[携帯モード] [URL送信]


おれの為に──二口 上の続き 4
翌日の昼休みだった。
飯を食ったり、友人と話したり。──
「そういや今日、"二口くーん、堅治くーん"、な先輩たちきてなくね」
何気ないそれに二口は、「さあな、いいんじゃね」と返すのみ。
──バレー部て強豪なんでしょ? それに、所詮ウチの男子だしィーバカばっかじゃん?
とかなんとか、好き放題言ってくれていた先輩女子たち。
思い出せば溜め息だ。
「なんだよ二口、その気ないならこっちに譲って!」
「やめとけって、免疫ねーと遊ばれっかもしんねーよ?」
「二口は顔もいいし免疫あんじゃねーのかよ!」
「あ? どーせバレーバカだし、そーいうのいーだろ」
会話しながら──
二口はつい、隣の席の鈴花を気にしてしまう。
というのも、
──おまえ、昨日なんだったんだよ。
今朝だ、そう訊いてしまえば、
──え? 暇だから練習見にいってみただけって言ったでしょ。
と、言われて、
──いつの間に帰ったんだか知らねーけど、暗くなるまで見てたんじゃねーのかよ。
その辺りをちょっと心配していたから、そう訊けば。
──は? そんな遅くまで? そこまで暇じゃないんだけど……。
と、言われて、このやろう! となってしまい、結局、本当に言いたいことは言えずじまいだった。
青根が言うみてーに、おまえはマジで安心したのかよ、とか、心配して見にきたんじゃねーのかよ、とか。
──あーこいつたぶん、もしソレ訊いても、はあ? うぬぼれてるんですかカタオサくん! とか言ってきそうな気にさせられて。──
そして現在、昼休みに至る。
鈴花は黙々と飯を食い終わり、本を呼んでいる様子。
二口はやはり気になり、友人との会話を切り上げ、隣の席に戻った。
「……おい」
「ん?」
鈴花が本を閉じ、目を合わせた。
「しつけーけどな、昨日のこと気にすんなよ。今日もあのセンパイ達こねーし、俺をからかうのも飽きたんだろ、きっと」
──こっちも、もー相手にしねーし。
と言ったなら、鈴花がじっと見つめていたので何かと思えば。
「私はあんたのこと、けっこう好きだけど、迷惑?」
なんなんだ、天変地異でもおこりやがるのか!?
二口が恐ろしげにぎょっとした。
「は……あ? なんだよおまえ、いきなり……」
「迷惑なのかどうなのかきいてる」
あまりに直球で、いきなりで、じいっと見つめられて。──
取り繕いは、見抜かれそうなほどにじいっと。
「迷惑、って、おまえ……いや、ちょっと待てお前、マジで俺」
「ちなみに、そんなに好きってわけじゃない」
ぽかーんとさせられた。
「なんなんだお前!」
その怒声に、クラスの連中もちょっと注目してしまった。
鈴花はたんたんと言い放つ。
「ただ、けっこういいやつだと思ってる。──バレーうまくて、見た目もかっこいい、昨日見に行ってみれば、
ちゃんと頑張ってて努力してて──それに、人の心をないがしろにしたりとかはしないんじゃない。今まで
あんたと話したぶんの印象じゃ、そう思う」
はっきりと、言いやがる。──
二口が慌てるほどに。
「いきなりホメやがって……なんだソレ……」
「迷惑なのかどうなのかきいてる」
──クソナマイキ、クセモノ、同族嫌悪、いけすかない、なのに、その筈だったのに、
こんな風にまっすぐに”いいやつ、かっこいいやつ”と言われて。──
二口がついに叫んだ。
「迷惑じゃねえよ! 別に! なんか企んでんのか!?」
「企んでない」
「そうかよ!? そうなのか!?」
鈴花がこくっと頷いた。
「ただ──私みたいにあんたと相性悪いやつでも、あんたのこと認めてる。確かにバレーが
好きなんだとちゃんとわかった。ああ、ちがうな、自分の好きなものに全力で向き合えるやつなのだと知った」
二口はどうにか、ほろりと言葉を取り繕うように、紡ぐしかない。
「認めてるとか……んだそれ、上から目線じゃねーか、だからんだよ、なんだっつーんだよ……」
同族嫌悪とはなんだったのか、どこかで思う。
こんなにまっすぐはっきり、おまえは凄いやつ、と言ってくるやつ。
隣の席の船津鈴花。
「だから、二口堅治くんは、相性の悪い私すらすげーやつって思えるくらいすげーやつってこと、自信もっていい」
ああ、もうこいつ、この女──そう胸中で響いたなら。
「なんなんだいきなり……自信持っていいとか、アレか、上から目線か! やっぱり!」
「それならそれでいい。私の言いたいことは以上です。本の続き読んでいっすか」
「く……っやっぱりクソ……っ生意気つか……」
嬉しいんだかムカつくんだかよくわからないぐしゃぐしゃな気持ち。
そう、引っ掻き回してくれやがる船津鈴花。
二口は当然、参ったはしたくない。
「言いてーことだけ言いやがって……つうか何だよいきなりホメまくりやがって! もしかしてアレか、
俺が昨日の件で落ちてるとでも思いましたか」
「昨日、練習熱心なところを見ればそれもない」
「じゃ、やっぱ心配して来やがったのか昨日、体育館に」
「自惚れてんじゃねーぞ……」
げんなりとしたツラをされて、そんなことを言われて、二口はもう、お前〜! と、盛大に叫びたい。
「く……っうるっせーなそう思っちまったんだよこっちは……っ」
「私は私で、確かめたいことがあったので行っただけだよ。結果、見に行ってとてもよかった。
カタオサくんとふざけて呼ぶのはもうやめようと思えた」
二口は自分の頭を抱えたい。──
よくはわからんが、船津鈴花というこいつなりの褒め言葉かエールか、いや、それもちげーか、とか思いながら。
ただ、わかったのは、船津がちゃんとわかっていることだ。
普段はチャラくともなんでもいい、ただ、バレーにだけは熱意がありあまっていることを。──
だからまた、憎めないなんて。
ふと気付けば青根がちらり、見ていて、「あー心配ねえよ」とアイコンタクトを取れば、青根はこくっと頷いた。
ふうっと息をついて。──
改めて隣を見れば、風貌だけは地味な筈のそいつは、今は静かに本を読み始めていた。
つい、横顔を見てしまうから二口は自分に呆れる。
──あーあ、あんま見てっと、この女はまーた、”なんなんですかカタオサくん、視線鬱陶しいんですけどカタオサくん”とか
生意気なことを言いそうだ、なんて。──
でももう、カタオサくんとは呼ばないらしい。
だから二口はふうっと思うだけだ。
──いちいちヘンな女、実はいいヤツ?
だなんて──
「あのよ、褒めるとか要らねえけど……でも、お前の気持ちはなんつうか……」
二口がぎょっとしたのは、鈴花が噴いたからだ。
「ブフッ! なんか言いたくもないおれい言おうとしてるとか笑える! プフっ!」
「てめ〜! 俺はありがてーと思ったんだよ!」
教室に入って来た先生が注意しようとしたが、二口はすとんと、落ち着いた。
いや、放心状態か。
「うん」
鈴花が女子らしくふわりと微笑んだ様を初めて目にして。──
なにかを持っていかれた感覚にふらりと。



