[携帯モード] [URL送信]


まんざらでもないやつ─4
この日、鈴花はおこっていた。──
「なんでよおおお!!」
「鈴花さんスリーパーホールドはやめて! ゾエさんほんとにスリープしちゃうからおねがい!」
「ぬあ〜!」
その様子を日常のように目にしていた絵馬だったが、影浦がやってきた。
「あ? うるっせえな相変わらずよ」
怪人歯がみがみ・影浦も毎度の如くいらっとした。
「ゾエ〜! またアタリ出ない〜!」
「鈴花さん落ち着いて! 任務終わったら違う味の買いに行こうよまた! ゾエさんも食べたいし、ね!?」
「ふんぬー!!」
「ふ、ふんぬ!? もう、鈴花さん、そんなにゾエさんによじ登ったら危ないから! 嬉しいけど!」
「むうあー!」
駄々っ子鈴花にぽかすかされているゾエ。
その構図はよく見るも、やはり女が好き放題甘えていると見える。
何より、うるさいもので怪人歯がみがみはいらっとするのであった。
「チッ……今日は今日でナンだってんだ!?」
絵馬が溜め息をつきつつ、なりゆきを教えた。
「鈴花さんが楽しみにしてたお気に入りアイスの冬限定ファンタスティック味が期待を裏切ったらしくて……。しかもまた当たり棒がでないとかで大荒れ」
「……ったくよ! くだらねえ! バカが!」
影浦もいい加減めんどくせえと思う。
その視線の先では、
「ゾエエエエ!!」
「うひぁあああ鈴花さん怖い!! 顔がこわくなっちゃってるよどうどう! ゾエさんをぽかぽかやつあたってもいいから、いつもの可愛い鈴花さんに戻って!」
鈴花がぴたりと停止した。
「かわいい? そう思ってんの?」
そわっとしながら見上げるとゾエはにこりとした。
「あたりまえでしょ鈴花さん! ゾエさんにとって鈴花さんは世界一かわいいんだからね!」
鈴花はぱあっと──幼稚園児がおいしいおやつをもらったかの様な顔をした。
「ほんと〜ゾエ、ほんと〜?」
今度はデレデレしながらチラチラとゾエを見上げている。
ゾエの大きなおなかをつんつんしている。
「ほんとほんと、ゾエさんが嘘つくわけないからね!」
「ほんとに〜? 可愛いって言われたことないのに〜ゾエ以外に〜」
「ゾエさんにとってはとっても可愛いの!」
「もう、ゾエ〜ほんとにそー思ってる〜?」
「チッ……しつっけえな。何べん訊いたら気が済むってんだあのアマ。まんざらでもねーツラしやがって」
これはこれでうるさくはないが酷く鬱陶しいと思うばかり。
デレデレの二人を影浦と絵馬が見守っている構図を不思議に思いながら、時枝が通り過ぎていった。
「ゾエさんじゃじゃうま鈴花さんの扱い上手」
あまりのデレぶりを影浦が見てられるかと歯軋りして、絵馬に「行くからよ、こいつをバカどもに渡しとけ」と言おうとした時だった。
「でもね鈴花さん、ゾエさんちょっと不満だよ」
「むう? なんでよ! なんでよゾエエエエ!!」
「だって鈴花さん、ファンタスティック味が楽しみってゾエさんには教えてくれなかったからね……うごふっ!?」
デレから一変、鈴花がゾエのおなかをぽかっとしたのだ。
「もう〜ひどいよ鈴花さん!?」
「……っだって、だって、アタリが出たらゾエにあげたかったんだもん!! ナイショにしてたの!!」
ゾエはそれはもう、うるっときた。
「鈴花さん……っそうだったなんて!」
「最初からゾエさんに買ってあげるっていう選択肢はないんだ」
絵馬がとうとうつっこんだ。
鈴花は口を尖らせている。
「だって……だって……っう、アタリ棒でたら……ゾエにあげれる理由できるもん!!」
絵馬はある意味溜め息をついた
少年だが、この場では父兄の様でもある。
「理由がないとだめとか……ていうか、付き合ってると思ってたんですけど……。あ、ゾエさんやらか腹パンされてる」
もう聞いてないね、とたんたんと零した。
「ゾエにあげたかったのに〜!!」
「ありがとう鈴花さん……っちょっと痛いけど、ありが……っまたゾエさんの体をよじよじするの!? 嬉しいけどあぶないからそっと乗って〜!」
「ていうか、ファンタスティック味まずかったなら、結果はあげなくてもよかったんじゃ……」
「ユズルそこは鈴花さんの気持ちが嬉し……っえ!? なに、肩車? わかったからわかっ、ちゃんとつかまってね!」
影浦がついに歯をがみがみ噛み締め、怒鳴った。
「うるっせーんだよオラァ!!」
「ぎゃー!! ゾエさんの眉間に何かが突き刺さってー!?」
もちろん突き刺さっていない、突き刺さるわけもない。
それはアイスの当たり棒だったのだから。──
北添が大きな手のひらで確認すると確かにそうだった。
「え、カゲこれ……鈴花さんがいつも食べてるアイスのじゃん」
「食ったらアタッたんだっつーんだよ。そこの女が前に当たり棒がどうだので騒いでただろが! これでちったあ大人しくしやがれってんだ!!」
鈴花もさすがに驚き、ゾエはじーんとしていた。
絵馬が影浦をちらり、見上げた。
「カゲさんやっぱ、そういうとこ、あるかも」
「うっせー!!」
「カゲえええいいの!? いいのホントに! あっ、同じ種類のアイスだったら何味と交換してもいいんだね!」
「怪人歯がみがみだけあたってずるい〜!!」
「うっせー!!」
「だって私がゾエにあげたかったのに〜!」
「うっせー! お前ら二人で食ったらいいだろが!」
「カゲありがとうね! 鈴花さんはんぶんこさせてもらおう!」
「ん……怪人歯がみがみ、ありがとう……」
「よしよし、鈴花さんよくお礼を言えました!」
そしてゾエにご機嫌で肩車されている女、船津鈴花。
絵馬はぼそりと呟いた。
「鈴花さんて確か20歳だったような……」
「ゾエ〜怪人歯がみがみにお礼したい〜」
「いらねーよ! 俺ァ交換しに行くのがダリィだけだ!」
「ゾエ〜怪人歯がみがみに一緒にお礼しよ?」
「いらねっつってんろがクラァ!!」
「そうだね! どうしよっか!」
「ァア!? いらねーっつってんだろが!」 
「そうだ! カゲのとこにみんなでゴハン食べに行くとか!」
「くんじゃねー!!」
「ところでファンタスティック味ってどんな味なんだろ」
絵馬がぽつりと呟けば、今度はおんぶをせがむ鈴花がゾエに笑顔で抱きついていたのだった。


前へ次へ
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!