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かぼちゃの飼育はおりこうさん──天童
満を持して──
ハロウィンの衣装が完成した。
「いい!? 今日はハロウィーンよ!」
「はい!」
部員全員、気合い充分です──。
「文芸部やイラストレーション同好会の子達なんかもイレギュラーにはおもしろおかしく喜んでくれそうよ! 後はね……」
皆で息を呑んでる、今。
「バレー部や馬術部なんかの強豪にアピるのもよしよ! 生徒会の予算多くもらえない弱小部なんだからねわたしたち! 外側から攻めるのよ!」
「はい! 部長!」
盛り上がってきた──でも、緊張する。
「話題になれば生徒会だって、ちょっと優遇してくれる筈よ! いい? こんな手作り衣装がスゴイ私達をアピって! 全国ワークショップ出展目指して意地を見せるのよ!」
「はい! 部長ー!!」
よし……! 気合い入れなきゃ……!
誰からも注目されない手芸部、ここで目だって、アピって、予算をお願いします!
「いい? ぶっちゃけお菓子なんて要らないわよ! 手作り衣装をアピールして!」
「はい! 部長ー!!」
私達は毎日こつこつ、針とミシンと糸と──ロックミシンだって揃えれないくらいの注目度薄い期待のされなさ。つまり地味……です。
私はそのこつこつが好きででも、私達だって、強豪の部に劣らないくらいがんばってます……っただ、あの、予算があまりもらえないだけで……。
「じゃあみんな散って! 生活指導の先生に見つかったらとりあえず逃げて!」
「はい!」
よし……!
私もこの着ぐるみ衣装でアピリます!
けっこう自信作……かな、でも、魔女とかの衣装と違って、顔も見えないし体型もあまりわからないだろうし、この衣装ならどうにか私でも校内を練り歩ける、かな。
うう、引っ込み思案やめなきゃ。
部のみんなと一緒にワークショップ全国出展目指します!
その為には予算〜!!
「……っどこから……うわっ、運動部の方に出ちゃった……」
勢いで飛び出したけど、やっぱり体育会系は怖い、かな、でも、全国目指して──でも、やっぱり、特別棟の方行こうかな。
イラストレーション部の人とか、部長が言ったみたいにこういうコスプレっていうか、おもしろそうなの好きそうかも──?
男だらけの柔道部とかだと、こ、こわいかも……で、でも。
「この衣装じゃ顔も見えないし、それに全国……!」
よし、がんばって運動部の人たちにもアピールしよう。
この、手芸部ですってプラカード持ちながら──。
うう、でも、みなさんやっぱり真剣に部活やってるし、私の着ぐるみなんかに注目する暇もないよね。
「あ、ここって、バレー部専用体育館……? なのかな、でも、誰も居な……」
「ッァアアアー! オバケカボチャはっけーん!!」
「んぁあ!?」
なっ……なに、なに!?
バレー部の……男子バレー部のひとたちが……え? ランニングかなんかから戻ってきたのかな……ていうか、
「なになになになになになになに──!? パーンプキーンじゃーんかー!」
「えっ!? う、はああああ!?」
一人めっちゃ私に向かって突進してきてらっしゃいま……
「ふぁああああ……っ」
こ、こわい、逃げ……っ
「ちょい待ーち!」
「ふぁあああ! ごめんんさいー!!」
あああアピれ言われてんのに逃げちゃった!
だって怖いんだもん!
なんかすっごい突進してくるし〜!
男子に突進されるとか、どうしたらいいかわかんないし〜!!
「天童がカボチャ追いかけたぞー!」
背中のほうからそんな声が聞える。──
て、天童さんていうのこの人!?
なな、なんで追いかけてくるの、私を、カボチャの着ぐるみな私を、
「ハァイ、ゲット〜」
「ぁあ……っ」
こ、これって、何……?
捕まったっていうか……あ、こがれの……壁ドン──!!?
うわああああああ!
