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仮にドエス─8
医務室長さんによくよく挨拶をして、さあ、帰ろうってところで。──
「あっ……あの、でも、影浦隊の皆さんはこれからホウレンソウがあるのでは……っ」
「ん、だいじょぶだいじょぶ、それ済ませてからもちろん医務室に行ったからね」
なんか北添さんてほっこりするなあ、ほっこりおにいさんてかんじで。
「それにしてもカゲが……あのカゲが……!」
「あああうるせー! 俺ぁこいつが……っんでもねーよ!」
腕は引き続き掴まれたまんま。──
「感情受信しちゃってもしなくても確かに関係ないねえ〜」
「……っ言ってんじゃねー!」
はっとさせられた。──
「感情受信って……」
「やっぱりカゲのサイドエフェクト知らなかったんだ? そうかそうか〜」
なんか、引き続き、ほろっとして嬉しそうな北添さんにはほっこりだけど、サイドエフェクトの正体って──。
「あ、あの……っだから、あってもなくても関係ないって言ったんですか……っ!?
私、どっちにしろ、た、たぶん丸分かりタイプだと思う、し……っ」
うう! 無言の睨み! 久しぶりにヒィ!
「でも、受信できたら余計、わかっちゃうよね、ぜんぶ」
「なるほど……そ、そうですね絵馬くん! でも私、確かに……」
なんかすっきりして、でも、やっぱり──。
「やましいこととか全然ないからやっぱり関係ないですね! それに、嘘つくのどっちにしろドヘタクソだし……
どっちかっていうと、いつもからかわれたり……うう、顔に出ちゃうからですかねっ!? 嬉しいこととかあると、
一人でぐふふとか笑っちゃったりしてるし……っあっ! 今もめちゃくちゃ嬉しいんです! 伝わってますか
影浦さん! あの……っ伝わってるんですよねこの喜びが……っていうか! あのっ! 好きな、んです、
影浦さんが……っうわあああ何回も言っちゃってすみませんー! 好きなんです! あの……っ」
うわあああもうしっちゃかめっちゃかていうのコレ?
でも言いたい、うわあああとにかく必死でもう……!
「かっ、影浦さん、私の全力好意がサイドエフェクトのおかげで更に超伝わってるんですよね!?
な、なんか、すっごい照れますけど……っあ、でもやっぱ隠し切れません〜! どっちにしろ、能力があっても
なくても関係ないですね! 全力で好きなので!」
はああ……!
すごいよこんなにもっともっと伝えたいって思えるとか凄いよ……!
「あ、の……」
あれ……影浦さん物凄く……!
「ヒィイ! 激おこですかああああ!?」
「おまえ、うるせーな……? ガンガン叫びやがって……」
「うあ、あっ、ご、ごめんなさい〜! 今度は、あ、じゃあ、小声で……とか……」
「ふざけてんのかバカ処女パンツ」
「うわああ久しぶりに聞けて嬉しいとか順調に好きになりすぎてるー!!」
絵馬くんがちょっとほっぺたぽうってなっててカワイイとか思う余裕もない影浦さんの順調な睨み! ヒィ!
「あっ……」
掴まれてた腕、ぐいって。
影浦さんにもっと接近してしまった一瞬。──
「処女じゃなくなる覚悟、できてんだろーが?」
な……もう、あの、もう、ガチ処女、で、今は、でも、
「うあ……あ、あ……」
か、顔が頭がぐぁあああとかヤバイとか言葉が出てこな……っ!
「カゲエエ! 好きな子にムチャしちゃいけないよ〜!」
北添さんに「うっせー!」て返す影浦さんの声も頭の中でぐるんぐるんするし──!
「あ、の、もう……」
「ああ?」
文句あんのかって睨まれて、もう──。
「どうにでも、してください……」
あああこんな言葉しか出てこないとかああ!
