夢 意外と大変──工 上の続き 先輩達が脅かし役スタンバって、俺達一年も順番に繰り出した肝試し。── 俺は鈴花さんと一緒だ。 合宿所の周囲は暗いけど、まだ消灯前だから他の部活が寝泊りしてる部屋の電気がついてて、 落ち着いてみたら、思ったより怖くないかもだ。── 「工くん。ありがとう」 「……っ?」 「いつもね、慕ってくれて……とか思っちゃうんだ、ありがとう」 「ハイ! 慕ってます!!」 鈴花さんが隣に居ると、やっぱり落ち着けない。── 「ゴールでジュース取ってくればいいんですよね!」 「うん、その後私はクーラーボックス片付けてから……」 「俺が運びます!」 「……ん、素直に甘えることにするね……あの、嬉しかったから……」 「え……」 さらり──夜の新緑が揺れて、鈴花さんが微笑んだ。 「工くんが、”おとも”したいって言ってくれて」 俺はくあっと──両手を握り締めた。 「なっ!?」 がさがさっと、茂みの向こうから音がした。 「……っもしかして先輩達オバケさんが……っ!?」 「……? あれ、誰も居ない、ぽいね……」 「もし居たとしても……! 鈴花さんはァアアア俺が守ります!!」 ホントは鈴花さんとゆっくり歩きたい──。 けど、そうも行かないぽい肝試し大会──俺は鈴花さんを守りきるぞァアー!! 歩く度に、たまに聞えるのは先を歩いてる一年仲間の叫び声。── う、先輩たち、どんな恐怖を与えて──!? 「……っ鈴花さんまだ足、痛いですよね!」 「ん、ちょっとだけ……でも、大丈夫だよ」 「正直に言ってください俺には! いつも!」 「ん、無理はしないから大丈夫」 風にさざめく新緑が月の光浴びて、なんかきれいだ。── その中心で、鈴花さんが笑ってくれたらそれだけで、俺は── 「アバァアアアアア〜!!」 な……っ! なんか出た!! 「うぁあああああー!! て、天童さんっ!!」 天童さんが茂みの向こうから跳び出てきたァアー!! 「ゲスモンスターが邪魔してやるでゲス! そこのウマそうな鈴花ちゃんは俺がもらうでゲス〜!」 「な……っ鈴花さんを食べるつもりですかアアアさせません!!」 「鈴花ちゃんをコッチによこすでゲス〜今晩の生贄にしてやるでゲスヨ〜」 ……っ鈴花さんが俺の手をきゅっと握った。 俺が守ります……! 「ここから先には行かせないでゲス〜通せんぼブロックゥ〜ウ」 「んな……っ針の穴を通すストレートダッシュで切り抜けます! 鈴花さんついてきてください!」 「う、うん……っ」 でも、鈴花さんはまだ足が痛むだろうし、やっぱり俺が抱き上……げようとした時だった。 天童さんの顔になにかがびたっと命中したのは──。 「ウァアアアアしかけてたペッタン粘土が顔に当たったァアアア」 「……っこんな仕掛けがあったんですね!?」 「天童くん大丈夫!?」 「ゲスモンスターさんだいじょうぶですか!」 「通るでゲス……パタ……ッ」 「ゲスモンスターさぁあああん!」 天童さんが死んでしまった……! どうしたら……!? 「……っ工くん、ま、また誰か……」 「……っ!?」 鈴花さんとおそるおそる振り向いたら、そこに真っ白い── 「ウァアアアアシーツオバケデタァアアア! え!? アッ! ゲスモンスターさんを手厚く回収してあげている!?」 「誰だろ……」 鈴花さんが呟いた瞬間だった。 「ウァアアア走って追いかけてくる! 鈴花さん抱っこ失礼します!」 「工く……っ大丈夫だか……っ」 「足が痛むだろうしダッシュはさせられませんー!!」 走って、どうにか撒けたか!? もうシーツオバケも追いかけてきてない。── 「ハァ……ッハァ……っ」 「工くん、あの、下ろして大丈夫だから……っ」 「俺はこのままがいいです!!」 ……っつい本音が……!! 「ゆっくり歩くから……できるだけ」 俺はこのまま、鈴花さんを抱っこしたままがいいけども──!! 「っじゃあ、またオバケさんに突撃されたら、抱っこ失礼します!!」 鈴花さん、ちょこっと笑った──のか? 「ありがとう。抱っこって言い方、かわいいなって……」 「そ……そうですか!?」 嬉しい──けども! やっぱりカッコイイ! って言われたいとかわがままですか。── 「あ、あの……ッ! シーツオバケさん怖かったですね!」 「ん。でも、ある意味一発目がラスボスクラスの怖さだったかも……”生贄にしてやるでげす”とか……」 「鈴花さんを生贄になんてさせません! 俺が! 俺、が……うぁあ牛島さん──!?」 突然現れた牛島さんが立ちはだかってる……仁王立ちだ! 「ぐぬ……通してください!」 「ああ、通れ」 「いいの!?」 「……っ!!」 鈴花さんのこんなツッコミ、初めて聞いてしまった──! 新鮮です!! 「ところで驚いたか」 「さすがの迫力でした! でも負けません!」 「そうか。気をつけて行け」 「ハイ!」 よし! 順調に進んでいける──。 「鈴花さん足が痛かったら、いつでも抱っこしますから!」 