放課後の部活風景は変わりない。
ただ、
「お? 昨日の女子来てねーのかよ」
鎌先先輩にそう言われ、二口は「はあ」と零した。
──私は私で、確かめたいことがあったので行っただけだよ。結果、見に行ってとてもよかった。
カタオサくんとふざけて呼ぶのはもうやめようと思えた。
そんなやつの言葉を思い出して。──
確かめたいこととはよくはわからないが、やつはやつなりに、心配したからこそ、心配するに値するやつか否か、確かめにきたのだろうか。──
──かっこいいくんでも、やっぱ部活バカなんじゃん? バレー部て強豪なんでしょ? それに、所詮ウチの男子だしィーバカばっかじゃん?
あのセンパイ女子にそう言われた自分を。
そう思えばどこかおかしいのは、心配に値するやつか否か判定なんて、やっぱり上から目線だと思うからだ。
けれど、
「そんな暇じゃないらしいっすよ」
そう答えれば、
──は? 遅くまで? そこまで暇じゃないんですけど……。
とかクソナマイキぶりが思い出されるも、練習を見に行き、とてもよかったと言っていた女の笑顔が思い出される。
そう、今日初めてみた、女子らしいふんわりさを。──
「お、おい、二口……っ二年の子、おまえと同じクラスかわかんないけど、大丈夫だったのか……っ」
「え?」
主将会議から戻ってきた茂庭の様子に二口が目を真ん丸くした、鎌先が首を傾げた。──
「二年の……って、誰スかね……」
茂庭は身振り手振りで忙しなく心配そうだ。
「え!? 二口と仲良い子、とかじゃないのかっ!? だって、今日、三年の女子トイレで二口のことでもめてたとかって……」
鎌先が首を傾げた。
「お? なんだなんだよ、二口の始末が悪かったからじゃねーのか!」
よくはわからんが、女同士でもめさせる男子力とは、いくらもてても男として──と、鎌先は男らしく思うのだった。
そして、
「そういやクラスの女子がなんかトイレで揉め事起こしたとか騒いでたけど二口絡みだったのか」
笹谷がこりゃまた、と言った。
茂庭はともかく、あんまり揉め事起こすなと心配そうで。
「さっき、主将会議でそんな話聞いたんだけどな……その二年の子が、三年女子トイレに怒鳴り込んだとかって……
いや、経緯はよくわかんないけど……二口を巡って、女子同士の争いが、とかな……男子バレー部にも色男が居る
んだなとか言われちゃって……」
「おいおい、二口を巡って女子のケンカとかマジか〜!」
鎌先先輩はどこか悔しそうでもあり、楽しそうでもあった。
「二口知らないんだな……っ? もう、凄かったらしいぞ。もう、囲まれてんのに、二年のその子、大暴れだったとかな……
茶道部の部長って女子だろ? たまたま見たらしくて……”部活バカがどうした”とか……ああ、あと、”ナンパで硬派気取り?” だったかな……
”誰がナンパだバカにしてんじゃねえ!” ってそう言って、くってかかってたって……」

二口はただ聞いていた。

耳に蘇るのは心無いあのセンパイの何気ない見下し。

──かっこいいくんでも、やっぱ部活バカなんじゃん? バレー部て強豪なんでしょ? それに、所詮ウチの男子だしィーバカばっかじゃん?
──ナンパそーで硬派気取り? 気取ってんのに硬派気取り? あははわかんね! あーあ、堅治くん、顔はいんだけど、意外とノリ悪いよな〜。

それを耳にしたのは自分と、あのクソナマイキ女、船津鈴花だけだ。──

「そっすか……っあのバカ……」
つい、ボールを持つ手に力が入った。
二口の様子に鎌先もさすがに追いうちはかけなかったが。
「おまえの為に怒る女が居んだな!」
と、豪快に笑っていて、二口は口を尖らせた。
流血沙汰にならなくてよかったんじゃね、と笹谷センパイに言われて、頷いたなら、茂庭がほんとによかった、と
ほっと胸を撫で下ろしても、まだ心配そうだった。


前へ次へ
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!