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一番優しい顔──白布 上の続き
お互い走ってる最中に時々見かけたり、すれ違ったり。
練習後の夜の帰り、見かけたり。──
学食で見かけて、挨拶したり。
絡みにもならない絡みって言えばそのくらいだ。
それ以上も特にない。
お互い日が暮れ果てるまで部活だからだ。

「オツカレ〜」
「お疲れ様です」
「賢二郎、船津サンとメールしたりすんの?」
「……っ用でもないとなかなかしませんけど……」
天童さんは鈴花さんと同じクラスだし、毎日顔見てるんだよな──そう思うと少し、うらやま……しくなんかないけど、顔は見たいと思う。
サッカーやってるところ、見るのは好きです。──俺は何度か鈴花さんに言った。
けど今じゃもう、サッカーやってない時だって会いたいと思う。
「お互い、忙しいですし」
「でもスキならちょろっと教室に顔見にくっとかさ?」
「たまにはいいかもしれませんけど」
くそ、なんか会いたくなってきた。普段抑えてんのに。
「ほうほう、もうすっかり認めちゃってるネ〜好きだってさ?」
「……っまあ、そうですけど」
くそ、照れくさい。──
「”付き合って”しねーの?」
「付き合うというか……傍に居るとは言いましたけど」
抑えきれずについ、天童さんに言ってしまった。──
天童さんなら、こんな時ばかりはからかったりしないって信頼もある。
「で? で? 船津サンなんて?」
「大事なやつの内の一人だとは言ってもらえました」
「賢二郎はソレで満足?」
もちろん満足なんかじゃない──もっと近い存在になりたい。
普段は内気な鈴花さんが安心して飛び込んでこれるくらいの存在に。──
「もう練習終わったのかどうか、メールしてみます」
「ハイハ〜イ、んじゃ明日ネ〜」
「はい」
天童さんはさらっとハッパかけてくれたんだろうか。──
今どこですかって連絡したら、すぐにレスがあった。
歩いて帰ってる途中みたいだ。
走っていくんで、少しだけ待っててもらえませんか。──
それにもすぐにレスがあった。コンビニ前で待ってるって──。


走って走って、すぐ近くのコンビニがすぐに見えた。
俺に気づいて、笑顔になった鈴花さんも──。
「……っすみません、いきなり」
「ううん……っちょうど帰りだったし……」
「あの、部員は……」
「ついさっき別れたばっかりだよ。方向一緒のメンバーも、先に帰ってるねって気遣ってくれて……」
俺はつい、じっと見つめてしまう。
顔を見れて、会話もできて満足。けど、もっと近づきたい。
「……白布くん?」
「ああ……すみません、顔見れて嬉しいとか思っただけです」
途端に慌てて照れないでください、どんどん可愛く見えてくるんだよ、ほんと──。
「送っていきます。いいですか」
「……っん、でも、急に連絡くれたから、何かあったのかなって……あっ! 送ってかなくても、あの、白布くんも練習後だし……」
「気遣いは却下します。何かあったのかっつったら、俺は鈴花さんの顔見たかっただけなんで」
今度はそんな恥ずかしがるくらい照れちゃって、可愛いとか思わせる。
まあ、ここまで思うのって俺くらいだよな、俺だけでいい。
「たまにはいいですよね。こういう時間があっても──おまえ上から言うなよって思うなら遠慮なく言ってください」
「え!? そんな上からとか思わないよ……っ」
だよな、そう言うってわかってたけど、ちょっと満足。
「あ、私も……最近、白布くんどうしてるかなって……思ってたから……」
「まあ、一週間ぶりくらいですけど──話すのって。挨拶くらいはあったけど」
「そうだね……っで、も気になってたから……今日、天童君につい訊いちゃったよ……白布くん変わりない? って」
な──それでか、天童さんがそれとなく俺にハッパかけたのは。
「朝のランニングの途中ですれ違ったりもしたし、元気なのはわかってたけど、でも……訊きたくって、つい……」
「ちなみに天童さん、何て答えたんですか」
「あ……ええと……部活の後、帰る途中……毎日のように白布くんが……女子サッカー部のグランドの方、ちらっと見るんだよね、って……」
あ──思いっきりわかられてた。そうか、俺は意外と丸出しだったのか。
なんだよもう、格好つけて”お互い忙しいんで”とか言ったって、見破られてるとか。──
「そうですね、好きなので」
実はまだコンビニ前から動いてなかった。
「だから、送って行ってもいいですか。──」
手を差し出した。この手を取ってください。
「嫌ですか」
「嫌なんかじゃない……!」
きゅっと小さな感触、鈴花さんの手。
俺はもう離せない。