ここって、体育館裏……?
うう、なんで校舎の方に逃げ込まなかったの──!
どうしよう、体育館裏って、こう、”お前屋上こいよ”みたいなそういう怖い感じ?
でも、だ、大丈夫だよね、私、
「ん? そのプラカード、手芸部て!」
そう、手芸部がコスプレしてるだけだし、この天童さん? は、バレー部……ええと、バレー部は強豪な、凄くて、つまり、問題とか起こせないし、紳士な筈です!
「しゅ、げいぶ、です……」
どうにかこくこく頷いたけど、頭ちょこっと重い、かな?
他のみんなみたいに魔女のコスプレとかできなくって、結局したのが、
「ナニコレ! カワイイ! カボチャオバケ!」
そう、かぼちゃヘッドな着ぐるみ──を作製して、今装着中です。
「あ、ありがとうございます……」
フォルムは別として、頑張って作った自信作だったから、かわいいって言われて嬉しい。──
「ん? ナニこのパンプキンちゃん照れてんの? んん〜?」
うあ……っの、覗き込まれて〜!
お、落ち着いて……
私はパンプキンヘッド装着中だし、顔は露出してないし、けど、やっぱり壁どん……っ!?
いけない、アピールしなきゃ……っ!
「うっ……」
どうにか、壁ドンされながら、プラカード揺らしてアピッた。
手芸部ですって──。
「しゅげーいぶ!? は、いいとして、ハロウィンだから!?」
「は、はい……」
うう、さっきから近いよ〜この天童さんてひと!
「え〜じゃ、アレだよネ! トリトアト〜!」
「えっ……とりく、あ、おあ、とり、とかと……」
「なんだっけ! あ、アレアレイタズラしてい〜ヤツ! だよネ?」
「えっ……あの、お菓子を……くれなきゃ、いたずらしちゃうぞ、ですよね……」
「持ってんの?」
ま、待って、アピることしか考えてなくて、お菓子なんか持ってない。──
「あっ……い、いえ……」
どうしよう──!
「ほーいんんじゃトリックオアトリートゥ〜!! え? お菓子ナシ? イタズラ決定!」
瞬間、は、あ、ふ、あ。え、あ、
「あっ……ぁああああ」
うぁあああ〜!! 何故に抱きかかえられて〜!?
「あ、あの──!?」
「え? イヤだった? ゴメン、んじゃイタズラじゃなくって〜体重量るヤツ?」
な、そんな、
「たいじゅううう? ですかああ!?」
「ホラ、ハロウィン間近になるとやってるじゃーんか? デッカイかぼちゃ持ち上げて、コレ何キロ? 当たったらナンかもらえる!」
「た、たしかにそういうのも聞いたことあ、りまうす、がっ」
体重量られるの!? いやああああああ!
ていうか、抱っこされて、るし、それどころ、どこどころ、もう、生まれて初めて男子に追いかけられて、壁どんされて、抱き抱えあげられちゃって……もう、パンクしそうなのに、体重まで──!!?
せ、めて魔女コスとかだったら、せめて、制服とかだったら──
なのに私はカボチャの着ぐるみな正体不明のオモシロ枠なコス。
ドキドキするのもサマになんないのにしちゃうなんてものじゃないよ──うああ!
「あのっ……体重は……あ」
「ん〜とネ〜アッ! わかった!」
「ひぃ!」
「俺の好きなチョコアイス百個ぶんかも!」
「それって……あの、どのくらいの大きさのアイスかによります、よね……」
「ハズれだったら参加賞とかねーのん?」
「参加賞!? な、なにも持ってませんが……!」
「ペンとか持ってたら、俺の番号とか書くのに!」
「な、ぜですか……」
「だーって、カボチャ抱っこして、重さ予想するイベントって大体あたったら景品もらえるっしょ? 景品でも参加賞でも貰えんなら、連絡先記入しとかねーとってな〜」
な──こ、この人、やっぱ、さっきからからかってるのかな。
もしもファミリーパックのリッターアイスだったら百個分で百キロになっちゃう!