もう、倒れそうになって影浦さんの肩に一瞬、すこんて寄りかかっちゃって、怒られる!? って思って慌てて離れようとしても、
強引に引き寄せられてくだけ──。その強引さ、好きに決まってる好きなひと。
真夜中、二人きりの帰り道はただ、ゆっくり歩いてた。──
影浦さんと二人きりで。



「結局点滴しかしてねーんだろが」
お月さまの下でそう訊かれた帰り道。──
たまに車とか通る音が聞こえるくらいの道。
「そうですね……でも、帰ったら少しは食べて寝ます。栄養とらないとですし……っああっ! でも、
寝る前に食べて太っちゃったら影浦さんに嫌われちゃうかもですね!?」
「ああ!? うっせー肥えたら笑ってやるよバーカ」
「ただでさえスタイルよくないのでこれ以上太らないよーに気をつけますってば〜!!」
うう、胸ぽわんっ! お腹きゅううっ! おしりバァァアン! とかなりたい……。
でも、影浦さんて口悪いのに、やっぱ、直情的? なとことか、なんか好きだなあって──。
「今晩一日くれーでいきなり肥えるかっつーんだよ、メシ食って寝ろバカ」
そう、口は悪くてもそんな心とか、伝わるから好き。──
「た、たべます……」
「で? どっちだテメー」
「ええっ……ええと、こちらを右に……っでも、あの、部屋の前まで送ってくれなくても……っ
影浦さんも疲れましたよね! わたしなんかただ点滴して栄養補充して寝てただけですからっ!」
「だから? んだよ」
「ええと……ですから……っ」
「送りもしねーで帰れってか、ざけんな」
ふいっと顔を逸らして歩き出しちゃう、そんなぶっきっらぼうな人。
なのに──。
「……っ好きです」
「あ? さっきも言ったろが」
「二人きりになったらまた言いたくなっちゃったので……」
「勝手に言ってろ」
そんなふうなのに、私の肩をぐいって押しちゃうのに、それはさりげに歩道側に押しやる行為だなんて。
「……っはい」
二人きりの真夜中、やっぱり好きになっちゃったなあって思う帰り道だった。


影浦さん──初めての彼氏──になるのかな。
あ、でも、付き合うとか、言ってないし──でも、惚れたって言ってくれたのは間違いなくって。
「ふぁ、ああ……」
ああ〜ヘンな声出ちゃう、昨夜は送ってもらっちゃったし。
私の部屋の前でつっけんどんに背中見せただけの影浦さん。
けど、けど、
──ちゃんとメシ食って寝ろ。
って言ってくれた人。──
「きゃぁあ今日もはりきるわよメディア対策室〜! ハッ!」
そう、気合い入れてはっとしちゃった!
影浦さんが……っ影浦さんのお姿が……っ!
きゃぁああわんこみたいに駆け寄っちゃうよぉお〜!
「アッ!」
でもちょっと待って、ここでいきなりがっつきを見せたりとかして、怒られたくない〜!
「か、か、か、影浦さん、おつです……っ」
どうにか落ち着いて〜!
昨日、惚れたって言ってもらえて、送ってもらって、チョーシ乗ってんなバカ処女パンツってまた言われちゃわないように〜!
「今、基地にきたところですか……っかっ」
「あ? んでカニ歩きしながら近づいてくんだテメーは新手のネイバーか?」
ぐぁああバカ処女パンツどころかそんなお言葉!!
「……っ違いますよ! ピュアな地球人女子ですからあ!」
「おい、コーヒー買ってこい」
な──突然の──。
「パシリですか今度は〜!」
ううう惚れたって言ってくれたのに〜!
昨日はもう、膝枕も許してくれるくらい、ぶっきらぼうな優しさ、見せてくれたのに〜!
「俺に絡みにきたってこたァ、お前時間あんだろーが? 買ってこい」
「た、しかに、今は少し、余裕ありますけど……あっ!」
影浦さんがじゃらっとお金渡してくれてっていうか、テーブルに放ったそれで。
「早く行ってこいバカ」
「なっ……でも、あの、多くないですか……コーヒーひとつ買うには……」
「おまえも好きなモン買ってこい」
な、なんと……!
「影浦さんお優しい……!」
「ァア?」
や、ば、そこでドエススイッチオン、しちゃい、ました──!?
「餌でもねえとパシリも満足にできそうにねえなあオマエー」
「ぐぬう! そういうことかー! もう! 行ってきますよどうせ言うこと聞いちゃうんですよ私はあ!」
あーもう、さんざんしてやられてるっていうか、下僕? 
でも、影浦さんの優しいとこ、知っちゃってる今じゃ──。
「あ、ところでお砂糖どうすんだろ……うーん無難にびとう? 私は甘いので……げへへ太っちゃうかなあ!」
自販機の前でによによしちゃう。
うっ! キモイかな!
でも早く影浦さんに届けて、一緒にいただこう、このコーヒーさん。──
「影浦さん……っどうぞ……っ! 買ってきました!」
「おう」
うーん順調にパシリ? 手懐けられてる?
「座れ」
「あ……っはい」
隣に座っていいとか、嬉しい──たったそれだけで。
「あ、の、いただきます……私も」
影浦さんは知るかって感じなのに、この甘いコーヒーは影浦さんが買ってくれたもの。
なんか、嬉しいな。──
「オイ、んだこりゃあ。苦げえんだよそっちよこせ」
「えっ! ご、めんなさい、もう口つけちゃいましたけど……微糖でも苦かったですかっ」
「うるせーんだよお前」
うう……! 惚れた言ってくれてもやっぱ甘くないー!
