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傘はいずこ──二口 上の続き 14
今週は晴れ続きだったが。──
ある日、雲行きが怪しくなったとは、教室の窓から見上げた二口ははっとした。
「おい、雨、降るんじゃね?」
「お、そういえば──これは一緒に相合傘の約束果たせる時が……! ゴゴゴゴゴ……」
「自分で効果音つけてんじゃねーよ。しかもゴゴゴってなんだよソコはドキドキとかそーいうのだろ」
そう、降り出しそうな雨。──
できれば、部活の終わりまで降っていてくれやだなんて願うとは二口は自嘲する。
「……タダの相合傘にんな期待したことねーよ」
──カミナリ様も是非是非頑張ってくれや、と。
「……私も」
「ハァッ!? おまえも!? そんなにかよ!」
そのデカイリアクションに鈴花が驚いたけれど、笑顔になった。
「だって、早く使いたかったの──しかも、相合傘できるとか、ウレシーじゃん?」
そんな笑顔に。──
「そこはお前、ウレシーじゃなくて嬉しいとか可愛く言えっつーの」
口はそうでもそわっとしているらしき彼。
「もし降らなくても、ちゃんと待ってるから、部活が終わるまで」
「おう」
雨は精一杯、降り続けた。──


雨は降り続け、部活が終わったなら、二口は鈴花に駆け寄った。
「今、着替えてくっから待ってろよ」
「うん、お疲れさま」
そう、鈴花は放課後図書館に行き、頃合を見て体育館に来たなら、バレー部の練習を見学がてら、待っていたのだ。
「船津さん、ドリンク補充手伝ってくれてありがとうね」
「ううん」
マネさんと鈴花が女子同士で挨拶していて、部室へ戻ろうという二口がちらりと見やっていた。
──あいつ、手伝ってくれたんだ、へえ。
そう思いながら。
「……っあの人、マネージャーやってくれないんスか!?」
その元気のいい声に、茂庭が苦笑した。
「いや、あの彼女は二口を待ってただけだしな」
「ええっ!? そうなんスか!? 二口センパイの彼女だったんスか! マジすか! カワイイじゃないっすか!
羨ましいっすよ二口センパイ!!」
二口がふるふる肩を震わせていた。
そう、体育館をただいま出ようとしていたのだが、いくら十数メートル離れた距離に今は居るとはいえ、鈴花には
聞えているだろうし、鈴花もどうやらマネージャーに「やっぱりそうなんだ」とかなんとかにこやかに言われてる
っぽいし、鎌先先輩はおもしろそうな顔で見てくるし。──
「うっせー! 俺の女だしちょっかい出すなよお前!」
しんとした。──
二口は自分で唖然とした。
「いや、悪り、黄金……」
「イッ!? そ、んな、スンマセンしたッ!!」
「いや、マジでいーから気にしとくな……」
額を抱えてしまう。──
かわいい彼女で羨ましいと言われて、俺の女に手を出すなだなんて。──
そこは余裕で、カワイイ? ハァ!? ま、あいつの好さわかってんの俺だけだけど?
とでも言うつもりが──。
「二口が照れている! ブホォ!」
「すみません、マジ、いっぱいいっぱいなんで、からかわないでくださいっス……」
鎌先も首を傾げたほど、二口は参っている様子で。
「さ、雨も降ってるし、さっさと帰ろう。二口は彼女と一緒に帰るんだろ?」
「……ッス」
茂庭にこくりと頷いたのだった。


「あーあ、二口にだけ彼女かよ! クオラァ!」
「鎌先先輩も作ったらいいじゃないスか」
「うっせァアー!」
「おまえら部室鍵しめるぞー」
男子バレー部員がぞろぞろと出た。
「うわーやっぱりまだ降ってるな。傘ない奴は部室の置き傘持ってけー風邪引くなよ」
「ウァーイス!」
そんな中、二口だけは傘を持たず、さっと走り出した。
「お疲れっした」
「おう」
「青根わり、予告通りあいつ送ってくわ」
いつも大体一緒に帰る青根にそう言えば、彼はこくりと頷いていて、さあ、走り出した。──
「青春ですなー」
パンタロンが見送った、その先には駆けてゆく二口の背中。
二口が目指す先にはあの傘、自分が鈴花に似合うと思い、選んだ傘、それがこの暗い雨の中、どこか眩しくて。
「……っわり、待たせた……っ」
息切れすれば、ほんのり濡れた体をすっと傘に守られた。
「お疲れ様、一緒に帰ろう」
その笑顔に、癒された。──



