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かわいいひと──3
なんかそわそわする──。
あいつ、潜尚保。
あいつっていうか、いつか尚、とか呼んじゃうの!? 
両思いってやつでいいんだよねコレ。
好きって言われたし、言っちゃったし──!
「あれ……練習試合!?」
そう、バレー部だっていうし、練習見に行ってみたら、ちょうど今から始まるみたい。
「うわ、見れるとかラッキーじゃね」
あ、いたいた、あいつも。
なあんだ、ユニじゃなくってビブスとかいうやつ? アレ。
でも、控えなのかあ。一年だしなあ。でもナンバーもらってんじゃん。ふうん。
「──あっ! 出てきた……っ」
やだ、興奮しちゃうとか何コレ、好きだから!?
なんかめちゃくちゃ見ちゃう──。
「あ……っ決めた! うわ」
見ちゃった、打ったトコ。
バレーのこととかよくわかんないけど、一本決まった、決めた、あいつが。──
なにあいつ、かっこいい──あ、どうしようもう見てらんない。


「鈴花さん」
「うぁあああ」
殆ど見てらんなかったけど、どうにか勝てたトコまで確認して、こっそり退散しようとしてたのに──
見つかってしまった〜!!
「見てたんですね」
今、汗拭いながら私に歩み寄ってくるし、くるし──。
「ああ、ちょっと、だけね」
「あの」
「な、なに」
「俺が出たところは見て、ましたか」
なにそれこいつ──。
俺のこと見てくれた? なんてドヤって言えないピュアさとか、ちょっとやめて、きゅんきゅんするとかありえないから──!!
かっこよかったんじゃない? とか、気取って言えない──。
もう、とっくに骨抜かれてるって思い知るじゃんこんなの。
「あんま、見てらんなかった……」
あ、ちょっと俯いた、こいつ。
「なんで黙んのよ! だってあんたがあんまり……」
「確かに、二本目のクロスは少し危なげでした」
「え!? クロス!?」
わ、わかんない、なに!?
クロス……? ナナメに? ってこと?
「あの、そこまでちゃんと見れてなかった、ごめ……」
うう〜言いづらいこんなの──。
理由、言いづらいっていうか、言うのすらきゅん殺されそうで……!
「でも、最初のストレートはキレイに決められました」
な、なにそのぐいぐい迫ってくる感じ──!?
も、もしかしてクロスがどうとかよくわかってない私がバレーバカにしちゃってるとかって怒り? 
ええと、どどうしよう……っでも、そっかあれ、私が最初に見たあれ、ストレートっていうんだ……。
まっすぐ、打ち抜いてた。
「あ……すぱんて、きれい。かっこいい」
──って思ったの。
そこまで言えなくってモジモジきゅんきゅんしまくりが、今は静かにどくんどくんする。
見つめられて──あーもう、どっちにしろドキッてる!
惚れてんじゃんばかああああ!!
「……っあ、もう、かっこよすぎて、その後もう、見てらんなかった……!」
「どうしてですか」
「だから……! かっこ、あ、よ、かったて言って、いってんじゃん……! ドキドキしちゃって、立ってられなかったの!!」
ああもう、
──ごめんね? かっこよすぎてついずっと眺めちゃった。
そんな気取った願望、ふざけんな。もう。
気取るどころかかわいげも出せない、なんなの──。
立ってられなかったんだよ、骨、どこ。
「初めて見ました」
「……っは、はじめて!? あああ私そんなに……ええ、なにを!?」
今朝だってアイプチした、自然にパチっとなれるマスカラだっていつも通り、髪だって入念にテコッた、うっすく艶出るリップだって、パウダーだって、アクセだって──。
ちゃらっとして、気取った塗装して、デコまみれなそんな私。
なのに、その筈なのに。
「そんなに顔が赤くなってるひとを」
──!!
誰かにきれいって言われて自尊心満たしたいだけな私が、私が、私はそうなのに──!!
「う……だ、って……」
やっぱ骨抜きにされて、今だってホントだったらバシッと言って立ち去って、顔面冷やしたいくらいなのに、なのに。
「しかたないじゃん! 好きなんだから!」
そんな叫んじゃうとか──もう。
「死にそ……」
「あの」
「なによ──!」
「やっぱりかわいいひとだと」
殺す気か、こいつ……!
骨は砕けてもう知らない、なにこの真っ赤になってる軟体生物、それって私。
私は気取りたいの、上から目線で「だよね?」とか言って男子とかをどきどきさせたいの、そんな願望、砕けちゃうじゃん。──
「もう……私ばっか、好き、みたいじゃん……」
「好きです」
「す、き、だけど……」
「あの俺が、です」
もううあ──!!
「なによ! 私もよ! 私が……っ私のが……っあああ〜もう! あんたといるとなんでかおかしくなっちゃう〜!! もうぁああ!!」
あーもう叫んじゃってかっこ悪い!
「あの」
「なに!?」
「ストレート。──かっこいいと言ってもらえたので、次はレシーブも見てください」
なにこのバレーばか──。
「……っ見るわよ! んであんたがかっこよすぎて私が立ってらんないくらい撃沈したらちゃんと骨拾ってくれるんでしょうね!?」
「からだごと拾ってもいいですか」
撃沈──。
なにこの溺れそうな熱湯。
もがいちゃうのに、のぼせそうになったらちゃんとこいつが救い上げてくれそうで──。



