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その笑顔で──白布 上の続き
もう鈴花先輩と呼んでしまった。
そのうち嫌なら嫌だと言ってくださいって言うか。
拒否するような鈴花先輩じゃないだろうけど。──俺は若干調子に乗ってるか。
大事な人の一人って言われたからな。──
やばい、思い出したらかなり嬉しい。

あれ以来、メールなんかはしていない。
合宿お疲れ様でした。
って、画面上で言い合ったくらいだ。
「……ん?」
校内の廊下で発見した貼紙には「女子サッカー部員募集中」ってあった。
そういえば、部員もそんな多くないよな。
白鳥沢の中じゃ実績もなくて優遇はされてない部活だ。
当然、推薦で入った部員も居ないんだろう。
「白布どうした?」
「いや、ちょっとな」
同じクラスの奴にそう返して、教室に戻──る前に、鈴花先輩のクラスに向かった。
後少しだけだな、時間。
ほんとお互い部活とかで時間ないよな──ほんとに。
そう思うとそれもまた、何でか嬉しい。
お互い頑張れることがあって、それをお互い認め合ってる。そういうところが。──

鈴花先輩のクラスまで来た。
中には──ああ、居るな。天童さんも同じクラスだから居る。
さあ、気づいた誰かに呼んでもらうか否か──いや、待ってられない。
「──鈴花先輩」
「……っ白布くん」
ぱっと振り返った顔はちょっとびっくり。
いや、どっきりとか……違うな、俺に都合のいい高鳴り覚えてくれたらいいんだけど。
話すのは合宿の夜の、あの日以来だ。──って言っても二日ぶり。
なのに、随分久々に見た気がする。

船津先輩の傍に居れる俺になりますから。

そう宣言した時から数十時間ぶり。
「おお……白布君……」
女子サッカー部の副キャプ兼鈴花先輩と同じクラス兼友人だろう人がちょっとわくっとした感じでその場を離脱した。
そういや俺とのやり取り、鈴花先輩はこの友人に相談とかしたんだろうか。
まあいい、どう転んでも俺の気持ちは変わりなし。
天童さんの隙あらば飛び込みたいような視線も感じるけど、天童さんは一先ずは見守っててくれてるみたいだ。
「白布くん、どうしたの?」
「部員募集の貼紙を見ました。前から出してるんですか」
「あ……そう、だけど……」
何でもじっとしてるんだ。
俺を意識してるんですかって、都合いいように受け取ってしまいそうなんですけど。
「でも、なかなか来なくって……白鳥沢の女子サッカー部は全然強豪とかじゃないし……」
「でも、県内リーグ、二部に上がりましたよね」
「……っ知って……」
ったく応援してるとか好きだとかそういうこと言っただろ。把握してるとこは把握してるっての。基本装備で。
「でも、ただ単に知名度が低いっていうのもあるんじゃないですか。俺も、女子サッカー部があったこと、鈴花先輩と出会うまで気にしてなかったし」
「……ん、でも……知名度が低いのは、私たちの実績が足りないからで……」
「でも部員募集してますよね。俺にいい案があるんですけど」
「えっ……」


