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恋の星──2
”えいたくん”には彼女がいるみたいで。──
なんとなく思った。私にもあんなお似合いな恋人同士が──ううん、”えいたくん”みたいな人との出会いがあったらって。
でも、殆ど毎日学校終わったらバイト三昧。
出会いなんかって思うだけ。
降ってこいってどっかで思うだけ。
コーヒー淹れてたら鈴の音が鳴った、ご来店の合図。
「あ……」
思わずびっくりしちゃった。

まさかまさか──。
放課後のバイトタイム。
昨日はジャージで、今日は制服姿見れるとは──。
「……っいらっしゃいませ」
「ドーモ、おねーさん泥まみれにした英太君がお礼にきましたよん〜」
天童君てカレ、その隣には”えいたくん”──。
お礼だなんて。

「いらっしゃいませ。本日は部活動は……」
「今日はミーティングだけですた! パフェ! パフェ食いたい! えーたくん!」
「おまえの分はお前が払えよ!」
二人は席に着いた。
「ちぇー。ま、おねーさんがドロんこんなったのは俺も悪かったしな〜」
「……ついおまえのからかいに気ィとられた俺が悪かったんだよ」
気遣って来てくれたなんて──嬉しい。

「礼になれるかわかんねえけど、コーヒー飲みにきました。こないだは気ィ遣ってもらって……」
やっぱり人よさげな、えいたくん。──思わず、心がほころぶ。
「いえ、いらしてくれて、とても嬉しいです。わざわざ気を遣っていただいて……」
白鳥沢の制服、きまってるなあ、もう。二人とも、すらっとしてるし。
「本当は何か、買ってこようと思ったんすけど……」
「え!? そんな……っ」
「俺がさ? じゃ、死んじゃったストッキングのかわりにあたらしーの買っちゃう? っつったんだけど〜英太君そんなの買えっかって照れちゃってさ〜」
「うるせー暴露してんじゃねー!!」
ちょっとびっくりしたけど、気遣ってくれたんだなあ、嬉しい。
「あ、すみませんでけえ声で……」
「いえいえ。ちなみにあのストッキング伝線寸前だったんで全く気にしないでくださいね」
お冷をお出ししたら、またお客様がいらした。
「いらっしゃいませ、冨岡様、上着をお預かり致します」
「ああ」
「本日の夕陽は多少眩しいですから、いつものお席のブラインドをお下げ致しましょうか」
「いや、そのままでよい」
「かしこまりました」
さあ、常連さんもいらしたし、この時間ホールは私だけだし、いつも通り頑張るだけ。
初めてのお二人はご注文が決まっただろうか。──
「あ! チョコパフェ!」
天童君て彼に頷いて、そちらのオーダーもとりに向かった。
「ブラウニーと生クリームがございます」
「チョコアイス入ってんのドッチ!?」
「どちらでもどうぞ」
「ん〜じゃ、ブラウニー! 濃いヤツ!」
「かしこまりました」
「英太君は〜?」
「おう、コーヒー……にすっか」
「普段あんま飲まないのに!」
「うっせえ! さっきからコーヒーのいいにおいしてんだろ!」
英太くん、は──私に”すみませんうるさくして”って、都合悪そうにしてて、なんか可愛いような。
「アイスとホットがございます」
「あ、あったけえので……ブレ、ンドで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
あったかいコーヒーに冷たいチョコパフェ。対称的だと思えばちょっと微笑ましかったり。