「生憎ペンは持ってませ、」
「天童がカボチャ持ちあげてるぞー!」
なっ……バレー部の人たちが走ってくる〜!!
「英太君見て見て! パンプキンちゃん捕まえた!」
「カブトムシ捕まえたみてーなノリで何やってんだ!」
やっぱりそんな枠──!
でも、
「お、手芸部? ハロウィン活動してんのか?」
「おい、菓子とか持ってねえぞ今、やるもんがねえな……」
「ブフッ! 隼人、親戚のおっちゃんみてーになってる!」
「何か与えてえだろ」
「ペットか!」
「うぁあ、あ、あの野良カボチャに餌を与えなくてもいいので……」
「野良カボチャて!」
英太君? ていう先輩が噴いちゃって、でも、ちょ、ちょっとウケた?
よし、この勢いで……! 宣伝しなきゃ……!
「あ、あの、手芸部をよろしく……お願いします……」
「おお〜」
それにしてもほんと、生まれて初めてこんな囲まれてる……男子に!
「天童、そろそろ下ろしてやろうな」
「ええ〜せっかく抱っこデキてんのに〜」
「天童さん、そろそろ戻らないと監督に外周追加されますよ」
あっ……彼は確か、同じ一年の白布くん……だったかな?
「ゲッ! ヤバッ! んじゃカボチャの子まったネ〜」
「は、はい……」
「気をつけて戻れ」
「はいっ……」
うわあ、あの牛島さんにお声を掛けられた──!
「あ、みなさん、がんばってください……っあの、私達も、東京遠征行けるように……手芸の全国展示会があるんですけど、がんばりますから……!」
「ガンバレ〜! つか、カボチャがぺこぺこしててカワイイ!」
「……っあ、りがとうございます……」
うう、男子に初めて……かわいいって言われたかも……!
他のバレー部のみんなも気の好い人っぽいし、いい人たちだったな。──


翌日、いつも通りに部活に出てからだった。
他の部員たちはお菓子ももらったみたいで、放送部に行った子なんかは宣伝してもらえるかも? って好感触だったみたいで──。
ハロウィン作戦、無事に成功できて嬉しい。
「あっ……先輩、私の衣装なんですが、町内の子供会で来年使わせてくれたら、ということで……」
「カボチャちゃん居る──!?」
がらっと開いた戸、覗いた楽しそうな顔、この人は天童さん……!
「えっ……天童くん、どした? 部活は?」
二年の先輩、天童さんと同じクラスなのかな、そう訊いてる。
「今日これからミーティンスタンバイ! んで、カボチャちゃんにアイス買ってきたんだケド〜」
今日は皆も私も、制服やジャージのまま。──仮装はしてない。
天童さんはぐるんぐるん首を振って見渡して、昨日の野良カボチャを捜索中で……っていうか、カボチャの一言で部員のみんなも「あっ」て顔して私を見ちゃったし、ば、ばればれ?
「ん〜パンプキンヘッドで顔わかんなかったし? どの子かナ〜」
とか言っちゃうの、わざと!?
な、なんかによによしながら、俯いちゃってる私に近づいて、くるし──。
どうしよう、恥ずかしい。
昨日は顔も見えなかったけど、今は正体晒しちゃってる。──
素顔がこんなんでごめんなさい──。
「みーっけ」
「……っ」
ぱっと顔上げたら間近過ぎて──め、免疫が……。
ていうか、やっぱり手芸部のみんなの「え? 昨日カボチャ仮装したの、船津だよね」って視線でばればれで〜!
なのに、
「キミディスカ? ちっげーの? あー昨日みてーに抱っこしたらわかっかも〜?」
「えっ!?」
「ホラ、オウジサマがガラスの靴持ってきたみたいなアレ!」
「し、シンデレラ……あ、あの、」
私ですから! からかってるんですね!? そーいうのやめてください!