「船津サン潜見に来てた?」
「……っ大将くん」
うう……な、なんかいつの間にか、部員のみんなにじっと見られて──!?
「あ、う、ん……」
ハァアアなにそれ自分、もじっとすんな〜!
潜尚保ってば、潜くんてば、じっと見てるし。
──どうよ、私見て。見てよ今日も目を惹くっしょ?
そんな自分だった筈なのに泣きそうなくらいナニこれ、そうそう、潜くんを見に来たのよ、なんてとても気取って言えねえ。
──私に好かれたらうれしいよね?
そんなこと思ってたバカおんながさあああ!!
今、見られてるだけで全身、もじっちゃう。
潜くんにこんな、見られて──。
「あ、あんま……見ないで」
ああもう、何言っちゃってんだろ、もう、ここに居られない。
「……っはずかし、から」
かろうじてそれだけ言えた。
「……っじゃあ」
それだけ言って駆け出しちゃうとかなんなの、空気読めないピュアか、なんなの、大将君とかだって、ぽかんとしちゃってたっぽいのに──。
「はぁっ……はぁ……」
走って、走って、恥ずかしい、からってなんだよ……!
とにかく苦しい、もう、なんでこんなに──。
「……っ鈴花さん」
「うわぁあああきたー!!」
「……あの」
追いかけてくるとか、やばい、うれしい──!
「あまり見るなと言われて、その──つい、見てしまっていたので……嫌がられるかと思ったんですけど、気になってしまって」
「……っご、ごめんね、な、なんでもないから……っべつに……っ」
「じゃあ、目、逸らさないでください」
逸らせるわけ、ないじゃない──。
でも、あんまりドキドキしてつい、逸らしちゃう、顔、アツい。
やっぱり赤いのかな、恥ずかしい。──
「逸らさないでください」
畳み掛けないで、お願い──!
「……っむり、今、ごめ、」
「逸らさないでください」
──!!
「……っわ、わかったわよ……! く、、か、こ、これでいいんでしょ!」
あああもっと可愛げ出して、出したい、のに、見つめられたらやっぱ逸らしちゃう!
顔面、かぁああああああああああああああってなっちゃう──!!
なにこれ、もう。
「なんで恥ずかしかったんですか」
「えっ!? だって、みんなに見られて……潜のこと好きなんだねえって見透かされまくってるかんじがして……っそれに、あ、あんたがじっと見るから、それだけで……っ」
「なんで恥ずかしかったんですか」
ウワァ──!!
「だ、だから……っあんたのことわざわざ見にくるくらい大好きなんだよねっていう目で見られてそれが本当のことだから……っだから、だから……え?」
頬にほろっと──自分ではっとした。
はぁあああ!?
嘘でしょ、私、なに泣いてんの!?
なんでぽろっとなんか、出ちゃってんの!?
必死に伝えるだけでなんで涙、出てくんの!?
こんなの、ドン引きされるだろ、やめて、ひっこめ、潜くんを困らせんな。
「あ、だ、だから……って、てれくさくて、はずかし、の……っもう、許して……」
なに、ガキみたいに言っちゃってんの、ぐずっちゃってんの──。
「あの、許せないです」
「えええ!?」
「許したら、そんなかわいい顔をもう、してくれなくなるのかと」
あ、死んだ──。
かんたんに死ぬとか言うなよ、だめ、そんなの、だめ。
なのに、こんなに死にそうなくらい好きなんだもの。
「潜が彼女を泣かせている」
「潜おまえ〜」
「ちょ、船津サンだいじょぶ?」
うわぁああ様子を見に来た大将君たちがぁああ!!
「あっ……潜くんのせいじゃ……っ」
「いえ、俺のせいです」
潜くんは、私を見た。
「そうじゃないと嫌です」
私、死にそう──。
そういえば目をこすっちゃって、マスカラ生きてるかな。
頭振り乱してぐずっちゃって、巻いた髪、生きてるかな。
もういいそんなの、とにかく顔真っ赤にしてくったくたな骨抜きにされて死にそう──。
骨、じゃないや、体ごとひろって潜くんお願い。


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あきゅろす。
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