また、逢う日まで 哀しいくらいにいつも、いつも、つかめない。 それが俺の愛した人たち。 また、逢う日まで 「な、んでなんでですか?なんで、なんで…!」 和に囲まれた広い部屋に座る雲雀に、綱吉は襖の前で歪む表情を露にしていた。同じ言葉を何度も繰り返して。 「君はさっきから、それしか言えないのかい?」 そんな綱吉の表情も見ずに、雲雀は綱吉を拒絶した。 「俺は…認め、ません!そんなこと絶対にっ…!」 「ワォ!君は馬鹿かい?君の許可なんて必要ない。そんな指図を僕はうけないよ」 今にも溢れそうな涙を必死にこらえ、綱吉は雲雀の元に一歩一歩近づいていった。 「どうして…雲雀さんなんですか?」 そんな危険なこと どうして雲雀がしなくちゃいけないんですか そう言う綱吉に雲雀は口元を緩め、綱吉を見た。 「それは僕が望んだことだ。君にとやかく言われる筋合いはないよ」 その言葉にとうとう堪えていた涙が零れ落ちた。 「ひ、ばりさんも…雲雀さんも俺の前から消えようとするんですね」 骸と同じように そう言いかけて、綱吉は慌てて口を閉じた。 骸と雲雀を天秤にかけること。それを雲雀は一番嫌っていた。 それは十年前も今も一緒だった。 「もってなに?君は誰と僕を重ねているの?」 言葉の選択を間違えていたことに今更気付いても、もう後の祭り。 立ち上がり綱吉を見下ろした雲雀の表情には怒りの色が見えていた。 それでも、今日だけは譲りたくなかった。 もし今日ここで諦めてしまったらこの人とは会えなくなるかもしれない。そんなあってほしくない思考ばかりに行き着く。 「…囮になんてやめて下さい」 雲雀の質問に答えない綱吉にイラついたのか雲雀は顔を背けた。 「十年前からきた君に何が分かるの」 「分かります…!ついこの間、十年前からきたバカな俺にだって分かります。ミルフィオーレの強さ…囮になることの危険性だって!」 いつもなら反抗することのない綱吉の叫びに、雲雀は思わず顔を再び綱吉へと向けた。 「今の俺では、まだ…みんなを守ることなんて無理かもしれない。でも、俺は誰も失いたくはないんです!それでも…それでも、雲雀さんが囮になるというのなら、俺が囮になります」 その言葉には、強い揺るぎない芯があった。 雲雀は、近くにいた綱吉を今までにないほど優しく抱き寄せた。 「残念だけど、それは無理だよ。キミは誰よりも生きなくてはいけない。足元にどれだけの亡骸が積まれようと。仲間が…死のうとね。どんな時でも、自分の命を最優先させるんだ。ボンゴレのボスとして、キミが生きなければ、ボンゴレそしてボンゴレの下にいる者たちをどう守るの。」 キミさえ生きていれば、ボンゴレは死なない 優しい腕の中、降ってきたのは残酷な言葉だった。 「…っ!そんな、こと…」 涙を流しながら左右に首を振った綱吉は、優しい雲雀の腕から一歩また一歩と後ろへ下がっていった。 「出来なくても、するんだよ。キミがあの時死ななければ、こんな未来にはなっていなかったんだ。キミはいつだって、勝手だ。勝手に死んで、勝手に託して。超直感だかなんだか知らないけれど、こうなることが最善だと考えたのかもしれない。けれど…残された方の気持ちはどうなるの」 「…ひ、ばり…さ、ん…」 雲雀の声は震えていて、綱吉は泣いているのかと雲雀の顔を見つめたが、その瞳に涙は浮かんではいなかった。ただ…悲痛な表情を隠せずに俯く姿があった。 そうだ。 俺が、未来の俺が…この人たちにこんな未来を背負わせてしまったんだ。 「…でも…やっぱり俺にはっ!」 「綱吉!」 雲雀の叫びに綱吉は身を震わせた。未だ大きな瞳からは涙がポロポロと落ちていた。 「キミは未来のキミに今を託された。この作戦は君次第。僕は囮となり敵の目を欺き、キミは敵地へ向かう。それが最善の策なんだよ」 「…そんな…ッ…」 あやすように唇にキスをされたら、もう反抗なんて出来なかった。 「それに…僕にとって囮なんて簡単な仕事だよ。キミと違って強いからね」 雲雀は綱吉に微笑みかけると、何事もなかったかのようにあくびをしながら布団へと入っていった。 「…眠い……僕はもう寝る」 そんな雲雀を横目に、どうすればいいのかとあたふたする綱吉だったが、本当に寝ようとする雲雀の名前を呟いて自分の存在を図々しくもアピールした。 「…雲雀さ、ん」 「………」 反応はなかった。しかし綱吉は諦めなかった。 今から呟かれる願望を、断られるかもしれない。それでも綱吉は言葉をつむいだ。 「……一緒に寝ても、いいですか?」 沈黙が続きギュッと目を瞑った綱吉を雲雀は一度だけ瞳に映し妖しげに微笑んだ。 「好きにしなよ」 「はいっ…!」 それは雲雀にとって了承の言葉だった。 綱吉は、ぱっと明るい笑顔を咲かせ、ゆっくりと布団へ向かった。 「……おやすみなさい、雲雀さん」 「ん、おやすみ…」 布団の中は狭かったけど、暖かくてとても居心地が良かった。 回された強い優しい腕を感じながら、綱吉はゆっくりと瞳を閉じた。 目が醒めた時、 この暖かなぬくもりは消えている。 そう超直感が告げていた。 でも、もう迷わない。 十年後の俺が信じた未来を俺も信じるんだ。 どんなに辛く苦しい状況下だろうと耐えて乗り越えてみせる。 また、この人の腕の中に還るために。 ――――― 大好き、大好き、大好き また生きて逢いましょうね… それが俺たちの約束 (20080830) |