「……ん、ありがとう、大丈夫だよ」 「あっ……あのォ! じゃあ、せめて……あの、何かあってもいいように、手を……っ」 鈴花さんが── 「はい」 ──すんなり、にこやかに差し出してくれた手を俺は握った。 「アッ! こっちの手って、足痛めた時にあの……っ体を庇ってがつんと突いちゃった方の手じゃ……っ」 「手じゃなくて手首を突いたし、もうそんな痛くないから平気だよ」 「で、でも心配なので逆の手を失礼します!」 「ん」 忙しい俺に笑顔で頷いてくれる鈴花さん……くっ! 癒されるー!! 「じゃ、じゃあ、行きます……!」 「ん、半分は回ったかな」 「そうですね!」 こうして手を繋いだり──俺って果報者ってやつなのか──。 俺の気持ちはもう、鈴花さんだって充分知ってる筈だ。 鈴花さんは──? そう改めて考えたら、鈴花さんが俺に言ってくれたことが、浮かぶ──。 ──最近、工くんのことを考える時間が増えたから。 今はもっと──。 そう言ってくれた鈴花さん。 俺が抱き締めてしまった後も、謝ったりしないでって言ってくれた。── 鈴花さんも俺のことを──そう思ってしまう。 それがもし、レンアイってやつじゃないとしたって、部活の後輩っていうのよりは、もっとずっと、特別に──。 「手を繋いでやがるとは不届きものがぁあ〜」 ──! その声は瀬見さん! 目の前には、ビニール袋ゾンビ……! 「繋いだ手を離したらここを通してやろうか」 その声は山形さん! 「……っ最初の方で聞こえたガサガサって、ビニールの音だったんだ……」 「そ、そういえば……!」 鈴花さんはビニール袋ゾンビさんていうか、瀬見さんと山形さんをちょっと心配そうにしてて。 「あの、二人共……さっきのシーツさんには言う暇なかったけど、視界が悪いと思うから、転んだりしないように、気をつけて……」 あっ、二人ともビニール取った! 素顔公開です! 「っかーこんな時までお前は〜!」 「船津に免じて通してやるかー」 「ちゃんとお前が引いてけよ、手」 「ハイ! 俺が守ります!」 「じゃ、戻ってっからな〜」 「はい!」 先輩達はビニール袋ひらってかざして行った。── 「……っ鈴花さんはあんまり驚かなかったですか?」 「ちょこっとびっくりしたかな」 「引き続き俺が手を引いていきますから!」 「……ん、ありがとう」 肝試しは怖くてドキドキすると思ったけど、鈴花さんと一緒だと違う意味でドキる──。 いつものことだろ落ち着け工! 「工くん、あのね……いつもありがとう」 「……っハイ! えっ、でも、お礼をされるような……」 「嬉しいんだ、いつも……私。工くんと居ると楽しいなって……。今だってこうして手を引いてくれて、守りますって言ってくれて」 ──当然ですから! 俺はそう言う筈だったのに、この瞬間、言葉が出ない。 ふいにしんとして、俺を見上げる鈴花さんの表情があんまり優しくて。 「工くんが私でもいいんだったら、私……」 夜の新緑、小さな外灯、そんな中に俺と鈴花さん二人きり。 鈴花さん、続き、ゆっくりでいいから、俺は聞きた── 「え!?」 ふいに、誰かに手を掴まれた。 「あっ……」 鈴花さんがびっくりしてる。 そっと自分の手、見てみたらやっぱり後ろから誰かに掴まれて── 「ッウァアアアアアア〜!!」 「お前、驚きすぎ」 「ビックリしましたァアー!!」 ハァ……ッしんとしたところに、鈴花さんしか見えてなかった俺に、再びオバケ役先輩の恐怖が〜!! 「白布君と川西君……びっくりした……」 「うぇーい成功すね」 まだ心臓がどんどん鳴ってる……! 「すみません鈴花さん! 守るって言っておきながらカッコ悪いところを……っ」 「ううん、いざとなったらちゃんと守ってくれそうだもの」 「というか、邪魔してしまいましたか。スルーしようとも思ったんですか脅かさないとペナあるとかで」 「邪魔ところか脅かしどうもです!!」 「お前の邪魔じゃなくて船津先輩の邪魔って意味なんだけど」 「鈴花さんの……つまり鈴花さんが俺と居て嬉しそうに見えたってことですね! シャァアアアア」 む? 白布さんは呆れ気味──!? 川西さんはちょっと笑ってる。 「……っそうだ鈴花さんさっき言いかけたことって……っ」 ──工くんが私でもいいんだったら、私……。 その続き、知りたい。── 「ん、私でもよかったら引き続き、手を引いて欲しいなって」 「もちろんです!!」 「工くんに」 な、なんかそう言った鈴花さんにどきっとさせられた。── 「お前けっこう鈍感だなー」 川西さん何故に!? 「いっ!? そんなことありませんよ!! 確かにさっきは手を掴まれるまで気付きませんでしたが……っ」 「船津先輩も意外と大変かもしれませんね」 白布さん何故に──!? 「俺の鈍感さが鈴花さんを困らせ……ええ!? 鈍感じゃないハズです! 鈴花さんもし何かあったら言ってくださいいつでも!」 「ん」 鈴花さんが頷いてくれたら俺は張り切るだけだ。 「手、手をふたたび失礼します……!」 「ん、お願い」 鈴花さんが楽しそうにしてて、俺も嬉しいです!! 前へ次へ [戻る] |