[携帯モード] [URL送信]


デート初心者──工 上の続き
青春しろって言われてしまった、鈴花さんのお兄さんに!
──青春ってまずはなにをすればいいんでしょうか!
思わずそう聞いてしまった。
鈴花さんが一瞬ぽかんとして、けど、ふふって笑った。
笑い顔が優しくって、やっぱなごむ、鈴花さん。──
「どうしよっか」
そう言って、はにかむとか、どきっとするのでどうしたら──!?
「あの……っ鈴花さん、これから用事とか……っ」
「ん、ないよ。──けど、本当に、あの、いいのかなって……工くん、貴重な午後オフなのにうちのお兄ちゃん、
遊び行けとか勝手に言っちゃうし」
「勝手なんかじゃありませんよ! むしろ光栄です!」
「そんな、工くん、光栄だなんて……」
「そのまんまの気持ちです! 鈴花さんさえよかったら……っ俺に……っ」
男らしく誘え! 工──!
「俺についてきてください!」
見上げる鈴花さんが、ふわって笑った。──
「……っん」
ゆっくり頷いてくれた鈴花さんは私服着てても、部活中じゃなくてもやっぱり、俺が好きになった鈴花さん。──
ヤバイ、嬉しい──なんてもんじゃない。
けど、鈴花さんをどこまで連れてったら!?
くそ! 勢いばっかで歩き始めてしまったけど──。
「あの……っ」
──けど、隣を見たら、鈴花さん、ゆっくりついてきてくれてる。
いつも通り、ふわってなごむ──。
だから俺は鈴花さんを好きになったんだろって解る。
俺を否定せずに頑張れって言ってくれる。
俺の気合いが明後日の方向に行っちゃうことがあっても、ゆっくり、焦りを取り除いてくれる。
そんな鈴花さんを──。
「なんか、まだ恥ずかしいな、お兄ちゃんも友達もいろいろ言っちゃってたし……」
「……っ俺は鈴花さんについてのレア情報を聞けて嬉しかったです!」
「えっ……私が、家で、どうしてる、とか……っ?」
「なんでも鈴花さんのことを聞けたら嬉しいです!」
あっ! 鈴花さんがちらっと目を逸らしたァア!
「あ、の……っなんか、照れるっていうか……」
なっ! 目を逸らしたのは照れたからなんですね!
「工くん、いつも直球だから……なんか、いいのかなって思っちゃうくらい……」
「いっ! 何がですかっ!?」
む? 鈴花さんがちょっと俯いた──!
「あの……っ鈴花さん……っもしかして、俺が困らせて……っ」
「……っ違うから!」
その声にどっきりしてしまった。
「違うの……っ」
「な、あっ、な、泣きそーになってませんか!? 鈴花さ……っやっぱり俺が困らせ……っ」
「嬉しい、の」
一瞬しんとした。──とっくに立ち止まってしまってる今、小っちゃい声でもちゃんと届いた。
「工くんが、いつも……好意的に接してくれるから……嬉しいの」
鈴花さんは泣きそうになってたんじゃない、ただ必死に気持ち、伝えてくれたんだってわかった。
今、恥ずかしそうにもじっとして、俺を見上げてる。
いっつも、俺を見ててくださいとか、カッコイイって言われたいとか、そんなのばっかだ、俺は。
けど、今、鈴花さんに触りたいって思った。──
「……可愛い、です。鈴花さん」
ぽろっと、そう言葉になった。
「……っ工くん、あの……っそんな」
「照れてるカンジが可愛いんです! 鈴花さんはいつも優しく見守ってくれますけど!
照れてるところも可愛いです! それからァア! 嬉しいって言ってくれてあざす!!」
よし! しっかり言えた──!
今日はこれから、鈴花さんと青春てやつをするぞォ!
「鈴花さん……っどっか行きたいところとかありますか!」
「あっ……私はあの、こういうの慣れてな……ってごめんね、別にデートってわけじゃないのに……緊張しちゃって」
なんと!
「緊張しなくてもこの俺についてくれば大丈夫ですから! それにあの……っ俺は──! 俺は勝手に
デートだと思ってます!!」
ヤバイ、調子に乗りすぎたか──!?
でも、鈴花さん、微笑んでくれた。──
「じゃあ私も……そう思って、工くんについてくね」
「ッハイ! お願いします!」
よし、よしよし!
俺は今、鈴花さんとデートをしている。──まさかの展開ありがとうございます!
くぅ……! 今日の偶然と鈴花さんのお兄さんに感謝──!  
「じゃあ……っと、とりあえず歩きます!!」
クソ……ッ! カッコつけたいのに締まらない! とりあえず歩くってなんなんだ工!?
おまえはやればできるヤツだろ! 
映画とか、カフェとか……後はなんだ!? 買い物とかか!?
鈴花さんに絶対、喜んでもらわねば──!
「あの、工くん……さっき嬉しかったよ」
「ッハイ!? あ、あの、ズミマセ……ッどこに行こうかとか、いっぱいいっぱいで……っ」
うぁあああ何言っちゃってんだ俺のばか! かっこつけろ──!
でも、鈴花さんは──
「あの、かわいいって言ってくれて……嬉しかった」
いつも見てるなごむ笑顔が照れながらそう伝えてくれた。
「私もどこに行ったらいいかとか、初心者すぎてわかんないから……お散歩、する? もう少し行くと、公園とかあるし……」
遠慮がちに促してくれた。
お互い初心者でも、やっぱ鈴花さん、さすが年上──違う、優しいんだ、いつも通りに。
「ハイ! 公園目指して行きましょう! アッ! 歩くの、俺、速……っ」
「ん、大丈夫だよ、ありがとう」
ゆっくりなごませてくれる。
そんな鈴花さんにいつか、ちゃんと告白したいです!


