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言葉を紡いで(綱+リボラン)


 辛い恋を一人必死に耐えるあの方をいつも見てきた。
 小さい自分にはその辛さを一緒に背負い込むこと、頼ってもらうことは出来なかった。だからいつも、あの方が少しでも辛いことを忘れられるようにと、馬鹿をしてはあの方ボンゴレ十代目――を困らせていた。
 しょうがないな――そう言って困ったように笑うあの人の支えになれたかは分からなかったけど。
 そんな幼少時代を経て十五となった今も、恋というものの先に一体何があるというのだろうか分からないまま。
 あの方も相変わらず辛い恋を引きずり続けている。

 傷付けられて、それでも尚、あの人たちを愛し続けるボンゴレを自分は尊敬すると同時に理解が出来なかった。

 自分はリボーンの暴力的で冷たい言葉に耐え続けることが出来なかったから。

「ランボ…起きたの…?」

 ふと大きなため息をつくと同時に、綱吉からの言葉が降ってきた。

「ボン、ゴレ…?」

 近くに綱吉がいることを知らなかったランボは驚きつつも顔を向けた。
 そうすれば、困ったように笑う見慣れた綱吉が目にはいった。

「…大丈夫?」

 そうだ。昨日、一方的にリボーンへ別れの言葉を投げつけた自分は苦しくて苦しくて、綱吉の都合など関係無く部屋に駆け込んでは泣きついてしまったんだった…。想い人、雲雀恭弥か六道骸――どちらかと会う約束をしていただろう彼に。
 あぁ、なんてことをしてしまったんだろう。彼の目には微かに隈が出来ており、気付きたくなかったけれど、泣いた後のようだった。
 ソファーで着替えをしていた綱吉に抱きついたはずなのに、ランボは今ベッドの上にいた。泣きつかれて寝てしまったところをベッドに運んでくれたのだろう――とランボは思った。

「…すみ、ませんでした。」

 その言葉にはいろんな謝罪が含まれていた。
 きっと自分のせいでボンゴレは、昨日の夜の予定をキャンセルしたんだ…――
 気付きたくなかった。昔の自分だったらそんなボンゴレに気付かずに、迷惑をかけたことに対して悪くないと言い張り馬鹿をしていたに違いない。そしてそんな自分にボンゴレは、まったくしょうがないやつだな――と苦笑をしてはあの優しい手で頭を撫でてくれただろう。
 十年で自分たちの間はこんなに変わってしまった。それが、やりきれなくて、歯痒くてランボは自分の手をぎゅっと握り締めた。

「…謝んないでよ。ランボは何も悪いこと、してないんだから。ね?」

 そんなランボの手を昔の頭を撫でるような優しい手でそっと包むと、隈の出来た泣き腫らした目で綱吉は微笑んだ。その姿にまた、ランボは謝罪の言葉を口に出しそうになった。

「…はい」

 そんな顔をさせたくないのに、そんな顔しかさせることの出来ない自分は無力だ。あの二人だったらこの顔を笑顔に変えることが出来るのだろう、そう考えてまたランボの手に力が入った。
 力が入ったことに直ぐ気付いた綱吉はランボの手から自分の手を離し、そのままランボの背中へと回した。

「ランボは、まだ十五なんだから…そんなに無理しないでいいんだよ。大人のように物分かりがよくならなくていいんだ。嫌なら嫌、辛いなら辛い、我が儘だって言っていいんだよ」

 綱吉は、あやすように定期的なリズムで背中を優しく叩いた。小さい頃は九代目によって封印をされていたけれど――超直感という欲しくもない能力を生まれながらに持っていた、綱吉はランボの考えてることが手にとるように分かってしまう。お前のせいじゃない――綱吉はそう伝えるようにランボの背中を優しく叩き続けた。

