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嬉しい収穫──松川 上の続き 25
松川くんは今日も部活。今日は練習試合入ってるみてーだ。
「んじゃ、行ってくっから」
放課後突入二分後、松川くんが私の好きな笑顔、見せてくれた。──
「ん、頑張ってな……っ行ってらっしゃい──」
「帰ったらちょこっと電話すっかも」
「ん、無理しないで、でも、嬉しいから」
ちょこっと手をかざして、頷いてった松川くん、私の松川くん──
とか思っていんだよね、とか思っちまったら、
「くぁあああっ……! 好きすぎる……」
一人で勝手にノックダウン。──
「おいおい、死んでんじゃねー。つか、なんか妙に大人びてなかったか? 二人のフンイキが……」
友達が「帰ぇんぞー」って促した。
「えっ……そかー? な……?」
「大人になったなんて話し聞いてねえぞコラ」
くぁああさすが鋭い!
「なっ……なに、言っ……」
「ほほう、ヤッたと……」
やっぱり長年のダチには全て見破られている──!
「じ、実は……ん、ついに……」
「鈴花も大人になったかよ?」
「うっ……大人っつっても……まだ高校三年生だしよ? やっぱこれから経験つうか」
「あー出たよクソマジメ〜律儀に四十八手クリアするつもりか〜?」
「なっ……そういう意味じゃね〜!!」
ったく……爆笑してんし。
「つうか鈴花、初だしやっぱ痛かったろ」
な、ソコか……!
「そ、そりゃそ、だけど、痛いどころじゃなくて……っんなことより、嬉し、かったし……も、もう、いろいろと、精一杯つか……」
「なるほど、痛み超越するくれー松川君がよーくほぐしてくれたと」
なっ……なんつうことを──!!
「松川くんは……大事にしてくれっから、だから……」
うう……なんかどんどん女の子ってヤツになってる、反応してる、しちゃう、松川くんのこと思うだけで──。
そっか、それって好きになって、応えられて、求められて、応えまくったらもう当然か。
高校で女の子デビューしてーとか、カワイイデビューしてえとか思って三年になっちまってやっと見つけたのはありえねーくらい大好きな人。
「だよな……女になっちゃったよ……松川くんが好きすぎて」
前だったら「惚れたんだからったりめーだろが」とか言ってたんだろな、気持ちは一緒でもリアクションがやっぱ女の子しちゃってる。
「恋の力すげえよ、ほんと……」
「処女ソーシツおめ!」 
「ぐぁあデケー声で〜! 松川くんだから幸せなんだつーの!」
「わーってんよ! 卒業しやがって!」
「イタァ! コラァ!」
ったく、ダチは背中バァンとかしちゃうし。
でも、祝ってくれて嬉しい。
「で? どんくれー痛かったんだよ?」
「……っ痛いとかほんと、思う余裕もないくらい、もう……」
「あーそのリアクションでわかったわ、好きすぎな〜」
「ったりめーだ!」
やっぱり”ったりめーだ”とか言っちゃってんし──くう。
「おー岩泉くんじゃーん、鈴花とヤッたって松川クンからきいた?」
な──おい、ちょ、まっ!
「うぁああ!」
友達がにぱっと笑って声掛けたのは多分これから部活行くんだろー岩泉君──廊下で。
「オイコラァアア!! なんつーこと堂々と訊いてんだ〜!!」
友達は罪なく笑ってやがるし〜!!
けど岩泉君は、すっぱり言った。
「恥ずかしいことじゃねーんじゃねえのか、付き合ってんだろ」
「そりゃそだけど……っ」
岩泉君は真顔つか、”ああそういや” って感じつうか──デフォモードつか。
「俺はよく知らねえし、松川はそーいうのあんま言わねえけど──まあ、あれだ、大事にしてんじゃねえのか」
「わ、たしを……」
疑問系にならないくらい自惚れじゃないってわかる。
嬉しすぎて、破裂しそう。
「及川のバカとかがたまに松川は彼女とどうなってんだだのうるせえんだけどよ……部室とかでな」
「そ、そうなんだ……」
岩泉君は、何で俺が照れんだよって言いたげに、でも、言ってくれた。
「なんつうか……松川の返し見てっと、あーいんじゃねっつうか……俺は女の扱いとか彼女とかよくわかんねえけど
松川が自分の女に惚れてんだろってことはツラ見てりゃわかる」
そんなの、もう、──
「嬉しいな……そう思われて……ほんと」
「そういうツラ、松川がたまにすんだよ。彼女できるまでは見たことなかったけどよ」
大事にしてくれる気持ちを知って、嬉しいって思う、そんな顔。
松川くんもたまに仲間にもこぼしちゃうことあるんだな、嬉しい。──
私も何度も見てる、そんな顔。



