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明日どうなっても──工 上の続き
いよいよ始まったインハイ予選、俺はスタメンに選ばれた。──
勝ち進んでいくことが当然な──いや、負けることが許されない空気の中に居れるってやっぱり燃える──。
決勝は青葉城西。牛島さんはやっぱり、及川に一目置いてるんだろうか。
向こうもライバル意識、すごいみたいだ。
「俺の事も警戒してもらわないと──」
「ああ、未来のエース一本頼むぞ」
「ハイッ!!」
山形さんに背を押されて、ボールを持った。
俺のサーブ、ここで切らせない。──
いい感じ、リベロを逸らした。
まだ、サーブじゃ牛島さんにも及川にも敵わないなんて、認めて立ち止まる訳にいかないんだ、俺は。
拾われ──いや、弾いた。
「ッシィアァアアア!!」
もう一本。──
「及川さああああん! 頑張って──!!」
「んなっ!?」
今、俺のターンなのにこの女子の声援、すごい──イケメンか!
「つとむもカッコイイヨ〜! もいっぽーん」
「ハイ……ッ天童さん!」
ちょっと気がほぐれて、もう一本イケた。
高校初の公式戦、俺は次期エース──いや、すぐにエースと呼ばれる存在になる。


試合が終わって、クールダウンして、これから戻ってミーティングだ。
勝てて嬉しいけど、全国行きが決まってすげえ嬉しいけども──!
「若利くんおめでと〜」
そんな女子さん達の声があって、牛島さんは淡々と声援に頷いてく。
「未来の大エースもそのうち”工くーんオメデトー”とかいっぱい声掛けられるよーになんの?」
「……っなってみせます!」
天童さん、当然です!
「じゃあ早くなれば。今日のクロス、どのくらいの成功率だったかちゃんと確認しとけよ。船津先輩、データ作ってるし」
「……っハイ!」
「賢二郎キビし〜!」
「天童さんこそもっと言ってやってください。天童さんを囮にしたクロスで五色が一度ミスしたじゃないですか」
うう……! 確かに!
「ミスつーか向こーのジャッジがよかったんじゃん? アレで入ってたら結果オーライだたけどネ〜」
確かにそうですが……!
「いえ、打ち抜こうと意固地になった結果、力んで思うところに打てなかったんです五色は」
「ま、そーだケドさ〜」
確かに……くっ……!
「スミマセン! 全国までにもっと完成度上げるんでお願いします!」
がばっと頭下げたら、白布さんは「練習」って一言言ってくれた。
「おまえら後はミーティングでな。工もナイスファイト」
「山形さんアッス!」
「とりあえず全国行き喜べってんだッシィァアアアア!!」
「イエーイどっせーい」
「ウオォオオアアア!?」
先輩達と喜びを分かち合……う、っていうか、ガッツリ肩叩かれたり、体当たり的なハイタッチだったり、すげえ……! でも嬉しい!
インハイ、全国の舞台に立てる。──
「パッツンオメデトー! 暇な大学生が応援に来てやったじょー」
え──あの人は……鈴花さんのおにいさんの友達の……そうだ!
俺がいつか鈴花さんがナンパされてんじゃないかって、勘違いして突撃してしまった時の……!
あっ! 鈴花さんの友達も居る!
「ア……ッアザス!」
そろそろ退却しようって、通路で──あっ、鈴花さんのおにいさんも、居る。
「おーす、おめでとうなー」
「アッス! 応援しに来てくれてたんですね!」
「おう、すげーじゃん。ぱっつとむ君レシーブも上手いよな」
──おにいさん……!
「あ……あっす! ざっす!」
「……っおにいちゃん応援ありがとう」
鈴花さんがおにいさんに駆け寄って──肩、ぽんってされてた。
「でもぱっつとむ君てヤメて! おにいちゃん!」
「うああ鈴花さん俺は大丈夫ですから〜!」


