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誕生日プレゼント──牛島 短い マネヒロ
夏真っ盛り──。
夏休み最中には、主将の誕生日だ。
「若利くんにはいつもみんな引っ張ってもらってるし〜なんかプレゼントでもするとか?」
天童が汗拭きつつ言った。
「そーいうのなかったな……そういや」
瀬見もまあ確かに、と頷いた。
男所帯で日々気張っていれば、そんな気付きも息抜きもさほどなかったかと。
「いつもお疲れ〜のイミでさ〜。若利君が何欲しいのかゼンゼンわかんないけど!」
「部員皆で金出し合ってなんか買うか?」
「Tシャツとか?」
「でも若利君、律儀だからお返ししよーとすんじゃん? 皆にお返しとかタイヘン〜」
「じゃノーコストのもんにすっか?」
山形が提案した。
「肩たたき券的な?」
「孫じゃねえだろ」
「しかし、チケットを作る為に紙を買う必要がありますね。結局ノーコストではなくなってしまいます」
「賢二郎細かい!」
「でもォ! 牛島さんは律儀なので! ノーコストのお返しきちゃいそうな気もします!」
工のそれに皆、想像してしまった。
「若利君が俺達みんなの肩を叩いて回んの!? お互い骨折れるし!」
「なんだよその状況」
「鈴花ちゃんは? ノーコストのプレゼントとか何か思いつく?」
「え……そうですね……女の私からだったら、ホッペにチューとか」
鈴花はにこりとそう言った。
「んんァアア!? 鈴花ちゃんしてあげるつもり!? 何そのご褒美!!」
「鈴花さん牛島さんにしてあげる、んですか……っもしかして俺の誕生日にも……っくぁああ」
「牛島さんにいつも引っ張っていってもらってる礼だって話してんだろ、何、便乗しようとしてんの」
「……っだって羨ましいです!!」
工に白布が呆れ気味にしたが、そういや五色も牛島さんと誕生日近かったか、と思う。
鈴花がふわりと苦笑した。
「いえいえもちろん冗談で……それに何より、私ごときのほっぺにチューじゃご褒美どころか返って迷惑ですしね〜あ、牛島さんお疲れ様です」
そう、牛島が主将会議から戻ってきて、鈴花がのへっと挨拶したが、途端に目を剥いた。
「うあ……っ」
「頬になんだ? 褒美だと?」
不機嫌な主将に、腕をぐいっと掴まれてしまい、ふらりとして、どうにか立っていた。
「あ、あの……牛島さん……?」
「どこの誰にするつもりかは知らないが自分を安売りするようなマネはやめろ」
その眼力に呑まれて鈴花はもう何も言えない。
「己如きなど二度と言うな」
「あの、若利く〜ん……」
天童がおいおい、と声を掛けたが、通じはしない。
「若利、おい……っどうしたそんな怒って……っ」
瀬見が案じたが、
「どうしただと? 船津が軽々しいのが気に食わないだけだ」
「顔怖い!」
天童もぎょっとして、工や白布は牛島の迫力にびくりとさせられ通しだ。
牛島が鈴花をぎろりと睨んだ。
「褒美どころか返って迷惑だと? そんな事を思う輩が居るのか? どちらにしろさせはしないがな」
瀬見がぽかーんとした。
「若利、おい……もしかして……ハァ!? そうだったのか!?」
「何がだ」
知っていた獅音は緩やかに笑った。
「いやだから、船津マネに独占欲あったんだなって話」
「だから何だ」
あまりにストレートすぎて、しんとした体育館の一角。──
鈴花は未だ腕をつかまれたまま、そうっと見上げた。
「牛島さんは迷惑じゃないんですか?」
「何がだ」
「えーとですね、誕生日のプレゼントにほっぺにチューしますよなんてふざけたことを言われたら」
「誰にだ」
「私にです」
──若利君があんなぽかんとしてんの初めて見たんだけド!
さすがの天童も今は声に出せず、慌てて自分の口元を押さえ込んだ。
牛島は鈴花を見据えるも、見据えきれていないとは、見ている方がどきりとさせられる。──
「……っふざけて言っているのか」
「いえ……嬉しいと思ってもらえるとしたら、喜んでしますけど……牛島さん限定で……」
「なん……だと……?」
ついに。
「アッ! 若利君がショートしかけてる!」
皆が案じる中、鈴花がそうっと、そうっと、腕を掴む牛島のその手をとった。
「あの……他の人にしたいとは思いません……安売りはしません」
「……っならいい」
牛島がばっと目を逸らしたなんてありえるか。──
皆がぎょっとした中、天童が跳ねた。
「ウオァアアア若利君が照れた!? ちょ! 鈴花ちゃんスゴイ!!」
「そんな……本音を言っただけで……」
「若利、もうプレゼントもらったんじゃないか」
獅音がにこやかに言ったなら、
「そうだな」
牛島が穏やかさ滲ませた。
川西がちらりと鈴花を見やれば大切なことを噛み締めるように微笑んでいたので、ああ、よかったですねと。


誕生日──
「鈴花ちゃん、練習終わったら。若利君にチュー〜」
「どうしましょう。いいんでしょうか……」
「いや、プレゼントは要らない」
「そうですか……」
「誕生日のプレゼントだと言うのならば年に一度しかしないということだろう。それは不満だ。──それに、その前に伝えるべき言葉があるからな」
「……私も、あります」
一緒に帰っていったなんて、やっぱりよかったですねと。


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