夜の電話でだった。
──鈴花、岩泉と話した?
「あっ、うん……っ私の友達が話し掛けて……っ」
──言われた、おまえずいぶん惚れられてんなって。
「──!! ま、間違いなしで……っ」
松川くんは「あんがと」って言って、声がやんわりした。
きっと今、ゆっくりしたいつものあの笑顔で居てくれてんのかな。──
──もうすぐテストだよな。
「ん! だな!」
気合い入れてやらねーと!
──それと、ぶっちゃけ妬きました。岩泉にまでとか相当なこれ。
「あっ……それって私が、岩泉君と話したから……?」
──そういうこと、たったそれだけ、1ミリも心配してねーけど。
そんな──
「0.1ミリも心配しなくて大丈夫だからっ! ミクロの世界までだいじょぶだから!」
松川くんは電話の向こうでちょっと笑ってるっぽい?
「言わなくても、わかるよね……きっと」
──ん? 妬く必要ねえって?
「うん」
うわ。大事にされてるからって調子乗ってるとか──
ううん、松川くんがんな事思うワケないってすんごい信頼感。
──わかってんだけどなー。独占欲、ヤバイんです、嫌い?
「ううん……っ」
声が重なって、電話なのに離せないこの感覚が嬉しい。
会いたい。
明日の朝まで我慢。
けど、
「……会いたいな」
──鈴花?
「あっ……ごめ、つい、本音が」
──そんなの一緒だし。
電話の声も優しい、大好き。


次の日だった。
「はよ」
「おはよ……っ朝練お疲れ!」
「ん」
今日も朝から隣の席で幸せすぎる……!
「そうそう、昨日の電話でもうすぐテストって言ったけど」
「……っだね」
「その後のやりとりで言うの忘れてた。鈴花、会いたいとか可愛いこと言ってくれるし」
朝からキュンキュン爆撃きたあー!!
「あっ、そう思うの、当然で……っ」
「付き合ってたらっていうか、好きだったらそうだよなー」
のんびり言う松川くんは嬉しそう。
好きだなあ。     
「テスト休みもあっから、一緒に勉強する?」
「う、うん、する……っする!」
松川くんはちょこっと笑った。
「……っ鈴花、すげー嬉しそう」
「そ、りゃだって、一緒に居れるし……っ!」
「な」
私はぶんぶん頷くしかない、好きすぎる。──


