好きな人に抱かれるってこういうことなんだ──って思い知ったその日。
まだ呼吸が戻れなくても撫でられたらゆっくり、ゆっくり落ち着いてく。──
少しづつ、少しづつ。
「鈴花痛くなかった？　大丈夫？」
「ん……平気……ちょっと、かくってするけど……」
「俺がさんざん揺すったからなー」
そう言われてしまえばつい何分か前のこと思い出しちゃって、なんか照れる。
まだ、ふわふわくらくらする。
ぎゅうって抱きしめられるとあっつくて、やっぱりくらっとする。──
「……っ大好きだよ」
思わず言ってしまった。
硬派上等だった自分がどんどん女の子ってやつになっちゃってる。
松川くんは私の隣にどさっと横になって、私の髪を触ったり、唇に触ったり。
「あー……もっかいしたくなっから、つうか、なってんだけど……」
「えっ！？　そ、そんなの、いいに、きまっ……あ、やりたくてしょうがないとかじゃなくて……っ！　うわああ」
ベッドで二人っきり、丸裸。
さっきの余韻に浸りまくってふわふわくらくら。
なのに、結局慌てちゃうとか、くう……！
もっと、女の子らしくなりたい。──
「俺はそれでもいいんだけど」
「……っなら、もういっか……い？　なんか照れる……」
自分の顔面押さえて悶えちゃうよ、そんな優しく見つめられたら。
「どうせ鈴花、俺が好きだし」
その通りすぎて、松川くんのベッドの上で裸でばたばたしちゃいけない──！
そう、その通りだよって口にするかわりに自分から思わずキスしてしまった。
どんどん大胆になってるかもしれない、なってる──。
「うあ……っ」
「はい、こっち」
腕を引かれて体、松川くんの上。跨っちゃってる、見下ろしちゃってる。──
「あ……っ」
胸をゆるゆる揺すられて、なんか腰がくねっちゃう、こんなの自分じゃないみたいに。
「ふぁ、あっ」
「せっかく休ませたかったのに、鈴花が煽るから」
「あっ……だって、松川く、に触りたくて……っもっと……わたし」
私の胸を揺らす松川くんの手に、呼吸零れそうで、どうにかなっちゃう、やっぱり。
松川くんの片手、あ、二人の隙間に入ってく。
「んぁ……っ」
「鈴花のここ、まだ、もっと濡れてる」
「は、ぁ、だって……っ」
少しづつ、優しく触られてるだけなのに、こんないやらしい音たてられたり、敏感なとこいじられたらそうなっちゃうよ。──
「あっ、まつか、あ、あく、ん、も、わたし、また」
「どんなになってもいいから、鈴花だったら」
ひぁ、とか、声が出ちゃう、松川くんの腰の上で腰が、へんに動いちゃう。
「そんな、いじ、あ、そこ、きゅ、てされたら……っ」
声が飛び出て、松川くんの上でさんざんびくついちゃうなんて──。
「あっ、あっ、あっ、でちゃ、」
とろとろ、松川くんの下半身濡らしちゃうことがどっか申し訳ないのに、止められる術とか知らない。
「まつかわ、くん、わたし……ごめ」
くったり松川くんに覆いかぶさっちゃったら、優しく背中辿られるだけ──じゃ、済まなかった。
「謝ったりすんなって、わかってるっしょ」
「ん、でもわたし、うごけな……」
「でも俺、ごめん、もっとしたいんだよね」
「ん……っ」
松川くんが私をベッドにゆっくり沈めて、もう一回、跨った、小さな箱に手を伸ばした。
「ごめん、したすぎ」
「そんなことな……」
「そー言ってくれんのわかるから我慢できないんだよな」
言葉ははっきりなのに冷静じゃない。
私を休ませなくても痛いくらい優しくしてくれる。
優しいのに痛いくらい抱きしめてくれる。
大好きすぎて、松川くんと二人でなら、このままどっかいっちゃってもいいって思った。


は、うあ、って声が出ちゃって、松川くんが手のひらでいたわってくれるベッドの上。
「ごめん、大丈夫？　今度こそゆっくりして、くたったっしょ？」
さんざん受け止めてさんざんしがみついて、もう何かの生き物みたいに松川くんのベッドの上にくたんとしちゃってる。
「あ……だ、だいじょぶ……」
松川くんが私をきゅっと抱きしめた。
ベッドの上で、もうとっくに窓の外の日が沈んじゃってる。──
指先を伸ばしたらつかまえられて、ただ触りあってる。
何回キスしたのかなんてもう、わかんない。
「あ……どうしよう、そろそろ帰らないと……かな」
「あー俺の親とかも帰ってくるし、あー……服、着とく？　とりあえず、送ってくから」
「うん……っあっ、ブラ、こんなとこにあった……っ」
「俺がほっぽっちゃってごめんなー」
