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なりたいものに──2
ふはーっ明日から夏休みじゃーんこれで講習なかったらサイッコーなんだけど。
「つか、式あっからっていちいち制服ノーマルに戻すのめんどくね?」
「な〜」
ほんと、確かになー。
「でも、鈴花って最近ノーマルじゃん」
「ほんと、確かにな……って、いーんだよ素の勝負で!」
「あはは。最近そればっか」
「はぁ!? そんなそればっかってホドでもねえよ!」
くそ、友達にからかわれてしまった……。
それもこれも冨岡義勇先公に宣言しちゃったからね……飾りなんかなくったって私は堂々と立ってられるんだって──。
制服ノーマルに戻すつうか、今日はピアス控えめだったり、そんな程度なみんな。私もちょっと前まではその仲間だったけど──。
最近なにこの控えめカラー。地味だとモテないじゃん、それもこれも冨岡に──
拘りもなく飾るなら意味ねえんだよみたいなこと、言われたから。──
言うこと聞いちゃってんのが悔しいのに、チャラチャラすることに拘りなんか全然なかった、ただ自分をアピりたいだけだった、気づかされて最近はおりこうさんに──見た目だけでも、おりこうさんにしちゃってる。
本当に、どうしてもアクセ着けたかったのかよって言われたらそうでもないし──ただ、ブランドくっつけてる自分スゲエされたかっただけ。
気づかされて、最近ちょっとはおりこうさんてヤツで──
「はあ?」
思わず声出た。
明日から夏休みだからその挨拶とかさ、校長がなんか言う式だっつーから体育館来たら──
「あっ冨岡せんせースーツじゃーん」
友達が早速言ってる。
そう。スーツ、式だからってスーツ。
いやいや蛇先生とかだっていつもスーツつうかマスクとかしてるけどスーツだし、他にも煉獄先生とかさあ、スーツだし、ジャージばっかな冨岡センセが
珍しいだけで……まあ体育教師だからそーなんだろけど、さ、スーツ、んだよ、スーツとか……!
「かっこいくね?」
「はあ!?」
思わずそう言っちゃった、目の先じゃ、
「あれ、冨岡先生スーツだ〜かっこいいし、彼女いるんですか〜」
そんな女子に群がられてるし。
ダレがカッコいいって? 冨岡が? ふうん、やるじゃん。
ちょっとはいいんじゃない。
「きゃあ、義勇先生〜」
ちょっと女子、群がりすぎでしょ……! 普段はスパルタぶり嫌がってるくせにさ。
「冨岡先生、かっこいいし、普段からスーツ着ればいいのに〜」
ったく、あの女子何言ってんの、ソイツ体育教師だっての、そんなスーツとかいっつも着てらんな……
つうか冨岡は冨岡で何か言えよ! 何黙ってんの! 無言か!
「せんせ、夏休み予定ないの、彼女とかさ〜」
私の隣のクラスの子だったかな、
「……」
おぃいいい!! 冨岡ァア──! なんか言えよ!! いるわけ! いないわけ!?
「仕事だ」
ふう、やっと喋ったよコイツ──。
「でも冨岡先生体育だから講習関係ないじゃん」
「やる事は多々ある」
く……っだから彼女いんのかっての!
「さあさあ、さっさと並べ! 終業式の始まりだ!!」
「うお……っ煉獄せんせ……っ」
相変わらずあっちいなあ。その熱気に押し出されるみたいに並んで、そろそろ校長の話かなあ。
冨岡は──センセ達が並んでるトコに当然立ってて、やっぱ何そのスーツな立ち姿。
かっこよくなんかねえよ、まあちょっとは……キマッてんじゃない。



式が終わって、帰ろうぜって最中にもまた、冨岡先生ってば女子になんか言われてる。
カッコイイだのなんだの──。
「さっさと帰って復習に励め。寄り道をせずまっすぐにな」
「まだ早いよ〜」
「浮かれて盛り場などに寄るな」
盛り場ってんだよ……! カラオケとかクラブとか言えや……ったく!
「まっすぐに帰れ。夏休みは遊ぶ為の休みではないことを重々承知しておけ」
あーあ、そらそうなんだろーけど、そう言っちゃうからほら、

