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背の高い雪だるま──天童 クリスマス
お、イルミネーションすげえ、と瀬見が言った。
そこそこにはカップルなどがひしめきあい、サンタコスなども見える。
「オイなんだありゃ、雪だるまの着ぐるみかよ。レンタルしてんのか?」
おまえああいうの好きだろ、と瀬見が言ったが、ふと気づけば、天童がおもしろくなさそうな顔をしていたので、首を傾げた。
「どうしたよ? 去年とかはしゃいでたのによ。コンビニ帰りだったか?」
駅前などの大々的なものではなく、街角の小さなそれでも、と。
「ア〜確か、そーだったっけ〜」
「オイテンション低いな、まあ野郎同士で部活帰りだし……って、去年もそーだったじゃねえか」
「今年はアガんないんだよネ〜マジで……俺の好きな子なんか彼氏とデートだってさ、ア〜ア……」
「ハァ!? そーなのか!? マジで死にそーな面してやがる!」
瀬見がちょっと案じたほどに天童は気が抜けている。
けれどその目が一人の女子を映した。
この人並みの中でも、見つけた。──
「……っは?」
思わず、そう発した。
「どうしたよ今度は」
「俺の好きな子発見」
「マジかよ彼氏と一緒に居るトコとか見たくねえだろ」
「うん、もっと見たくねーもん見えてんだけど」
しんとして──周囲のざわめきがどこか遠い。
瀬見もわかった。
天童の視線の先には、スマホを握り締めて、泣いている一人の女。
「……鈴花ちゃん」
天童が呟き、駆け出した──”鈴花ちゃん”とは、反対方向に。
「……っおい!? あれが……っそうなんじゃねえのかよ!? 泣いて……っおい、天童……ったろ、一人で泣いて……っおい! どこに……っ」
瀬見が慌てて追った、天童は財布を取り出し、瀬見にバックを預かってもらい、
「雪だるまコスいっちょーレンタルプリーズ!!」
レンタルやさんもびっくりする程のジャージ姿の部活帰りっぽい男子高校生の勢いに、慌てて差し出した。
天童がすぐさま、装着した。──
「……っシァ! 英太君、俺、行っくからァアアア!」
「天童──!!」
瀬見の呼び声もざわめきに吸い込まれるこの人並み。
雪だるまがごろごろと人をかきわけ、たどり着いた。──
ひとり、肩を震わせている女の前に。
”鈴花ちゃん”の前に──
「ハァイ、雪だるまさんだヨ〜」
目のあたりにちょっと穴が開いているだけの雪だるまコスなもので顔はわからない。
けれど鈴花は、
「え、え……天童くん!?」
どうやら声でわかった様子だ。
すると雪だるまはわたわたと首を横に振ろうとするも、首がくるくると回るだけ。
「ちっがうヨ〜ただの雪だるまダヨ〜」
「え、天童くん、の声だよ……」
「ダレそれ? んなコトより、キレーだね〜イルミネーションすげ〜ね〜ボク、こんなカワイイ子と見れてスッゲー嬉しー! 雪だるま君はそー思ってからネ!?
間違いないヨ〜!」
涙に濡れた瞳に映ったのは──
「ホラ、見てみて、ころころしててイイっしょ?」
目の前でくるくる踊って見せたり、
「ァアア首回っちったカワイイ子が隣に居るのにちゃんと見ねーと!」
おどけて見せたり、ぴょんぴょん跳ねては雪だるまコスなものだから転がりそうになってしまって慌てたりしている雪だるま君。──
──天童くん。
「ど? ど? 俺のダンシンッ! アッ! 俺って言っちゃった! ぼぼくはカワイイ雪だるま君でゲスヨ〜」
何故か突然に現れて、涙の訳も訊かずに一生懸命笑わせようとして、またくるくる回ってみせて、なのにところどころ、天童丸出しで──。
「……っふふ」
鈴花が思わずくしゃりと微笑んだなら、涙がぼろぼろと零れた。
「ウァアアアー! もっと泣かせちった!? ンノォオオー!! 突然の雪だるまクン、怖かった!?」
「……っううん……ううん……」
ひらすらに首を横に振れば、涙がまたこぼれる。
けれどその涙はじんわり、あたたかいものに変わっていた。
先ほどまではひとり、震えて、凍えそうだったのに──。
「ううん……っ私、今日は辛くて……でも、ちょっと元気出たよ、ありがとう……雪だるまさん」
涙はぽろぽろと──痛みは拭い去れずとも、痛むからこそ沁みる雪だるまさんの心を受け取って頬を伝っていった。
「そういや、てんどークンてカッコイイやつが言ってたよん」
鈴花が雪だるまさんを見上げた。──
同じクラスの彼を、今日ついに砕けてしまった恋をずうっと応援してくれていた彼を、背の高い雪だるまさんを。──
「鈴花ちゃんは俺が好きになるくれーイイ子だから、これからも楽しーこといっぱいあるよーってさ。キツイことあってもさ? 俺だけは味方だからって──そー言ってたよ。だからあんまこの世の終わりみてーなツラすんなーって」
ほろっと涙がこぼれて、肩は震えて、手は雪だるまの着ぐるみをきゅっと掴んでしまった。
「お? 死にそーだったのに、きゅーてする力あんじゃんいいじゃん、イイネ、メリークリスマース」
「……ん」
──そうだね、メリークリスマス。
泣きながらでも微笑むことができてよかったと思えたのは雪だるまな彼のおかげ。
潤む瞳の向こうのイルミネーションを今、やっときれいだと思えた。
どう声を掛けたらいいのかわからずとも、見守っていた瀬見が目にしたのは、背の高い雪だるまと一人の女子が寄り添ってイルミネーションを見ている様。
とりあえずあたたかい飲み物でも買ってきてやろうとしたけれど、着ぐるみは暑いかもしれないと思った。


──ねえ雪だるまさん、”てんどークンてカッコイイやつ”に伝言、頼んでもいい?
──んお! イイヨ〜!
──天童くんと同じくらい背の高い雪だるまさんとクリスマスのイルミネーションの前でね、会ったよって。
──ん。ソレ伝言? イイヨ伝えとくヨ?
──あのね、一緒に見ようねって約束してた彼氏にいきなりふられちゃって憎たらしいイルミネーションなのにね。
──うん。
──つらいのに、雪だるまさんに励まされて、すごくきれい、きれいに見える、そう思えてよかった。だからね、
──ん?
──ありがとうって──天童くんに伝えてください。天童くんと同じくらい背の高い雪だるまさんにも、ありがとう。

ほろほろ零れる涙の向こうにきれいな光があって、隣には心あたたかな背の高い雪だるまさんが居てくれる。
憎たらしいイルミネーションすら彼のおかげできれいに見えたクリスマスの夜。


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