「ぜんぜん……っ」
そ、そういや前に友達と勝負パンツがどーとか話して、女子更衣室でみんなのカッコカワイイヒラヒラとか見て──
今度、買ってみっかな……。
「どした？」
「あっ……か、かわいいモンをつけたかったなって……」
「かわいいじゃん、しましまも」
私服に着替えながら、松川くんがにってしてくれた。
「まあ、いきなりものすごいヤツだったらビックリしたかもなー」
「そ、そんなものすごいの持ってないよ！？」
松川くんは私が好きになった笑顔、見せてくれた。


帰り道はもう日が沈みきっちゃってて、バスから降りたら、もう少しで私の家。
今日は初めてだったな、マジでいろんなことが初めてすぎて、手、繋いだら照れるくらい。──
「鈴花って、進学すんの」
「するつもりだけど……」
松川くん、なんで都合悪そうにするんだろ？
「松川くん……？」
「ただ単に、大学行ったり、社会人だったり、お互い下宿とか一人暮らしだったら今日だって朝まで一緒できたよなーとか思ったんだよな」
そんなの、思いっきり抱きつきたい、帰りたくなくなる──。
「わ、たしだって……そう思っ……てるよ」
家までもう少しなのに、帰りたくない。──
放課後から日が沈むまで松川くん、ちょっとしたお菓子くらいしか食ってねえんだよ明日からまた練習に没頭するんだから早く帰ってごはん食べないとなのに、帰りたくない──。
そんなの抑えて、抑えて、抑えろ、松川くんのお腹を寂しくさせたらだめだろ……！
なのに手に力、入っちゃう、ぎゅってしちゃう、ガンガン見上げちゃう。──
「あっ……」
私の家のすぐ傍で、住宅街のこの道路の隅で、キスをされた。
もっとしてほしい。
唇を舌が辿って、しがみついたら思いっきり背伸びしちゃって、でも松川くんが支えてくれてるっていうか、離してくれないなんて嬉しすぎ。──
「はぁ、帰りたくないよ……っ」
想像してたのと全然違う。自分がこんな女の子って声出すとか、松川くんを好きにならなきゃ知らなかった。
「じゃあ後少しだけ……とか、言ってんのに俺、無理っぽいんだけど」
──少しだけとか、やっぱ許さないし。
そう言ってくれるから、大好き。
「あっ、は、ぁ」
この瞬間だけで何十回キスしてんだろ、もっとしたい。
離れたくない。
下っ腹、なんつう可愛げない言い方をしちゃう。そう、下っ腹がちょっと痛むのは今日さんざん松川くんを受け止めたから。
なのにじんじんして、体の芯を甘くうずかせる。
知らなかったこんなの。
今、腰がかくっとするのは松川くんにさっきまでさんざん求められたから。
膝の力が抜けそうなのは、松川くんに今も、こんなにキスされてるから。
「……もっか、い、鈴花、もっと」
「んっ……」
大好き、離れたくない。──
歩道でこんなにしちゃってるとか、そんなのもう抜け落ちちゃってる。
車は殆ど通らないけど今、通ってく。──
「はぁ……っ見られちゃ、うね」
「だな、俺はそれでもいいけど」
優しく撫でられたらまたしがみついちゃう。
「今日一静んトコ飯あんのか？」
そう、通りかかろうとした車がすうっと停車して──そんな聞き覚えのありすぎる声が聞こえた──んだけどマジかああああ！！
「……っどうも」
はっとして挨拶をしてくれた松川くんが居て、恐る恐る振り返ったら、運転席にゃあ──。
「うわぁああ！！　おかあさんー！！　ギャー！！」
「うるっせえんだよ近所迷惑だろうがお前ら二人とも纏めてやっから乗れやオラァ！！」
「ヒァアー！！」
もう、ぐいぐい乗せられて、松川くんももう、ぽっかんしちゃってる──けど、私のおかあさんにちゃんと挨拶してくれた。
「お晩です。──俺は鈴花さんを送って帰るつもりだったんですが」
車の後ろのシートに二人で詰め込まれるみたいに乗せられちゃって、おかあさんてばぐいぐい発進しちゃうし。──
「おかーさん……っ松川くんを送ってくの？」
「ァアア！？　たりめーだろが！　それより一静んトコ飯今日ナニよ？」
「何かってのは聞いてません。夕べ母親がトマトソース仕込んでたんで、パスタか鶏系かと」
「なら飯あんな。なかったら今度から鈴花に作らせとけ」
「……っそりゃ、いくらでも作るけど私……っ」
車はユーターンして、松川くん家方面に走ってく。
おかあさんは松川くん家ちゃんと知らないから、私がナビしながら──。
そうだ、ご飯といえば、専用箱──バックから取り出した。