「じゃあ私は影浦さんのびとうをいただきますね……」
「ア? 二つとも俺んだろーが」
がーん!
「そ、そんなあ……」
あれ、ニヤリ……?
「引っかかってんじゃねーよ黙って飲め」
「あっ! ありがとうございます! では、いただきま……って、ああづ! あつあつ! まだあつい!
ちゃんとふーってしないと……っ」
「うっせーな、猫舌気取ってんじゃねーぞ」
「ニャー! そんなんじゃ……っえ……」
ふいに、一瞬で、距離、近い──。
影浦さん……?
顎、くいってされた、間近で、顔を見てしまって、どきん。
「あ……近……」
うそ。うそ──こんな一瞬で。
ぎゅうっと目を瞑って、そっと開いた。
今の、今の感覚って、唇に──あんまり、突然すぎて。
「あ……影浦さ……」
「うるせーから黙らせただけだろーがどうかしたか?」
「な……あ……も、もう、何も言えな……」
こ、こんな突然に……うそぉおおおお!?
く、唇、奪われ……ったなんて……!
「あ、ファーストキスが……私の初めてが……あああ〜」
一瞬もニ瞬も遅れて顔真っ赤──うああああ!
「イヤがってねえなあ……おまえ」
そんなギザニヤリをお見舞いされて〜!!
「い、いや、なんかじゃ……っでも……頭、ぽけっと……して……」
もうどうなっちゃうの!?
「初めてなあ……そりゃバカ処女パンツだし、しゃーねえな?」
「うう……! ありのまますぎる……!」
あ、影浦さん、こくっと、コーヒー飲んで。──
「初めてなんだろーが? 笑えるぜ」
「んな……っひ、ひどいですよそんな言い方〜!!」
んもう! もう〜! 影浦さんてばあ〜!!
「あ? 笑えんだろーが、お前、俺しか知らねーんだろ? こっちは気分いいに決まってんだろーが?」
う──あ──そんな、卑怯なほどのお言葉を……い、ただきました……あああもう〜!
乙女ゲでさんざんピュアってた時と全然違う実弾ガンガンくるよもう〜!!
だってファーストキス──好きになっちゃった、影浦さんと。
「そ、そう言ってもらえたら……嬉しい、けど……っ」
「じゃあさっさとコーヒー飲めや、そろそろ温くなってんだろーが?」
「あっ! 私も広報室に行かないと……っごちそうさまです……っ」
ん、まだちょこっと熱いけど、ごくごく飲んで。──
「あ、ごちそうさま、でした、影浦さんの缶も私、捨てて、いきますので……っうぁあっ!」
あ、缶、ころってなっちゃって──。
影浦さんが突然引っ張るから〜!
「影浦さ……っうあっ!」
「うるせーんだよ黙れ」
引き寄せられて、胸板にすとん。
あ──影浦さんの心臓の音、ちょっと、速い──。
「影浦、さ……」
うそ、ちょこっとだけ、一瞬だけ、頭、ふわっと撫でられたなんて、信じられないくらい。──
でも、ほんとは優しいところあるってもう、知っちゃってるから嬉しいだけ。
嬉しすぎるよ、影浦さん。──
「拒否ったら噛み付いてやろーと思ったのによ?」
もう、そんなドエス、やっぱり仮なドエスってわかっちゃってるくらい、今は知っちゃってる。──
膝枕してくれた優しさも、温度も、ぶっきらぼうなのに撫でた手つきは優しいことも、キスの繊細さも。──
影浦さんが好き。
「拒否なんか、できるわけ、ないよ……」
温度もほっぺも全身熱くて、もってかれちゃってる。
「影浦さんが好きです……っ」
出会っちゃって知っちゃって、いっぱいいっぱい、好きです。
「影浦さ……いっ、あっ、のっ」
「あ?」
「うあああああ頭ぐりぐりの刑ですか〜!?」
「うるせーんだよ触らせろ」
嬉しくって逆らえないとか、順調に好きになりすぎてるよ、もう。──
「……っはあ……っもう、行かなきゃならないのに、刺激強すぎです……」
「さっさと缶拾って行けバァカ」
「ひどい! けど拾っちゃうんですよもう〜!」
そう、影浦さんが頭ぽんって一瞬だけして”くれた”って思っちゃう私は順調にドエス(仮)な影浦さんに
はまりすぎて、やっぱりコーヒーの缶を二本捨てて、ファーストキスが影浦さんでよかったって思った。


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