「ランボ…。ランボが昨日言ったこと、あれが心の底からの本音なの?」

 暫くして、落ち着いたランボに綱吉は静かに尋ねた。カーテンからの陽射しは眩しくなり、日は昇り始めていた。

「……ボンゴレ、」

 昨日言ったこと――それはランボがリボーンに別れの言葉を投げつけたというもの。
 五歳の頃からの付き合いの二人が、恋人として付き合い始めたことを聞いた時は、やっぱりなという感想と良かったという感想を抱いたっけと綱吉はあの時のことを思い出した。リボーンはあからさまにランボを苛めてるし、ランボはランボで苛められてもちょっかいを出し続けてたし。リボーンは、好きな子を苛めるタイプだよなとリボーンにわざとらしく言ったこともあったっけ。
 両想いなのにくっつかない二人を歯痒くて、自分のことも後回しで何度もランボの背中を押したり、リボーンに文句を言ったりもした。だから二人がくっついた時は自分のことのように嬉しかった。
 なのに、その二人が別れるなんて。綱吉はどうしても納得が出来なかった。

「…はい。もう、苦しいんです。こんな苦しいのは嫌、です。リボーンは…」

 好きじゃないんです、自分のことなんて…
 恋愛をする上で、自分を愛してもらえないことほど辛いことはないと思う。

「愛するだけじゃ、恋愛にはならないと思うんです。愛して愛されて、そこで始めて恋愛が出来るんじゃないんですか。これは子どもの考えですか?間違ってますか…?」

 ランボの言葉に綱吉の胸はズキズキと痛んだ。

「…うん、そうだね」
 お前の言う通りだよ、ランボ。俺の恋は恋愛になることはないんだ。

「ボンゴレのその恋は、恋愛にならないままで、それでいいんですか…?なんで、そんな辛い想いをしてまで、あの人たちに執着するんですか?…大人だから、辛いと苦しいと我が儘も言わずに耐え続けるんですか?」

「……ランボ…」

「俺には無理です…。……昨日、仕事から帰ってきたリボーンに無理矢理やられ、…。あいつは毎回そうなんです。毎回毎回、体だけなんです。愛してるとも言ってくれない。こんな苦しい思いをするなら」

「もういい!分かった、分かったから。もう何も言わなくていいよ。…辛かったね」

 ランボの悲痛な叫びに、綱吉は自分を見ているようだと思った。俺も素直にこうやって泣き喚けば、少し心がすっきりするのかな。そう思っても心が拒絶する俺はランボのように素直に気持ちを吐き出すことはない。

「ねぇ…ランボ。俺はもうこういう生き方、愛し方しか出来ないんだ。だから、恭弥さんや骸さんから愛が帰ってこなくたって平気。全然辛くなんてないんだ」

 嘘だ。嘘に決まってる。それなのに、なんでこの人はそんな顔で嘘をつくんだろう。そんな、幸せそうな顔で。見返りの愛を求めない人なんているわけがないんだ。

「…あなたはいつも、嘘ばかりですね」

 そう、優しい嘘ばかり。だからあの二人に気まぐれで見放されてしまうんじゃないですか。自分にまで利用されて。

「はははっ…嘘って。酷いな、ランボは」

「ボンゴレは嘘つきですっ…!自分自身に嘘つくの、止めてください……」

 その言葉に綱吉はビクッと体を揺らした。それでも気付かれないように、微笑んだ。

「ランボ、ありがとう」

 悲しそうに微笑んだ綱吉に、ランボは言ってはいけないことを言ってしまったと後悔をした。

「でも今は、ランボも自分に素直になりなよ。リボーンのこと、好きなんでしょ」

「っ!でも、リボーンは…」

 ランボは綱吉の視線から逃れるように、顔を背けた。

「リボーンじゃなくて、ランボの気持ちは?」

 綱吉は髪の毛を優しくすきながら、ランボをあやすように話しかける。

「……すき」

 少しの沈黙の後、顔を反らしたまま小さく呟いたランボの言葉にふっと微笑んむと、よくできました――と再び頭を撫でた。

「ランボ、リボーンはランボのことちゃんと好きだよ」

 ランボの頭を撫でながら綱吉は目線を背後の扉に向けた。

「…そんな、」

 ランボの言葉が終わる前に勢いよく扉が開いた。

「リボーン、どうしたの?」

 笑顔で迎えた綱吉とは正反対に、リボーン、その言葉にランボは綱吉の服をぎゅっと握りしめゆっくりと呟いた。

「…な、なんで?」

「やっぱりここか。おい、ツナ。こいつを甘やかすな」

 ランボを視線に捉えたリボーンは一歩ずつランボに近付いていった。リボーンが近付く度に恐れるように綱吉の洋服を握り、ランボは顔を綱吉の胸に埋めた。

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