──やっぱカタブツだよね。
──彼女いないんじゃない? やっぱさ。
──でも説教する時はめっちゃしゃべるよね〜うわ〜。

とか、ひっそり言われてんじゃん、あーあ。
ま、その通りすぎだわ確かに。
つうか彼女いんの……いんの……かね、あーもう、冨岡タブツ気にしたって意味ない、はいはい。
「何か用か、船津鈴花」
「……っ別に……」
ううわ、びくりしたあ、急にコッチ来るし。
「先ほどから俺を睨み付けていただろうが」
通りすがりだっつの!
「彼女もいないんですねって思っただけ……だけど」
「おまえに関係のないことだ」
「わーってんだよんなことは!」
やべ、つい、言っ……。
「なんだその口は。近頃飾り気をなくしていきいきとしていた様に思っていたが、まだまだだな」
ふん、それもこれもアンタのせいで──せっかく開けたピアスホールふさがっちゃったらもったいないけど、べつに要らないし。そんな重要じゃなかったし──って、コイツに気づかされたいつか。
今もじっと見据えてっし、なんか、イラつくくらいこっちがもじる──。
「完璧な生徒が居たら、先生いらね……いらないじゃない……」
え、なんかちょっと笑った? あの冨岡タブツが一瞬だけでも──レアすぎ──。
「以前のおまえは飾りに頼って己を主張していただろう」
「……確かに、そう、だけど……」
「取り払った方が心持を軽くしたのだと思っていた」
そう、見えるんだ……なにこの、褒められてる感。
確かに最近は……新作チェックするのもなんかバカらしくて、それより爪を短くきれいに整えておくとかさ、色のっけんじゃなくってさ、髪も男子ウケすっ為に巻くんじゃなくてさ。無理して盛るより自分に似合うよーにすっとかさ。それもこれもコイツのせいかも──。
「実際会話をすれば、まだまだささくれだってはいるけどな」
──くそう!
「あーはいはいそーですね! 私は義勇先生と違って、この夏彼氏を見つけるし〜」
「何故俺に恋人がいないとわかる」
やっぱいないのコイツ──!!
「さっきもあの子たちに訊かれて無言だったじゃないですか〜? 別にいるならいるって言えばいいのに、私にだって関係ないとか言っちゃうし」
「関係ないだろうが」
──む。
「それよりもおまえだ。色恋にうつつを抜かす為の夏休みではないのだからな」
「抜かさなくたって、恋するのは勝手でしょ! 恋も勉強も頑張るし、文句言われる筋合いないじゃん」
「……おまえがそれほど器用には見えないがな」
こいつ……!
「器用ならば、俺という教師にもいちいち取り繕い、説教などされずに難を逃れるだろうにおまえはどうもそれができない」
「……っそれは義勇先生が……!」
いちいちうるさいからじゃんって言ったらまた怒るなこいつ……。
「俺がなんだ、言ってみろ、言えるものならな」
く……っ!
「いちいちカタブツで彼女もいなそーだから!」
「なんだと──」
「じゃあね!」
ふん、彼女いないなんて、なんかウケる──なんでか、嬉しい。
「待て」
「うあああああ! 歩くのめっちゃはやっ!!」
こっち走ってんのに〜!!
「恋も勉学も励むというのに器用ではないおまえに言いたいことがある」
「なによ……っ」
ほんとに何──ぱっと、腕をとられた。
「なっ……なに、」
引き止めるとか、こんな、腕掴むとか──こんな、このままカベドンでもしそーな勢いで。
何そのスーツ姿ってか、真剣な、まっすぐな目、やめて、先生──なんか、照れちゃうじゃん、
私、近頃ようやっと飾り気なくしてもデキるよーにしてんだよ、まっすぐ立ってられるよーにしてんだよ、なのに、そんなに見られたら──。
「──男というものは力が強い」
やめてほんと、男の顔、すんのやめて──。
「そ、そうじゃないやつだって……っ」
「そんなものは男じゃない」
「なによ……っ」
「こうやって簡単に引き寄せられる」
「なっ……」
やめて、冨岡にドキるなんてありえな──
「中には無体な真似をする輩も居るやもしれん。器用に逃れられないおまえを案ずる」
……っやっぱ先公のツラじゃん、そんなのわかってるけど、コイツが私を女として見るなんて有り得ないってわかってるけど、
「……っ大丈夫ですから、離して……」
どきどきする、ちけえわ! 顔、赤くないよね!?
「ああ、悪かったな」
謝った──!?
なによかっこいいスーツでカッコイイ説教……じゃない、心配しちゃってさ。
「私……これでも見る目あるので大丈夫です」
何その目、疑ってんの!
なのにまっすぐ、見据えるとか、見透かされそうで、なんか腕つかまれたらドキっとしたし、はあ……っ悔しいけど、なんか、かっこいいんだよね、コイツ。
そのまっすぐな目線が──。
「義勇先生よりいい男がいればいいけど」
お、停止──してるな、よし、今のうちに逃げよ!
「じゃあね!」


後ろから「おい」とか聞こえたかもしれない。
一先ずは追っかけてこないし、ふう。
「ふふ……っすごい顔してたな……ふふっ」
どきどきしちゃった。
んで、生真面目にまっすぐ帰ってべんきょーしちゃってるとかな〜。
別にあいつに心配されたからじゃないし、説教されたからってわけじゃないけど。
なんか、最近キマジメモード。
「鈴花あんた、夏休みの課題、もう片付けちゃうつもり? 復習までしてるなんて……」
お母さんにはちょっと、恐ろしげに見られるくらいの変化。
冨岡のせいじゃないけどね、冨岡を見返してやりたいだけだし。
でも、ちょっとよくなった成績表見て、充足感覚えちゃった。
おりこうさんてのも悪くないかもね。──


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