いざ、テスト期間に二人で帰る放課後、嬉しすぎる……!
「そういや小さい箱、鈴花が部屋に囲ってるんだっけ」
そう、私の部屋で勉強しようかってなって、向かってる放課後。
「アッ! おかーさんがくれたアレな……うん、手付かずのまま……」
「へえ、俺以外の誰かと使う予定あった?」
びくっとするくらい鋭い松川くんの視線に晒されて、唖然とするくらい。──
「なっ……あるわけねー!! 松川くん何言ってやがる!!」
しんとした。
やべえ、やばい、ついキレ気味に返しちまった……! でも、譲れる訳がない。
「さっきのはそういう意味じゃ……! ごめ、キレちゃって……」
「ゴメン、わかってんだけど聞きたかっただけ。参るね」
松川くんは自分のほっぺた、扇ぐしぐさ?
んん? 今度は──
「ちょっとの間鈴花にちゃんと触ってなかったから細かいとこ突っ込みたくなったっつうか。
鈴花が必死な返ししてくれんのかなって期待したら予想以上で嬉しいけど」
松川くん、いつもの顔に戻ってくれた。
授業中席は隣。
たまに目が合うと、ちょっと優しく見つめてくれる、そんないつもの顔。
「必死に、なっちまう、よ、松川くんのことなら何だって……っ」
「一静って呼んでくれたらもっと嬉しいけど」
「な……あ、そ、う、呼びたい、けど、松川くん、て呼ぶ方が自然で……っ松川くんにハマッてからずっと松川くんだから……っ」
「顔、赤くなってもいいのに、我慢せんで」
〜〜〜!!!
「が、我慢なんかいつもしきれないし……!」
結局松川くんを見上げるツラ、あっつい。──
「やっぱ鈴花がガンガン見上げてくんのかわいいんだよなー。ここでキスしてもいいのかってくらい」
……っ! ここは歩道! 舗道! 車もそこそこに〜!!
「あっ、あっ、私は、いつでも、」
「なにきょろきょろしてんの。こっち見て」
「あっ……」
松川くんしか見えない。──
前の私だったら、道端でキスとかけしからん〜!! とか言ってたかも。
なのに、目を瞑るつもりマンタンのスタンバイ。
だって、したい。
「……っ鈴花さん? 鈴花さん……っ!」
「なっ?」
甘いモード一瞬でキャンセル──!?
つか、甘ーい女の子らしいこの声、聞き覚えがありすぎる……!
「鈴花さんですよね……っきゃあああああお久しぶりですー!」
「うおっ!?」
いきなり抱きついてきたのは少女マンガから飛び出てきたみてーなキラッてるゆるほわっとした女の子──
「おお……久しぶりだな! やっぱシラトリ行ったんだな、その制服よ?」
こいつ頭よかったからな〜つうか相変わらずほわほわっとしてんな〜髪とか。
「はい! ほんとは鈴花さん行ってる青城行きたかったんですけど……」
「バーカ! オメーは秀才なんだからどんどん狙ってけ! おめでとうなー」
それにしても久々だな。──
「ところで鈴花さん、あの、彼氏……ですか?」
「おう! すげー大事にしてくれんだ! 私も大好きな彼氏で……って、おま、ちょ、何で松川くんを睨んでやがる!」
「だって……私が鈴花さん好きだったのに……」
とか言って、腰ぎゅううしてくんし〜!!
「おいいそんな抱きつくなっつーの! お前は私を卒業しただろが!」
「はい……そうですけど……けど、鈴花さんが好きになるくらいの人だし、サーチかけたくもなるじゃないですか……?
鈴花さんをないがしろにしたら許さないし……許さないし……」
「落ち着け〜!!」
ったく、ヤンデレモード強制オフしねーとー!
「鈴花の後輩かー」
松川くん……! のんびり構えてくれててさすがー!
「初めまして、鈴花の彼氏です」
自己紹介すらカッコいいとか、私の松川くん……!
「ふうん……鈴花さん好きなんだ……。初めまして……」
ったくコイツは──。
「オラァ! カワイイツラ暗くしてんじゃねー! つうかお前、カノジョできたってきーてんぞ?」
「そうですけど……大好きですけど、鈴花さんは私が目覚めたきっかけっていうか……」
「そんなぎゅうぎゅう抱きつくなー! カノジョいんのに浮気すんじゃねー!」
「ごめんなさい……」
ったく、こいつは──。
「おっ……カノジョか? お迎えきたみてーだな」
「あっ……!」
ったく、今度はゲンキンにカノジョに抱きついてやがるし。
「一途にやれよ、ちゃんと、ハンパすんなよ」
「鈴花さん、その彼氏のこと大好きなんですよね」
「おう!」
「私も……おねーさま大好き……」
とか言って、迎えに来たおねーさまに抱きついてやがるし。
「そこのねーちゃん、ウチの後輩よろしくな〜」
「はい」
うふふとか笑って、後輩引き連れてったおねーさま。
「ほあ……ユリの花畑が見える……」
見送ってぼそっと呟いたら、隣には松川くん──のんびり、待っててくれてた。

「うお……っ突然ゴメンな? あいつ、中学ん時の後輩で……悪いやつじゃねえからっ」
「あー思い出した……確か、ナンパされてた子を鈴花が助けて惚れられたんだっけ?」
「ん……女の子とは付き合えないっつうか……ダチとしか思えないつうか……お断りしたんだよな……。でも、今元気にやっててよかった」
「俺はめちゃくちゃ睨まれたなーびっくりした」
「いっ! ご、ごめん!」
「いんや、謝って欲しいとかでなくて。あんなほわっとした線の細い子が、すげー睨んできたからさ。ウサギがゴリラ睨むみたいに」
「松川くんはゴリラじゃねえし!」
松川くんはくっと笑って、”ちょっとした例え”って言った。
「よっぽど鈴花のこと、大事な先輩なんだろーと思って」
「……っそう言われると、嬉しいな……」
松川くんは「んじゃ行くかー」って、また歩き始めた。
もちろん私も隣、自然と手を繋いじゃってる。──
「今日の収穫は鈴花が先輩してるとこ見たとこ」
「いっ……そ、そう?」
「もっと収穫は、大好きな彼氏って紹介してもらえたことだな」
松川くんは、
「キスできなくて残念だったけど、勉強の休憩中にできたりして?」
って言って、優しく手を引いてくれた。──


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