「お待たせ致しました」
「キタ! 俺のブラウニー!」
「静かにしとけ! あっ、すんません……」
「いえ、どうぞごゆっくりなさっていってください」
コーヒーもお出しして、一礼した。
「えーたくんコーヒーだけトカ、腹へんねーの?」
「寮に帰ってから飯あんだろ」
なるほど、寮なのか──白鳥沢の男子バレー部。強豪だってマスターも言ってたけど、やっぱり専用寮とかあるのかな?
「お、英太君彼女から?」
「おう」
私がカウンターに戻る最中、そんなやり取りが聞えた。
メールか何かきたっぽい。
そっか、やっぱあれって彼女だったのかな、ってそうだよね。こないだ見ちゃった、あの雰囲気を思い浮かべれば。──
「来週のテスト期間ちゅーデートすんだろ!」 
「ちょっと一緒に勉強するくれーだっての」
「ナニを勉強すんのかな〜」
「テスト勉強だっつってんだろ!」
いいなあ、あのかわいい彼女と……かっこよくって人もいい感じの英太くん、の組み合わせ。──
はあ、私にはゼンゼンそんな兆候もないなあ。
「オネーサアンは? 彼氏いんの?」
うわ、びっくりした。──
「いませんけど……」
「おまえそういうこと訊くか!」
「いえいえ、どうぞごゆっくり」
ふあ、どきっとしたっていうか、ちょっと情けないっていうか。
バイト三昧で男とか、ほんと意識したことなかったし──。


「本日はお気遣いいただき、誠にありがとうございます」
パフェはきれいにからっぽ。コーヒーはひとつ、おかわりしてくれた。
そんな二人のお帰りだ。
「じゃあっまた……」
「はい」
わざわざお礼にコーヒー飲みにきてくれるなんて。いいやつだな、英太くん──
彼女も大事にされてんだろうな。
強豪の部活とかっていうと、夜の八時くらいまで練習してるイメージ。
とにかく、テスト前だからって、貴重な時間使ってお礼に来てくれたとか思っちゃったり。
まあ、彼女いるもん、ね──。
「よろしければまたお待ちしております」
「なんか丁寧だあね〜」
ふと天童君に言われて、首を傾げた。
「なんとなーく、そー思ったんだケド? ファミレスの店員サンとまたちがーう」
「そうでしょうか?」
どこだろうと、接客するなら丁寧に。当然のことなのに。──
なのに、英太くん──は頷いた。
「なんか、店もいいフンイキっつうか……他の客にも、気遣いハンパねえっつうか……」
当然なのに。
「なのによ……そんなアンタが伝線寸前のストッキングなんか穿いたりすんのかって思った、んだけどよ……」
あ、なんか、もう、すっごい嬉しい。──
本当、当たり前のことをしているだけの店員なのに、私は。
なのに気遣い見抜かれて嬉しいなんて、やっぱまだまだ修行中なんだろうなあ、私は。
「いえいえ、本当にそうだったんです。どうかお気になさらず。──ご来店、ありがとうございました」
英太くんて彼はちょこっと自分の首筋あたりをかいて、でも、「そっか」って言ってくれた。
その顔がどこかあどけなくて、店員とお客様なのに、今だけ高校生同士みたいにアイコンタクトしてしまった。
「んじゃネ〜また時間ある時くっから〜ブラウニ〜」
「コーヒーもうめえっての」
「ありがとうございました──」
二人を見送って。なんか楽しいな──なんて思ってしまった。

「珍しいね、ありがとうございました、とか言うの」
「あっ!」
グラスとカップをトレンチ乗せて持ってきたカウンターで早速マスターに言われてしまった。──
「次回もいらして頂けるように”ました”ではなく、”ます”と言いたいって、船津ちゃんのパパはよく言っていたよ」
「そうですね……すみません。あの、是非次回もいらして欲しいんですが、でも、今日の心遣いについ、ありがとうございま”した”と、
言ってしまいました」
「次回もいらして欲しいよね」
「はい! もちろんです!」
マスターがちょっと笑った。
しっとりしたこのお店の空間の中、あんまり元気よく答えちゃって、ちょっと恥ずかしいというか、お客様に、じゃなくて──英太くん、て彼に来て欲しい!
みたいな私情が漏れたような。──
あ、そっか──やっぱり私、あの人の好い英太くんにまた来て欲しいって思ってる。
あ、違う、会いたいって思ってる──。


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