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今夜、お願い──工 上の続き
マッサージしてストレッチして、ふあっとあくびした頃にはばったり布団に入ったその夜。
鈴花さんの膝枕、この枕よりぜんぜんあったかくて、柔らかかった。──
「うが……っ眠れなくなるぅあー!!」
布団の中で興奮してる場合じゃないだろ! 何やってんだ鈴花さんを穢すつもりか!
「ぐう……っ寝るぞ!」
がっと布団をかぶってもなんか妙に眠れない。
起きたら朝練だ、バレーができる、鈴花さんに会える。
そう思ってる間にすっかり寝てたみたいだ。──


そうだ、いつものお礼、いちご味さんのお礼、耳だけじゃない、心配したり、優しくしてもらえてるお礼──。
そうは思ってもわからない……!
マメに女のひとにあれこれしたことなんかない。
……っこれは工、ピンチか!?
天童さんあたりに相談したら、さらっとアドバイスをくれそうな気もするけど、思いっきり弄られそうな気もするな、うん!
天童さんスミマセン!
朝練じゃ鈴花さんの顔を見れたけど、今朝はそんな話す機会がなかった。
飴のお礼を言ったくらいだったしな!
レシーブ練じゃ山形さんにアドバイスをもらえていい感触をつかめた。──

「おい、五色」
「お」
休み時間、教室でクラスメイトが話しかけてきた。
っていうか、あれは──
「……っ鈴花さん!」
椅子をひっくり返す勢いで席を立ってしまった──!
「あの人が、お前居るかって」
「ウオオありがとうー!!」
「お、おう」
何故か鈴花さんが俺のクラスに──!
制服姿、ちゃんと見たの初めてです!
ついこの間は私服も見れたし、俺はツイている……!
「鈴花さん……っどうしたんですか!?」
「ん、っもうすぐ合宿あるでしょ? 一年の子たちは初めての合宿だし、忘れ物とかないように……このプリントに目を通しておいて欲しいんだ。それとスケジュールにも」
「なるほど! 了解です!」
「って言っても、殆どの子が経験者だから合宿自体に慣れてるとは思うけど……」
「そうですね! でもしっかり目を……あっ! 試合も入ってますね気合いも入ります!」
「ん」
って微笑んでくれた鈴花さん、制服姿ちゃんと見れて嬉しいです!
「それじゃあ放課後またね」
「……ッハイ! あっ! そこまで送ります!」
「えっ……大丈夫だから……」
ゲーン!
引かれてしまったのか──!
なのに、鈴花さんに笑顔が戻った。──
「工くん、そんな、愕然としなくても……って思っちゃって、ごめんね」
「いっ、いえっ! あっ、でも確かにガクっとしてしまいました!」
「……じゃあ、そこまで一緒に、とか……他のクラスの子にも配らないとだし」
「……っならお供しますよ! 俺が!」
──ッシ! 張り切ってお供するぞ!
「五色うるせー!」
「なっ……わ、悪い!」
クラスメイトにつっこまれたと思ったら、そわそわっとして見てる奴も居る。──
フッ……これはきっと、鈴花さんが俺のコトを好きで会いに来たとか、思っちゃってるのかもな!
「行きましょう鈴花さん!」
「うん」
頷いてくれた鈴花さん、ふふって笑ってる。
なんか嬉しそうとか勘違いか!?
でも俺は──
一年のみんなが廊下歩いてる中を、鈴花さん引き連れて歩いてる、そんな優越感。
ハッ!? いや待て! 優越感とかなんかカッコ悪いか!?
でも、自慢したい。
見せ付けたいくらいだ、大好きな鈴花さんとこうして歩いてるとこを。──
「あ……っ五色と船津先輩!?」
お、一年仲間早速発見──!
「鈴花さんが合宿のスケジュールとかもってきてくれたぞ!」
「お、どもっす……っ今のうちに配ってるんすね。同じクラスの部員には渡しておきます」
「ん、できるだけ早くと思って……お願いします」
「はい……つうか、五色なんで一緒だよ」
「……っ俺は鈴花さんのお供だ!」
「声デケーよ!」
「ぐぁ……っでも、ついい!」
「つうかお前、膝枕がどうとか先輩達が言ってんの聞いたぞ! スタメン候補だからってチョーシ乗ってんじゃねええ」
「うが……っスタメン候補じゃなくったって、鈴花さんは優しいぞ!」
「そりゃそうだけどよ! 飴っこもくれるしな!」
「みんな、大切な仲間だと思ってるよ」
はっと──させられて、しんとしたら、そこにほんわか鈴花さん。
ガキみたいな言い合いも、すとんと、おさまってしまった。
「……っどもす」
その一年仲間は鈴花さんにぺこっとして、同じクラスの部員にプリントを配りに行った。
俺は引き続き、鈴花さんのお供をして、時間はあっという間で。──
「じゃあ工くん、放課後また……」
「……っハイ……! アッ! 鈴花さんあの……っ!」
みんなに優しい鈴花さん。
けど、いちご味さんに何か返したいと思うのは、俺だけでいい。──
「何か、欲しいものとか、ありますか……っ!」
「え……欲しいものって……あっ、授業が……っ」
「ウァアアすみません引き止めちゃってスミマセン! いつもいちご味さんくれるので、お礼をしたいです!……っあの、考えておいてくれたら嬉しいです!」
鈴花さんはちょこっと戸惑ったような顔、してた!?
ゥウ、返って迷惑とか──でも、きっと、遠慮したって、迷惑だとは思わないんだろう、鈴花さんは。
そんな鈴花さんに喜んで欲しいです!!