まずは、二口は口を尖らせた。
「あのよ……せっかくの初めての相合傘ですよ船津鈴花サン。なのにんで、お前が差してんのそんな背伸びしながら」
鈴花がむうっとした。
「部活で疲れてる彼氏にこのくらい当然でしょうが!」
「傘も持てねーなら歩けてもいねーよ!」
思わずガッとつっこみ、奪った傘。──
二口が「おらよ」と差せば、ようやっと、カップルらしい構図が雨の中を歩んでいて。
「……ったく、気ィ遣ってんじゃねー。それに俺が……してーんだよ、こうやって、送ったりとか……お前、俺の女、だしな……」
雨の音がどこか遠いほどかぁっとなるなんてらしくない。
言い聞かせる二口を鈴花が間近で見上げていた。
「あの元気な後輩君に思いっきり言ってたもんね」
「あ? おう、やっぱ聞えてたかよ、必死になってカッコワリィとか思っ……」
──たんだろ。
と言いかけて二口ははっとした。
そうだ、俺のカワイイクソナマイキな彼女は──こいつは、きっとそうは言わないだろうと。
「て、ソコまで思ってねーだろーけど、お前は」
「嬉しかったよ。──俺の女って、言ってくれて」
微笑みが見上げれば、この暗い道、雨の中、傘の下、二口は温もりを奪って共有したくなる。──
唇が近づいて、鈴花がぴくりとして、またもはっとさせられた。
「……っ悪り、こーいうの、まだ……だよな」
──アッレェ!? 俺ってこーいうキャラだったっけ!?
天使か悪魔かが脳内でツッコミを入れるも、わかるのは鼓動がヤバイ、それだけ。
「そうなの……? 私は……定石はわかんないけど……」
「ハァ? そーいうんじゃねーって、ただ、付き合い始めたばっかだしよ」
「それが理由?」
「……っだから……っ突っ走って嫌われたくねーんだよこっちは! ここまで言わせるとかお前……っあーもう」
傘の柄をぎゅうっと握り締める大きな手。
鈴花はふと、手を伸ばして──触れた。
「……っなんだよ」
「嫌いになったりなんか、しない。脈──触ってみる?」
また初めて見た表情、こいつが、鈴花がこんな必死に懇願するように、そんな顔するなんて知らなかった。
このまま、傘なんか放って、抱き締めてしまえば、濡れさせてしまうけれど、抑えられない。
「脈よりこっちだろ──」
そう、唇に、唇で触れたい。
引き寄せるほどもないこの距離の中、両手で鈴花の肩を掴めば傘はほろりと落ちゆく。──
「センパーイ! 傘、落としちゃってますよ! 彼女さんの傘っスかコレ! どうぞ!」
二口はフリーズして、鈴花は瞑りかけた目をぱちんと開き、親切でとても元気のよい後輩くんを見た。
彼はまるで悪気もへったくれもなく、傘を差し出してくれていて、二口はというと、ぐぐっと肩を震わせていて──。
鈴花は気が抜けて、ふふっと笑った。
「はい、どうもです。こがね……くん?」
「黄金川ッス! 失礼しまス!」
「はい、また」
彼は元気に走って行ってしまい、鈴花がくすくすと笑って見送っていた。
「あ、あの、なんかごめんなさいっ」
バレー部員の中では少々小柄な彼がぺこりとして黄金川を追いかけてゆく、それにも鈴花はにこやかに手を振って。
「いい後輩さんたちだね」
「ァア!? そりゃそーでも今はよー! 後、もーちょっとだったっつーのに、完璧タイミング見失っただろが……」
二口が改めて傘を差せば鈴花がまだふふっと笑っていて。
雨はしとしと──小雨に変わりそうだから、肩と髪はほんのりと湿っただけ。
「ところで、堅治はどっち? 家」
「俺はまだまだ……って、俺がお前を送ってくっつーの!」
「でも、疲れてるだろうし」
「だからーお前ソコはよ〜!! 夜道アブネーだろが!」
「危ないって……私を襲うヤツとか? そんな物好きいたら見てみたいわ」
「俺も見てみてーから送るわ」
「ふふふ、まあ、どんなヘンタイだろうがエンジェル鈴花に敵うわけないけどな……」
「男ナメんな! いざとなったら、こーやって引き寄せたりできんだよ」
そう、ぐいっと引き寄せられて、この傘の下──鈴花の額が、二口の胸元にすとんと。
「うわ、近……っ」
「イヤかよ、さっきはもっとスゲーことしよーとしたってのによー」
すごいこと、それはキス。
タイミングは失ってしまったけれど──。
「ねえ、もっとすごいこと、もうする気なくなったんだ……?」
「……っハァ!? んなワケ……っただ、初めてお前と……だから、俺だって大事にしてーんだよ!
あーもう……お前と居ると、余裕ドコだよマジで……出張でもしてんのか……」
「私なんか、全然ない……っ」
二口の袖をきゅっと握れば、見詰め合った。
「お前が?」
「脈、触って、みる?」
二口がふっと──優しい目をした。
──きっと、私しか見た事ないって思っていい?
そんな眼が見上げたなら、重なったのは小さな小さな温度。
「……っ」
抱き締めるから、傘はいずこ。
必死になれるから、雨など気にならない。
二口がそっと唇を離せば。──
見上げてくる鈴花の目が好きだと訴えるから、袖をきゅっと握るから、また抱き締めた。


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