バスに乗るまで後少し──。
鈴花さんは荷物運んだり、コーチのところに行ったり、他の面々はバス待ちしたり。──
俺は鈴花さんのおにいさんにドリンクおごってもらってしまった──。
「……ッス! いただきます!」
「おーす。後ちょっとしたら出るよな」
「そうですね!」
やっぱ緊張するな……! 鈴花さんていう俺の好きな人のおにいさんと一緒に居て。──
「全国出場の祝いに鈴花、また弁当作ってやれって、俺、言っといてやっから」
「……っ! そ、それ凄くうれしいです……!」
そう、嬉しいけども──!
「で、でも……あのォ! 鈴花さんからのご褒美なくても俺は全国優勝します!」
「ま、それはトーゼンとして、鈴花のベントーいらねーの」
「いります!」
「はは、いいじゃんそれで」
あ──なんか、すこんって、気、抜かれた。
鈴花さんとは雰囲気全然違う感じなのに、そういうとこ、似てるんだな──。
「お、どしたぱっつとむくんよ」
なんか、気を落ち着けてくれる。っていうか。──
「いえ、……鈴花さんに似てるな、と……思いました」
「そっか」
たったそれだけ──。
なんか大人っぽいな、やっぱり──大学生だし、鈴花さんのおにいさんだしな。
「ところで鈴花とヤッた?」
「なあああああああ!?」
「はい、ヤッてないと──」
「えっ、あっ、そ、そうで、すが……っ」
「ゴム欲しかったらやるから」
「いっ!?」
「ああああなに言ってるのおにいちゃん〜!!」
「うぁあ鈴花さんが本気のダッシュでおにいさんに本気タックルを──!?」
鈴花さんがガシガシ怒ったり、でも、おにいさんが祝ってくれたり──。
「そーだ工君よ、こいつ無理する時あるからよろしく見てやって」
「……っ勿論です! 鈴花さんは俺の大事な人なので──!」
「俺は試合中に足やっちまって、無理しちまったんだけど」
それは──俺も知ってる。鈴花さんが前に言ってたこと。
おにいさんもバレーやってた事。故障してしまって前みたいに飛べなくなった今も、社会人チームのピンサーに入ったりしてること。
「でも、うちの妹は”無理を安心に変える為に”いろいろ勉強してるらしいわ、そーいうの要らねえんだよって工くんからも言ってやってな」
な──それって……?
「おにいちゃん……っ」
鈴花さんが、じゃあな、って行っちゃうおにいさんを引きとめようとして、でも、おにいさんは笑顔で行ってしまった。
「あの……っ鈴花さん……え!?」
「ごめん……ちょっとうるっとしただけ──。バス、隣でもいい、かな……」
「……っはい!」


──無理を安心に変える為、か。──
「あの、鈴花さん……」
バスで隣の席に座ったらやっぱり天童さんとかにちょっとからかわれて、鈴花さんはにこっとしてて。
でも、気になる。──
「おにいちゃんが怪我した時ね、痛みを隠して無理したおにいちゃんが一番悪いんだけど、それでも私、思っちゃったの。──もしもあの時、ちゃんと将来に響くって見抜いて止められる人が居たら? って」
鈴花さんはその時、中学生だったのかな、きっと。──
「でも、もし、古傷が痛んだり、ギリギリ出れるか出れないかの瀬戸際だとしたら──出場を止めるんじゃなくて、後何回かでも飛べるようにサポートできるような──応急処置専門のトレーナーが居るの」
「……っはい」
ちょっとしんみりした鈴花さんが、やっと笑ってくれた。──
「私は将来それを目指してて、白鳥じゃ一番強豪の男子バレー部のマネージャーになったんだ」
「おにいさんの為に、ですか……?」
「自分の為にだよ。少しでも後悔しないように」
バスが学校まで、走ってく。
鈴花さんのことをまたひとつ、知れた。
そして全国に行ける。──
「ハイハ〜イ! 全国出場にカンパーイ!」
「アイスで乾杯かよ!」
練習が終わった後にはみんなでめちゃくちゃ喜んでた。──


そういえば最近、鈴花さんとスマホでやり取りしてない気がする──電話も、してない。
おやすみメールも、してない。
これから全国に行く今、バレーのことしか、考えてない。
「工どったの? 風呂あがりにエロ画像でも見てんの?」
「えっ! み、見てません!」
ウウ〜! 寮のロビーでスマホ見てたら、からかわれてしまった〜!
「そーいえばさ〜昨日久々に見たけど、鈴花ちゃんアニキ、けっこーイケメンだよネ〜工ってば可愛がられてんの」
「えっ……あっ、おにいさんは、あの! 応援してくれて……ると思います!」
──鈴花とヤッた? ゴム欲しかったらやるから。
そう言われたんだった……! ウァアア! じゃあ欲しいですなんて言えません──!!
「いいじゃんア二キ公認〜。つうか、 ”鈴花サン付き合ってクダサイ” しちゃわないの、お前さー」
「えっ……」
「おーい? ナンで疑問?」
「いえ……っ全国で優勝することばっかり考えてて……っそういうのは……! もっとカッコイイ俺になってからじゃないと……! と、思います……!」
天童さんは何でか、ぽかーんとしてる。
「工のそーいうアホっぽいトコ、嫌いじゃないケドね?」
「……っアホ、ですか……が、ああ……」
「だーって工、そんなんじゃいつまで経っても、鈴花ちゃんモノにできないっしょ?」
ぐっ……確かに俺はまだまだで……!
昨日優勝したって、俺自身には課題がたくさんあって──。
「でも……っ牛島さんを越えられるくらいの俺じゃないと……! 自分の目標も叶えられないヤツが部活もやりたい、彼女も欲しいなんて言えません……!」
「ん、そーいうアホっぽいトコな〜」
「いっ……な、なんでですか! って、うあぁあスミマセン先輩に生意気な口の利き方を……っ」
「あーそーいうのイイってーの」
天童さんはぱっと笑ってくれて、ほっとしたけども──!
「いやいや解るよ? デキるデキない別にして、彼女とかさ〜? よーっぽど惚れこんでくれる子か、都合いい子しか付き合えないっしょ? どーせ。だーって毎日俺たち汗だく朝も放課後もバレーバレーで、構ったげるヒマなんかナイ、なーい」
「それも、ありますけど……っ」
「でも、鈴花ちゃんそーいうの気にすんの?」
気にしない──応援してくれるだけ。
そうだ、それ、確定なのは充分すぎるくらい、わかる。
「鈴花ちゃんて、工のアホなトコ、どー思ってんのかネ〜」
「……っやっぱ、アホですかあああ」
「アホっしょ、だーって工、若利君とか”俺がエース”とか言ってるケドさ? もしも若利君追い越しちゃったら満足すんの? どーせしねーっしょ?
世界一になったら次は宇宙一とか言っちゃうっしょ?」
「……っとにかく、強くなりたいです!」
「そーなれるよーに応援してくれるってのが彼女っしょ? なのに工ってば、俺が俺が〜て」
鈴花さんは応援してくれる。これからもされたい。俺は──。
「ま、工のキモチもわかっけど〜? 満足できるくれーカッコよくなってから告るのもいーかもだけど? カッコ悪リィとこ見せちっても背中叩いてくれる子のがなんか愛されてる感?」
そうだ、鈴花さんは俺が無様に転んでも、絶対笑ったりしない。
頑張れば頑張ったぶん、いちご味さんで励ましてくれる。
「……っ俺、鈴花さんに今日は電話を……しま……うぁあああかかってきたァア──!!」
「えっ、マジ! マジで!」
天童さんが俺に興味津々で「ハンズフリーにしちゃえ」とかからかってくるけども……!
「はっはい!!」
──工くん、今大丈夫?
「はっ、はい!」
天童さんが思い切り近いですが大丈夫です!