天童さんに後からからかわれたりしたけど、とにかく明日の朝だ。朝練が終わった後だ。
鈴花先輩達も朝練習はやっぱりあって、その後──生徒が正門潜ってくる頃合だ。

そう、一夜明けて、朝練終わって、俺も逸早く着替えて行ってみれば女子サッカー部が部員募集のプラカードとか掲げて勧誘してる。
ビラを配ったりして──。
俺の案に副キャプの人も盛り上がって、早速今日実践してる、実技勧誘。そう、
「リフティング体験大会やってまーす!」
実際試合を見てもらうまでのハードルは高い。
女子サッカー部が注目されてないからだ。
その注目を集めよう作戦。
部員全員でリフティングしたり、バレーのパス練みたいに小さな輪でダイレクトパス繋ぎあったり。
できるだけ派手に、曲芸と思われてもいいから、まずは興味を引く。
楽しさに触れてもらう。──
そんなところから始めたらどうですかっていう俺の案。
早速実行されてるけど、俺はなんだろうな、俺って。
つい、じっと佇んでしまう一瞬があった。
好きだからってこんな促したりとか、親身になりたいとか、キャラじゃない筈なのに。──
「うあ、すご……っ上手だね」
どっかの女子がそう言ってる。
だろうが、もっと見ろ。
「うちのサッカ女子あんな上手かったの!?」
見蕩れるのは、曲芸だからじゃない。あれだけできる為に、どれだけ練習したかわかるからだ。
「体験もできます……っどうぞ……っ」
鈴花先輩が笑顔で促しても、なかなか自分もやってみたいって奴が居ない。
くそ──。
「やります」
「白布くん……っ」
ほんの少しの人だかりの中、進み出た。
「男子? え?」 
「あいつバレー部じゃね確か」
どっかからそんな声が聞こえる。
「ボールください」
「……っうん」
鈴花先輩が咄嗟に俺の足元に小さく弓なりのパスをした。
俺はトラップなんかできずに、取りこぼした。
続いて、リフティングにチャレンジだ──くそ、むずいな。できやしない。
「あいつヘタクソな!」
どっかからそんな声が聞こえた。
構わない。──
「誰だって最初は……っ」
思わず鈴花先輩がそう言った。 
「いいんです。サッカー素人の俺がこの様ってことは、鈴花先輩達がどれだけ練習してきたのか誰もがわかります」
「白布くん……」
顔がありがとうって言ってる。
俺は確かに満足してしまう。
ああ、ただ単に好きな人の為に何かしたかっただけか。──
「白布くん、こう……もっと」
「こうですか」
「そう、高めにあげて……っ自分の胸にくるようにしてもいいし、リズムとって……っ最初は」
「……っはい」
よし、五回続いた、なんとか。──
「やってみない?」
「え、なんか恥ずかし」
周りで誰かがそう言ってる。
「あっあの……っやってみてもいいですか?」
一人、進み出た、よし──。
「じゃあ、私も……っ」
よし、もう一人釣れた。
俺は鈴花先輩にボールを返した。
そのボールで不器用にリフティング挑戦しようって女子が居て、女子サッカー部の面々が一斉に食いついて、熱心に教えてた。──
鈴花先輩は笑顔だ。
きっと、サッカーの楽しさ、覚えてくれたらいいなって思ってるんだろう。
目が合った。
「……っ白布くん、ありがとう……っ」
「いえ」
そろそろ教室行くか。
部員、増えればいいけど──。


昼に鈴花先輩が俺のクラスにやって来た。
ジュースを一つ、持って。
「……っ白布くん、ありがとう、今朝……これ、よかったら」
気持ちはありがたいけれど。
「どうも。──部員、増えそうですか」
「あのね……っ一人、入りたいって……他にもね、見学してみたいって子も居て……よかった」
ああはい、よかったですね。
俺はそんな感想。
けど、ちょっと達成感。
好きな人の為に案を出して、実りがあったならやっぱ嬉しい。
「ヘタクソな俺が笑われながらでもやってみたから、その女子も恥ずかしがらずにあの時、声を掛けられたんでしょうね──
よかったです。でも礼を言われるほどじゃないですから」
俺のクラスで──見慣れない女子の先輩が居るもんだから、少し注目されてる。
今朝の女子サッカー部の……って覚えてるやつも居るっぽい。

「白布くん、あの……ほんと、ありがとう」
「だから俺は別に……なにかしてみたらと助言もしてしまったので、率先してサクラっていうんですか? しただけです」
「ありがとう」
「俺は別にサッカーには興味はありません。むしろ全くない。けど……鈴花さんがいつも部活にひたむきなので、何かしたくなっただけです。
だから傍で応援したいと……っなんで泣いてるんですか!」
「嬉しい……好きになってよかった」
俺を好きに──。
「よかった、サッカー好きになって、よかった。何のとりえもなかった私が……今は仲間が居て、白布くんみたいに、認めてくれる人がいる。
ひたむきだって思われるくらい、夢中になれるものに会えてよかった」
なんだよ俺ってヤツは勘違いしやがって──。
なんて一瞬思ったけど、そういうのどうでもいいくらいよかったって思える。
鈴花さんが嬉しそうで。
「ジュース、いただきます」
「……ん」
「あの、鈴花さんて呼んでも嫌じゃなさそうなので俺はまた調子に乗ります」
鈴花さんは戸惑うくらいに照れて、ほんと、年上に見えない、こんな時は。──
「嫌なんかじゃないよ」
そう言ってくれた。
何何女子先輩を泣かせてた!? なんてクラスメイトの突っ込みもなかったくらいの笑顔で。


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