこっと笑った。

「鈴花でもんな言い方すんだな。普段大人っぽいとこしか知らねーしよ」
「……っ店員モードの時、だね……」
「つうか”デートしたくらい嬉しい”とか言われて嬉しいっつったよな、俺さっき……」
「……っうん……」
「お前だからそう思ったんだよ俺は。──」

それは私が”いいヤツ”ポジだからだとしても、十分すぎるくらい嬉しい。
小さく音が鳴った。

「あっ……英太くん?」
「天童から……お、もう飯食ってるみてえだな」
「あっ……寮のごはんだよね。なら、早く戻らないと……っ」
「鈴花がまたデートしてくれるっつうんなら走って戻るけどよ」

英太くんはどうなんだよって、私をちらっと見て、照れたそぶりで逸らした。──

「わ、たしはもちろん……でも、モトカノは……」
英太くんははっとしたみたいに目を真ん丸くしてる。
「英太くん……?」
「”今日のデート中” 鈴花のことしか考えてなかったわ……俺」
二人でびっくりするくらい見詰め合ってた。
「うおっ……またラインきた!」
「英太くん……っすぐ戻らないとじゃ……っ私はいいから行って! また……話せたら……っ今の続き……」
「鈴花の番号……くそ、時間ねえ、今度必ず訊きにくっからよ!」
もうばたばたしてしまった帰り道。
英太くんは忙しなく走っていく。──
あっという間な後ろ姿がぱっと振り返った。
その笑顔に手を振り返した。


玄関のドア開いたらくらっとするくらいドキドキしてる。──
デートだって、言ってくれた。
期待しちゃうよ、英太くん。──

「おう鈴花ーおまえパンダ好きだったのか? お前が小せえ頃は俺も店やってたし土日どこにも連れていけなかったもんなあ」
「は……どしたのお父さんいきなし?」
居間で寛いでるお父さんの声にそう答えた。
「ヤマダさんが言ってたんだよ、お前がパンダに夢中らしいとかなんとか……」

──白にヘンな黒い模様入っててパンダじゃねーか!

英太くんの勝負服にんなこと言ったあのセクハラオヤジは……いや、お客様だけど……。

「ヤマダさーん! もう! お父さんに喋っちゃうとか〜!」

お父さんはマスターと昔から師弟関係みたいなものだし、私が授業に出てる平日の昼間とか、お父さんがちょくちょくバイト先にお茶しに行ってるのは知ってるけど〜!!

「さっき窓の向こうにチラッと見たけどありゃ確かにイケメンパンダだわな」
「見……見て……っていうか、パンダはダメ〜!!」
「鈴花を泣かせたら強制農家体験させちゃるっつとけ〜ガハハ」

くっ……こんのお父さんめ……!
私が泣いたこともお見通しで〜っていうか見てたのか!

「もう……っどっちにしろお互い忙しいし、お父さんが心配するよーなことないし!」
「そうみて〜だな〜」

きっと──マスターとかヤマダさんから英太くんの人となりとかそれとなく耳にしたんだろな。
ていうか、ヤマダさんにも私の気持ち、見透かされてたとは私もまだまだ修行が足りないのかな?
大人たちにはたった一瞬で読みとれる気持ちとか、あるんだろうなあ。

「お風呂入ってくるね、明日も実習だし」
「おー」

英太くんは今頃寮のごはんかな。
もう食べ終わったかな。

──”今日のデート中” 鈴花のことしか考えてなかったわ……俺。

そんなこと言われたらもう、振り切れる。──



次の日だった。
放課後、英太くん達が走ってくのを、無事に見れたのは。──
お店の前の掃き掃除してたら見れた。
「がんばれ……!」
「おう! 鈴花!」
走ってく──。
さあ、私も気合い入れてホールに……あれ? 英太くん、ダッシュで戻ってくるー?

「あのよ……っ頑張れよ!」
「うん……っ」
「えいーたくん今日こそばんごー訊くんでなかったの〜」
「うるせー!! 言ってんじゃねえ!」

昨夜、そんな会話、ちょこっとしたのかな。──

「私の番号……?」
「おう、今度時間ある時に……って行かねえと……っ」

嬉しい。──

「そのうち訊きにきてね……っ!」

笑顔で手を振ったら、英太くんもそうしてくれた。──


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