なんだろうなこれ、この状況。
あんなに曖昧苦笑にイラついてた俺が手を引いて歩いてる、送ってってる。
鈴花さんは恥ずかしげに半歩後ろ、俯き加減で、たまに目を合わせるとやっぱり恥ずかしげに逸らしたり。
なんだろうなほんともう、すげえ好きなんだけど。
お互い口数は少ない。
「あの、何度でも言いますけど、鈴花さんが好きです」
しっかり伝われ──握ってる手、痛くしちゃったらすみません。
「……っあ、もう、どうした、ら……」
目がぐるぐる回りそうになってるし。
「嫌じゃないんですよね」
「……っん」
「俺のことは、大事なやつの一人なんですよね」
「う、ん……っそ、うだよ」
「なんでそんなに照れてるのか、訊いてもいいですか」
「だって……す、っごい、どき、る……っよ」
照れて俯きそうになるとか、許さない。
「こっち見てください──ちゃんと」
がっつり引き寄せた、壁でもあったらドンしてんだろ、そんな俺の本気加減、ちゃんと伝われ──。
「白布、く……っ」
「はい、なんですか」
「あっ……ちか、くて」
「だから? ここまでされて嫌じゃないなら俺を好きってことで」
「あ……白布くん、のことは、好き、だけど……っ好きにならないほうがおかしいくらい、好き、だけど……っ」
「けど、なんですか。そろそろ我慢きかないんだよ俺は」
手をきつく握ってしまったかもしれない。
後輩のくせに生意気だったかもしれない。
けど離せない。
「我慢……?」
「してますよずっと、本当は鈴花さんが着てるジャージ剥ぎ取りたいし」
そこで嫌悪感も出さずにただ恥ずかしがるとか、ほんと調子に乗らせる、この鈴花さんは──。
それにしても俺はけっこう突っ走ってるな、まあいい。
「でも、俺は……付き合うとか、そういうことで鈴花さんを縛り付けたくないんです」
今、引き寄せてた手をそっと離した。
「縛……束縛?」
「はい、嫉妬深いというか、許せないものは許せない性質なんで」
鈴花さんは何故か、ほんのり笑った。──


「なんか白布くんらしい、かな、いつかも言ったでしょ、譲らないところは譲らないような、そんな白布くんらしさっていうか……」
そう言えば言ってたな、言われた。
「俺達の試合、見た後のことですね」
鈴花さんが頷いた。
「そういうところ、好きだよ」
喉が渇いて、水が欲しくなるような欲求が湧く。
「じゃあ、割と束縛する感じでもいいですか」
可愛げもへったくれもない俺の要求に、鈴花さんは泣き笑うくらい、優しく頷いた。
「……っいいよ」
実際に、泣き笑った、こぼれた。
「……っだって白布くん……私が大切にしてるものを、大切にしてくれるから……」
普段は気弱、曖昧苦笑、お人好し──そんな鈴花さんが意地を張り倒して夢中になってるサッカーってやつ、大切にしてる部活の仲間。
俺はいつからかそんな鈴花さんの世界を守りたいと思った。見守りたいと思った。入り込みたいと思った。
「好きだからです。俺がそうしたくてしてるんです」
引き寄せたら、抱き締められるくらい近づいたら、鈴花さんがきゅっと目を瞑った。
こんなの、我慢できるか。──
「キスしてもいいですか」
「ん……っ」
不器用に頷いた鈴花さんを見た瞬間、やっぱりもう我慢できなかった。
押し付けないように、あんまり呼吸を奪わないように、背中、掻き毟らないように精一杯努力しても我慢がきかない。
やらかい感触がたまらなくて、俺の腕をたどたどしく掴んだ鈴花さんの指に指を絡ませた。
ライトが向こうから迫ってくるのがわかった。
「……っあ、車……」
「通り過ぎたら、もっかい」
「……っん」
一生懸命俺を見上げてくる表情に煽られる。
通り過ぎた瞬間、腕に閉じ込めてもう一度キスをした。
「……っは、ぁ」
鈴花さんの呼吸が少し苦しそうで、でも俺の背中を離さない。
「もう、いっかい」
かぼそい声でそんなこと言われたら、何度でもしてしまうだろ。──
舌の温度に頭の中がぐらつきそうで、なかなか離せなかった。



帰り道は口数少なかった。
ふわふわして落ち着けない。──手はしっかり握って離さない。
もう少しで鈴花さん家に着いてしまう。
「好きだから」
鈴花さんがどきっとしたような顔をした。わかりやすくて俺を満足させる。
「もう家に着いちゃうし、また言いたくなった」
たったそれだけ。
鈴花さんが嬉しそうにするから、手を離すのが惜しい。
「白布くん、あ、の、」
「何ですか」
「あ、の、」
「ちゃんと待ってるから、ちゃんと言って」
「あ、私、」
「目、見て」
「ん、私、すき……っ白布くんが、好き」
なんだそんな事か──。
改めて言われるとすげえ嬉しい、ヤバイ。
「わかってるけどね。あんなにキスしたし」
「……っう、ん」
照れまくりだな。そんな顔されるともっかいしたくなるだろ。
「でも、何回言われても嬉しいから」
今度はどうした。俺を驚いたみたいに見てる。
「どうしたの」
「……っ白布くん、凄く優しい顔してたから……今」
はっとさせられた、照れさせられた。
「そんな驚く事じゃ……」
「今まで見た中で一番優しい顔、してた。してたよ」
なんだよそれ、泣きたいくらいの気持ちにさせる。
「まだ、してる?」
「……っしてる」
そう言った鈴花さんが胸に飛び込んできてくれた。


一番優しい顔──

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