──予選のデータ纏めて送るから、チェックしておいてね。明日のミーティングでコーチがアドバイスするって。
「……っわかりました!」
──おやすみ、ゆっくり休んでね。
「……っ鈴花さんも……!」
電話越しでも、ゆっくり声聞いたのちょっとぶりな気がする。──
予選が始まってから、挨拶と、用事くらいでしか話してなかったもんな。
いや、今も用事だけども……でも!
「あの! 鈴花さんにお休みって言ってもらえて嬉しいです!」
う、天童さんが横でにんまりしてる──!?
「ねーねー鈴花ちゃんさ〜俺んトコにも送ってくれんの?」
──あ……っ天童くん!? みんなに送るけど……。
ウァアア天童さんが俺のスマホにグイグイくる〜!
「でもさ、でもさ、電話したのは工だけカナ〜なんでかナ〜?」
──そうか、俺にだけ……! 
「どうしてですか鈴花さん!」
──……っあのね、あの……おやすみって言いたかっただけ。
「俺にだけ……俺に……ッシァアアアアア!!」
「あーハラタツ!! 鈴花ちゃん、俺にもオヤスミプリーズ!」
──ん、おやすみね。
「イエーイ俺もおやすみイタダキ〜」
「……っ天童さんああ!」
電話の向こうで、鈴花さんがちょこっと笑ってた、優しい笑顔がオートで浮かぶ。──
電話切ったら、俺にも、天童さんにも、ロビーにやってきた大平さんにも、みんなそれぞれにデータが送られてきた。
「ウァ〜毎回毎回テスト発表みてーな気分な〜これ〜」
そう、予選での個人プレイデータ、いざ、ずらっと見ると自分の穴が浮き彫りになってしまう──。
「う……っ自分で思うより、サーブの成功率が……」
「獅音は八割いっちゃってる?」
「ああ、けど監督にも指摘されたみたいにもっと狙っていかないと」
「ゲッ! 俺のRM率ヤバッ! いざデータにすっと、暴かれるわな〜」
そこに牛島さんや瀬見さんもスマホ持って集まりだして、ミーティング状態になった。
消灯時間までそうしてしまって、みんなで慌てて部屋に戻った。
「……バレーのことしか考えてないな、ほんと……」
天井に向かってそう呟いたら、”頑張って”って言ってくれる鈴花さんの笑顔が浮かぶ。

宇宙一になりたい”バレーバカ”って俺だけじゃない、みんなそうだ。
鈴花さんはみんなにいちご味さんくれる。
でも、弁当作ってきてくれるのは俺にだけ──。
全員分の個別データ作って、皆を応援する鈴花さん。
なのに、おやすみ電話をくれたのは他の誰でもなくて、俺。
いつも励ましてくれる。
天童さんの言葉、思い出した。──

宇宙一になれるように応援してくれるってのが彼女っしょ? なのに工ってば、俺が俺が〜て。

「あ……そっか、だよな……」

失敗しても、いつも励ましてくれる鈴花さんのこと、俺は好きになったんだ。
──明日、全部言う、もう決めた。


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