とか言うところなのかな、でも、私にはとても言えない。
──俺の好きなチョコアイス百個ぶんかも!
そう言ってた昨日。
今、持ってきてくれたアイスは百個になってもたぶん、二十キロくらいしかない。
冗談交じりでからかって、でも、
「これこれ! 俺が好きなヤツ! 昨日楽しかったから買ってきちゃったんだよネ、食ってプリーズ!」
そんな天童さんに。──
「あ、ありがとうございます……気遣ってもらって……」
「え? 気遣ってないよん〜ハイ! もっかい抱っこできっかもって思ってきただけだしな〜」
「そ、そうなんですか!? な、なんで……」
「名前なんてえの?」
「船津、鈴花です……」
「鈴花ちゃん俺に抱っこされて慌てちゃってカワイかったし!」
う──そんなこと言ってくれるなんて。
「ね、ね、昨日も抱っこされてんな照れてたの? 照れてたの?」
「……っは、い……」
「ま、リアクションでわかってましたケドね?」
うう──!!
「カワイかったんでほい、アイス。んで抱っこオケ?」
「あ……今、ここじゃ……」
「んじゃイイってコト? 俺、大勝利ィイ!!」
「天童君手芸室ではしゃいでんじゃねー!!」
私の先輩がそう言って、天童さんは追いやられる形で、口を尖らせながらゆくところです。
私は思わず追いかけてしまって、
「あの、アイスありがとうございまっ!?」
「ハイゲット。パンプキンヘッド無いぶん、チョット軽いね? 昨日より」
「あっ……あっ、抱っこ、あの、恥ずかしいです……っ」
「ナンでナンで? あ、手芸部の部長サン、鈴花ちゃん持ってってい?」
「いいワケないでしょうが!」
「ちぇー」
「あ、あの、天童さん、せっかくもらったアイスも溶けちゃう、ので……」
「アッ! そーいえばァア!」
「そういえばミーティングなんだよやっぱココに居んじゃねえか!」
あっ……瀬見先輩、だ。
「ウァアアア英太君が俺の青春を邪魔しに来たァアア鈴花ちゃ助けて!」
「ど、どうしたら……っ」
うわぁあああ抱っこされたままぐるんぐるんする〜!!
やっと下ろして貰えたらアイスも溶けちゃう、天童さんは無事に? 瀬見先輩に連れて行かれちゃう。
「あの……っ部活、がんばってください……っ」
「ちょっと英太君聞いた? 今の。カワイイっしょ? 俺のカノジョ」
かのじょ、て……
いくらノリがよくてもそんな事言っちゃうなんて、天童さ──
「いつのまに付きあってんだよクソ羨ましいじゃねえの!」
「デショ? デショ? 昨日会ったばっかりでさ〜最初はノラカボチャな子かと思ったんだけど、カワイくてさ〜つい、飼いたくなっちゃってさ〜ゴハンのアイスあげにきちゃったんだよネ〜」
「おまえ……彼女に随分失礼な言い草しやがって!」
プライドの高い女の子とかだったら”何言ってんだコイツ”って思うのかな?
ツッコミ激しい子だったら、”誰がペットじゃ”って言っちゃうのかな。──
クールな子だったら、”あー野良かぼちゃねはいはい”とか言っちゃうのかな──。
どうしよう、私どれでもないし、アイスがゴハンでもいい。とか、思っちゃうなんて──。
「あ、飼ってくれるんで、すか……」
うわああ私何言っちゃってるんだろう──!!
でも、また抱っこされたいなんて、正直思ってしまうなんて──。
「リードなくてもきっとおりこうさんだよネ?」
そう訊かれて、こくこく頷いてしまうなんて──。
昨日は生まれて初めて男子に追いかけられて、壁どんされて、抱っこされて、今日もされて、ついにはご主人様に恵まれたなんて。
ハロウィンて凄すぎる。


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