「おかーさん、松川くんにプレゼントもらっちゃったよ──。これでいつでも松川くんにお弁当作ってあげれっから」
思わず誇らしげに言ったら松川くんが私の隣でちょこっと笑って言った。
──お願いしますって。



プラス松っつん〜


今日はマジでどーしたらいいんだか一瞬、つうかかなり、わかんなくなるくらいだった。
鈴花はマジで俺に一生懸命になってくれるし、たぶんちょっと──いや、かなり無理させたって思うんだけど、
俺はあんなに鈴花の腰ひっつかんで揺すったり、脚押し倒してさんざん突き上げたりとかで、無理させたなって思うんだけど、でもね、
あんな必死に応えられたら我慢できねえだろ。
ほんとどうしてくれる。
やっぱ帰したく無かったけど、服も着せたくなかったけど、朝まで一緒に居てえけど、明日も学校とかどうにもなんない。
あんまり困らせたくねえから、少し気取ってみた。
気取ったつもりで、カッコつけたつもりで、さりげなく、
──服、着とく？　とりあえず、送ってくから。
とか言った。
なのに結局我慢できなくて鈴花ん家の近くだってのに、歩道だってのにキスしまくりで、結局帰したくないってダダ漏れ。
鈴花のかーさん通りかかってマジビビッたけど、キスしてたの見た筈なのになんも言わずにただ飯の心配してくれた。
あーいう母さんに鍛えられてっから、鈴花は作ってくれる飯もあったかい、んな彼女なんだろって改めて思った。
それにしても今日──何回かしたってのにちょっと、まだ、おさまんないかもしんない。
鈴花があんなに、俺に必死になってくれるから。
──松川くん、わたし、おかしくなっちゃ、あ、あっ……！
そんな鈴花を思い出しちまうし。
あーやばい、サカりすぎる。
「はぁ……っ」
あんま抜くのもな。
「お」
鈴花から連絡きた──。
「はい」
──あっ、松川く……っちょ、おとうさあんぁああ！！
「おいっ？」
──一静くん！？　こんばんは！　一静くん！？
「……っはい」
やべえ鈴花のオヤッさんだ。
抜いてる場合じゃねえ、ちゃんとしねえと。──
つうか、鈴花の母さんは俺らがキスしてたの見たっぽいし、勘の鋭いカンジすっし、いろいろ気づいてんじゃねえかな。──
今日、俺が鈴花をもらったことも。
オヤジさんももしか、聞いてたりしてねえかな。
誰に何言われても鈴花を諦める気は全くねえから、やましいことはない。
でも、緊張はすんな、これは。──気ィ引き締めねえと。
「こんばんは」
──こんばんはああ！　ちょっと聞いてよ一静くん！　鈴花ってば、”僕も専用箱をプレゼントしちゃおっかな〜？”　って言ったら拒否ったんだよ！　ヒドくない！？
「そこ……すか……」
やべえ気が抜けたっつうか、そうだ、こんなオヤジさんだった。
なんか、思わずマジで、ほんと──。
──だからぁあああ！！　私のスマホ返し……っこらぁああおとうさあぁあああ！！
ほんと、気ィ抜けるわマジで、鈴花って幸せモンだなー。
俺も居るし幸せ？　って付け加えたら、たぶんいつもみてーに真っ赤んなって、わたわたすんだろーな。
って思ったら、やっぱ好きだわ。
──まま、松川く、ごめ……っうちのおとーさんがぁあああ！！
「いんや、鈴花はオヤジさんにべんとー作らねえの」
──えっ、前は……
──小学生の頃はねえええおにぎりとか……っ鈴花ってば一生懸命握ってくれてさああ！！
なんか想像したら、ちょっと──いいなって思う、マジで。
「羨ましいっすよ。俺は今年、やっと鈴花に会えたんで」
電話の向こうじゃオヤジさんが叫んでる。
──一静くんやっぱしいい子じゃんかあああ！！
──おとうさぁああ！！　まつかっ……松川くんっ！　ごめっ！　ほんとっ！
「あー大丈夫」
──ご、ごめ、こっそり電話しようとしたら見つかって……っ！
「いや、たのしーし」
──松川くん、そう言ってくれるなんて……っ！
電話の向こうから、
──だから言ってるでしょー！　おとーさんはおかーさんに専用箱渡してんじゃんとっくに〜！　だから私も大好きな人にくださいってお願いしたの！
とか、
──オメーら一静遠慮させんなやコラァ！
とか、聞こえてくるし。──
今日さんざん鈴花喘がせたベッドの上で、聞いてしまってます。
なんかもう、思い出し抜きしてるより楽しいつうか、鈴花の声がなによりってやつで。
──松川くん、ごめ……っ今、私、自分の部屋に閉じこもったし……っ！
「じゃ、今度は鈴花の部屋で」
俺がそう言ったら鈴花が照れて騒いでる声とか聞こえてきた。やっぱ好きです鈴花が。