放課後の練習が終わって、充実感上々──!
合宿での試合に向けて、できあがってきてるカンジだ。
「む? 鈴花さん……っ俺も持ちますよ!」
「……っ工くん、大丈夫だよ、私の仕事だし……」
「いえ! モップももう終わったので!」
クーラーボックスにドリンクケースに空だけどボトルもたくさん。
「……っぐ! 二つ持ちます!」
「でも工くん、重くな……」
「まるで平気ですよ! 男ですから! このくらい運んでみせますよ──!」
「ありがとう……っ疲れてるのに……っ」
「鈴花さんは遠慮しちゃダメです! あっ、水飲み場で氷溶かして、ボトル洗うんですよね!」
「……ん、運んでくれるだけで充分だよ。工くん、優しいな」
「そ、そうですかっ!?」
「ソコは鈴花ちゃん、優しいより、カッコイイ〜のが工、喜ぶっしょ〜」
「……っ天童さん!」
「男らし〜とか、頼りになる、とかネ」
わかってらっしゃるゥー!!
でも!
「でも、優しいってのも……あの! 物凄く! 嬉しい! です!」
「……っうん」
「ブッ! 工の勢いよすぎて鈴花ちゃんビックリしちゃってんじゃん」
「んがっ……スミマセン鈴花さん!」
「……っううん、でも、工くんも、天童くんもみんな……白鳥沢の男子バレー部員はみんな、男らしくて頼りになると思う」
──もちろん、みんなかっこいいよ。
俺は──鈴花さんに、俺だけ見てて欲しい。
なのに、ガチで心からそう言える鈴花さん、俺の好きになった人。──
いつも俺はカッコイイとこを見て欲しくて張り切る。
けど、最近たまに、こう、静かに──また好きになる感覚がある。
鈴花さんにそっと触りたくなるような、そんな感覚。
「工フリーズ?」
「っウワァ! イエッ!」
天童さんに顔覗き込まれてびっくったぁあ!
「ゴメンネ工、俺もカッコイイ言われちゃった〜」
「う……っ事実ですから!」
「お、かぁーあいーいねお前〜鈴花ちゃんもアリガトー」
「ううん」
天童さんはひらっと手を振って、先に部室に行ったみたいだ。
俺と鈴花さんは水飲み場に来た。
──そうだ、今、二人きりだ──!!
「鈴花さんっ! あのォ……! 欲しいもの、決まりましたかっ!」
ボトルをゆすぎながら、鈴花さんが──俺を見上げた。
「工くん、お礼にって言ってくれたけど……私、何も要らないよ」
「そ、そんなァ……!」
「うぁ……っあ、そんな、がっかりしないで……! 気持ちだけで嬉しくって……ほんとに充分だよ」
俺はどっかでわかってたのかもしれない。
鈴花さんならきっとこう言うって。──
でも、鈴花さんにとっての特別になりたいから、引けない。
「でも、何かさせてください……っ! お願いします!」
「……っ何か、欲しいもの、かあ……物じゃなくってもいいの? して欲しいこととか」
「……ッハイ! 俺にできることなら!」
なんだろう、鈴花さんは何をして欲しいんだろう。
──工くん、あのね、キス、してくれたら嬉しい……だめ……?
そんなことあるかぁあああ!!
何を考えてんだ俺はァ!
「それじゃあ、あの……今夜に、お願いしたいんだけど……」
──な。
「今夜って……あの、鈴花さ……っ!? あっ、そ、な、なあっ、いきなっ、」
なんてことだァアアこれはキスどころじゃない──!?
待て! 待て! 落ち着け……るがぁああ!
「工く……っあの、ごめん、忙しいならいいから……っメールして欲しいな、って……」
あ──。
「めーる……ですか?」
「……っうん、寝る前のおやすみメール。してくれたら、嬉しいなあって」
「……っそんなことなら毎晩でもしますよ俺は! かっこよく送信してみせます!!」
鈴花さんは、からっと笑った。
あんまり見たことがなくって新鮮だ──。
「……っん、今晩だけ、お願いきいてくれたら嬉しいな……わがまま言ってごめん」
「イエ……ッ全く全くです!」
──うがぁあ全く全くってつい二回言ってしまったァア!
「寝る前にします! むしろさせてください! こんなんでお礼になるんですかっ!?」
「ん。充分だよ」
ほわっとさせる笑顔が好きです──。
よ……ッシ! しっかりおやすみメール、送るぞォ!!


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