ゆっくり歩け、できるだけゆっくり──鈴花さんの歩調に合わせて。
ゆっくり、話しながら。
「あの……っ鈴花さんのお兄さんに会えて嬉しかったです! ビックリしましたけど……っ」
「ふふ……っナンパしたと思ったなんてびっくりしちゃった」
う──! やっぱ恥ずかしい!
「とんでもないカンチガイしたのに、怒らなくって、いいお兄さんでしたァア!」
「でも、お兄ちゃんてばあんなに工くんの勘違いを笑っちゃって……もう、ごめんね、工くん」
「いいんです俺が突っ走ってしまったので! 鈴花さんがナンパされるとか、絶対イヤだったので!」
「そんなに……?」
な、なんかドキっとする、鈴花さんの表情に──!
「ハイ! そんなにです!」
鈴花さんがかっさわれるなんて、絶対にごめんだ。──
「もしホントにナンパされても断固阻止しますから俺は!」
う──ヤバイ、俺、勝手なこと言ってるのか──?
でも、鈴花さんは、
「万が一されても、ついてったりしないよ。──」
そう言って微笑んだ。
「それに、工くんが阻止してくれるって言うし」
「ハイ! させてください!」
おぁっと、つい張り切って歩くスピードが速くなってしまった!
ちゃんと鈴花さんの歩調に合わせてゆっくり──ゆっくり行け、俺!
「そうだ、工くん、とこやさん行ってきたんだよね」
「あっ、ハイ! そうです! きめきめのきめきめにしてもらってきました!」
「うん、更にかっこよくなってるよ」
うぉおお! ッシャァアアア!!
「ありがとうございます!」
「工くん、とこやさん行くんだって張り切ってたから、実はちょっと楽しみだったんだ。明日見れるの──でも
今日、会えちゃったよ」
そうだ、今日のこの偶然──きめきめにしたての俺を褒めてもらえた。
「楽しみだったんですね! なんか嬉しいです! 褒めてもらいたかったので!」
「……っ私に?」
「そ、そうです! ハイ!」
ヤバイ、また歩くスピードが加速しそうだ落ち着け工──!
「工くんはいつもその髪なのかな、カットしても、髪型自体は変わらないよね」
「そうですね! コレで行きます!」
「似合ってて羨ましいな。──私は、どんな髪型とか、格好しても、工くんみたいに堂々とできないっていうか……
見て欲しいとか、そんな自信がないから……だから、工くんの堂々としてるところ、いいなあって思うよ──」
嬉しいけど──すげえ嬉しいけども──!
「鈴花さんだって自信持っていいと思います! その髪型も今日の服も似合ってますから──!」
あ、鈴花さん、ふわって笑った。
「……ありがとう。今日、工くんについてきてよかった」
そう言ってくれた──。
よし……! 引き続きそう言ってもらえるように……いや、言わせてみせます!
「あっ! 公園見えてきましたね! 鈴花さんはブランコ派ですか! シーソー派ですか!」
「……っん、ブランコ派かな」
楽しそうに笑ってくれてる──ッシャァアア!
「俺のスーパーブランコジャンプ見ててください!」
「でも工く……っ怪我、しないように……っあんまりスーパーなジャンプは……っ」
「見事に着地してみせますよ!」
「……っ万が一、足ぐねったりしたら明日から練習できないでしょ!」
くぁ……! 鈴花さんに怒られてしまった……!
「す、すみませ……調子、乗って……」
あれ? 鈴花さんの顔見たら、怒ってない──!?
「ほんとは見たいけど、過保護でごめんね」
そ、そうか、心配してくれただけで──!
「過保護なんかじゃないです! でも、いちご味さんくれたりとか、微熱なのにあんなに心配してくれたりとか、
サポートしてくれたりとか、いつもありがたいです!」
「大したことはできないけど……そう言ってもらえて嬉しいな」
鈴花さんが──
好きなひとが笑ってくれるだけで、こんなに嬉しいと思うんだなって、俺は今日、改めてわかった気がする。──
よし、公園に着いた。
今日は鈴花さんの笑顔を独占できる。


前へ次へ
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!